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酪農編

これは後に『伝説』と呼ばれた芸能人の前日譚である。





歌舞伎役者でもあったお爺ちゃんは時代劇のみならず、現代ドラマでも存在感ある役者として引く手あまただった。


お爺ちゃんの葬式には歌舞伎界、演劇界、映画界、テレビ界・・・などからその早すぎる死を悼んでファンも含んで、 弔問客の長蛇の列が出来た。


お母さんは女優だ。


歌舞伎の舞台に女性が立てるのは幼少の頃だけである。


お母さんが憧れた父親の姿は歌舞伎役者としてのものではなく、舞台役者としてのものであった。


お母さんは二世役者と言われる事を嫌った。


お母さんは「歌舞伎役者の娘である」ということを息子が「タレントになりたい」と言い出すまで世間に公表しなかった。


俺が「タレントになりたい」とお母さんに言った時、お母さんも、そのマネージメントをしているお父さんも反対はしなかった。


ただ「タレントになるなら全ては自己責任。


お父さんもお母さんも一切の手助けはしないよ」とだけ言われた。


だが、孫を猫可愛がりするお爺ちゃんはその限りではなかった。


俺はお爺ちゃんのコネクションでドラマにも映画にもバラエティにも出演する。


そんな俺を見てお母さんは「思い上がってはいけない。


これはお爺ちゃんの力であって、お前の実力ではない。


実力が伴わなくても仕事がある今のうちにタレントとしての腕を磨きなさい」と俺をたしなめた。


お爺ちゃんが亡くなった。


途端に仕事がなくなり暇になった。


お母さんは「一切の手助けはしないと言ったはずだ」と冷たく突き放した。


後で聞いた話だが「息子にもう一度這い上がるチャンスを作ってやって下さい」と影で信念を曲げて地方局の局長に頭を下げて回っていたらしい。


なぜ地方局なのかと言ったら「分不相応な立場をもう一度手に入れても、増長するだけで後が続かない。


地方局の地方番組から這い上がって欲しい」という親心だったらしい。


そうとも知らず俺はと言うと「最近地方局の仕事ばっかりだなぁ」などと仕事をお母さんが回してくれているとも知らず、腐った態度を取っていた。




「では撮影はじめまーす。3、2、1・・・」


「皆さん、こんにちはー。


今日はですね、ひるがの高原に来ています。


ひるがの高原と言うと皆さんにとってはスキー・スノボかも知れませんけれど実は酪農が盛んで牧場が沢山あるんですよ~。


今日は牧場で乳しぼり体験を体当たり取材しようと思っていま~す!」


「はい、カット!」


「・・・たく。


何で乳しぼりなんだよ!


俺、獣系は苦手だって言っただろう!」




「なんでアイツ、あんな偉そうなんですか?


何の芸もないクセに・・・」


「局長が若い頃、アイツの母親にこのテレビ局が世話になったんだとよ。


アイツの母親は歌舞伎役者の娘でありながら、腰が低くて二世タレントである事を感じさせなかったらしいぜ?


・・・ていうか、局長は母親に頭を下げられるまで母親が二世タレントだって知らなかったらしい」


「・・・親の七光りっすか。


最低っすね」


「利用出来る物は何でも利用する。


たとえそれが親の立場でも・・・て考え方はある意味アリだぞ?」


「親の七光りを最低って言ってる訳じゃないんすよ。


親に頭を下げさせて、何とか親に仕事を取ってもらって・・・それで横柄な態度を取って中途半端な仕事をして、親の顔に泥を塗るのが最低だと言ってるんです」


「まあ良いじゃねーか。


もう局長に頼まれたってこのタレントは使わないんだ。


これが一緒にする最後の仕事だと思えば腹も立たないだろ?」


「そっすね」




「じゃあ乳しぼりしようか・・・


一度しかやらねーからな!


ちゃんと撮っとけよ!


やり直しはしねーからな!


もしやり直しって言うならスタッフの手元別撮りして俺がやってるように画像加工しろよ!


・・・って、うぉ!コイツ何なんだよ!?


何で牛と一緒に牛舎の中にいるんだよ!?」


「それは(ぬえ)ですね」牧場主が言う。


「鵺ってあのヌエ!?


いや・・・キリンみたいに伝説上の動物の名前をつけられた実在の動物って可能性が高い・・・」と俺。


「伝説なのかは知らないけど、ここらへんじゃ『女の人がヌエの乳を飲むと元気な赤ちゃんが産まれる』って昔から言われてるんです」と牧場主。


「・・・プロデューサー、撮影予定変更だ。


俺がヌエの乳をしぼってそしてその乳を飲む。


その映像は話題になるぞ!


もしかしたら俺の再浮上のきっかけになるかも知れない!」と俺。


「何を勝手に・・・!」


「よせ、良いじゃねぇか。


どうせ最後の仕事だ。


好きにやらせてやれば良いじゃねぇか。


乳しぼりの撮影は後日、別のタレントを使ってやりゃ良いんだし」プロデューサーはADを制し言った。





「はい、ではヌエの乳しぼりをしようと思います!


柔らかいですねー、ヌエの乳!


まるで『溶けたアイス』みたいです!


この乳を搾るのはまさに職人の技ですね!


では搾ったヌエの乳を飲んでみようと思います!


・・・アッサリしていて、しつこくなくて・・・」


「何の味もしなくて水みたいな感じらしいですね。


実は私は飲んだ事ないんですよ。


妊婦が元気な赤ちゃんを産むようにヌエの乳を飲むのが普通で、男は飲まないのが普通なんです。


それどころか『男はヌエの乳は飲んではいけない』なんて言われてるんですよ?


古い言い伝えで男がヌエの乳を何で飲んだらいけないのか誰も知らないんですけどね」と牧場主。


繰り返す、これは芸能界で『伝説の少女』と呼ばれた者の前日譚である。

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