ファンタジー編
「脊髄動物である限り、それが最強であっても避けられない事があるんだよ。
なんだかわかるか?
足りないトカゲの頭じゃわからないよな。
それが『呼吸』だ。
無脊椎動物の中にはほとんど呼吸しなくても生きていける海底火山の火口付近に生息しているバクテリアもいるらしいけどな。
最弱って言われてるスライムはな、部屋全体に広がって獲物を待つんだ。
するとな、まるで透明のスライムはそこにいないかのように見える訳だ。
こういう風にな」
俺は追いかけてきたドラゴンをひらりと部屋の前でかわす。
勢いがついていて止まれないドラゴンはスライムで満たされた部屋へ突っ込む。
「結界を張れ。
知能のそこまで高くないドラゴンは結界を力ずくで壊すしかない。
結界師がドラゴンが部屋から出てこれないように10分粘れば、ドラゴンは鼻や口にスライムの死骸が詰まって窒息死する。
あのデカい図体を維持するため、ドラゴンは多くの酸素を必要とする。
アイツは10分も息を止めていられない」
俺が元々いた世界でも人間は虎やライオンに力比べでは勝てない。
しかし、人間は虎やライオンより遥かに力を持っている。
それは道具を使うからだ。
頭脳を使うからだ。
猛獣などは怖るるに足らない。
有名なアニメのセリフにもある「人間の敵は人間」
結局は頭脳を使う者が最も大きな敵になるのだ。
ドラゴンを挑発して火を吐かせてガス切れにすれば、アイツは飛べないし火も吐けなくなる。
アイツは水素ガスを身体の中に貯める習性があって、だからあんな小さな翼でも大きな身体を支えて飛べるんだ。
空気より軽く可燃性の水素ガスを身体に貯めているのが、ドラゴンの強さの秘密だ。
ガス切れを起こしたドラゴンはただの木偶の坊以下だ。
俺は防火、防熱装備で固めた騎士団にドラゴンを挑発させ続け、火を吐かせてガス切れを起こさせた。
そして怒り狂ったドラゴンを唯一元の世界から持ってきたローラーブレードで逃げてスライムで満たされた部屋に誘導する。
もちろん、逃げ道はローラーブレードが性能を発揮出来るように舗装されている。
元いた世界で脅威と言われる生き物は『繁殖力の高い生き物』『知能が高い生き物』つまりドブネズミのような動物であって、ドラゴンなんかがいても、動物園の人気者くらいにしかならないだろう。
なのになぜか次々とモンスターを駆除する俺はこの世界で賢者と呼ばれている。
「この世界で何とか生きていこう」と元いた世界で生業としていた『害獣・害虫駆除』をこの世界でもやろうとして、最初は『スライム駆除』から始めて、あれよあれよという間にお得意様が王国になって今に至る。
しかしヌルい。
ドラゴン退治ですら『オオスズメバチの巣駆除』より遥かに安全だ。
ある程度地位や名声を手にいれると人間、欲が出てくる。
それが「ドラゴンを卵から育てて飼い慣らそう」という計画だ。
その第一段階で「ドラゴンの巣から卵と母親ドラゴンを引き離そう」と養殖したスライムで満たされた部屋に母親ドラゴンを誘い込んだのだ。
部屋の中でドラゴンが暴れている。
縦横無尽に暴れているのではない。
苦しくて断末魔をあげて暴れているのだ。
しばらくすると部屋の中が静かになる。
ドラゴンが死んだのだ。
俺はドラゴンの巣に戻り、卵を巣から手に入れた。
父親ドラゴンに会う心配はない。
巣に父親ドラゴンが入るのは一度だけ、繁殖行為の時だけなのだ。
卵を暖めるのも、子育ても母親ドラゴン一匹で行う。
つまり、唯一巣に近付く母親ドラゴンをたった今、殺した・・・という事だ。
恐竜はトカゲより鳥に近い、それはまっすぐ下に伸びた足を見ればわかるそうだ。
爬虫類の足は横に突き出ているのが普通だが、恐竜の足は下に向かって伸びている。
この特徴は鳥と同じらしい。
そして、ドラゴンの足も下に向かって伸びている。
で、あるならばドラゴンも鳥の雛と同じように始めて見た者を母親と思うのではないだろうか?
ドラゴンの養殖に成功したら、俺は王国以上の力を手に入れる事が出来るんじゃないのか?
ドラゴンの卵から赤ん坊ドラゴンが生まれた。
赤ん坊ドラゴンは俺を見ると「ピー」と一声鳴いた。
そして、緑色の粘り気のある液体を俺の顔に向かって吐きかけた。
ドラゴンは生まれてすぐ母親だと思った動物に緑色の粘液を吐きかけるという。
粘液を吐きかけられたドラゴンは粘液を吐きかけたドラゴンを自分の雛として成長するまで子育てするという。
たまにドラゴンの子供の取り合いのケンカがあるが、それは母親が出掛けている間に卵が孵化して、ドラゴンの赤ん坊が関係ないドラゴンに緑色の粘液を吐きかけてしまったケースだ。
緑色の粘液を吐きかけられたドラゴンは母親ドラゴンとしてせっせと子育てをする。
たとえ緑色の粘液を吐きかけられたドラゴンが元オスだとしても。




