温泉編
「ようこそおいで下さいました」
宿に到着すると二人の女性が俺を出迎えてくれた。
「? この宿には女将さんが二人いるのか?」
「あぁ、こちらは番頭でございます。
で、私が女将でございます」
「へぇ~、女の番頭さんとは珍しい。
普通、番頭さんと言ったら女将さんの旦那さんが相場でしょ?」
「よく言われますが、番頭も女将である私もまだ独身でございます。
それに『美女の湯』で知られるここ、旅館『雪国』では女性だけでも安心して宿泊していただけるように女性スタッフのみで運営させていただいております」
「じゃあ、俺みたいな男の一人旅の客なんて泊まっちゃダメだったんじゃないの?」
「いえ『女性でも安心して泊まれる旅館』を目指しているだけで、男性のお客様も大歓迎でございます」
「そっかじゃあ、遠慮なく寛がせてもらうね。
まずは部屋に荷物を置かせてもらって、ここらをブラッと観光して回ろうと思うんだけど『ここだけは見ておけ』というオススメってある?」
「今ですとこの坂を下った神社方面に縁日が出ていますね。
童心に帰られて縁日を楽しまれても良いとは思いますが、御料理の準備もしております。
あまり縁日でお腹一杯にしてしまわれないようにしていただけると、我々の板前も悲しい想いをせず思う存分腕をふるう事が出来ます」
「アハハハ、じゃあお腹は残しておいてご馳走に備えるよ。
板前さんに悲しい想いをさせちゃいけないからね」
「我々の板前に配慮していただいてありがとうございます。
神社は失せものを見つける事にご利益があると聞いております。」
「特になくした物はないな・・・別に何もお願いしなくてもいいかな?」
「大事な物を無くすのはこれからですもんね・・・」
「ん?何か言った?」
「いいえ、特に何も言っておりません。
縁日を見た後は宿に戻って来て、お食事をお楽しみ下さい。
しかし、あまりアルコールは召されないで下さい。
お食事の後、当旅館自慢の『美女の湯』に入って頂きたいですので・・・」
「わかったよ。
あんまり泥酔しないように気をつけるね。
肩こりに悩んでて、温泉に入りに来たんだからね。
温泉に入れないと本末転倒で何のために来たのかわからないからね」
「ふう・・・ごちそうさまでした。
これだけ御馳走が食べれるなら、お腹を残しといて大正解だったな。
さてと・・・温泉に入ろうか。
待てよ・・・このくらいの規模の温泉旅館だと男湯の時間と女湯の時間が分かれてるんじゃないのか?
男湯と女湯が分かれてれば問題ないけど、もし女湯の時間に俺が入っていってしまったらただの変質者だぞ?
女将に聞いてみないと」
「呼ばれましたか?何か御用ですか?」
「男湯と女湯の入浴時間を聞きそびれていたんだけれど・・・」
「男性、女性の入浴時間は特に設けてございません。
男性と女性が一緒の浴場に入って恥ずかしがるのはお湯に入るまででございます」
「こ、混浴なのか・・・。
いる女性が若いとは限らないけど、ちょっと緊張してしまうな」
「緊張する必要はございません。
それでは当旅館、自慢の『美女の湯』をご堪能下さい」




