合宿免許編
現在、前職を辞めて失職中だ。
やはり少しでも良いところに再就職するために免許は持っておくべきだろう。
仕事に免許は使わなくても、通勤に免許は必要になる可能性はある。
俺自身は免許の必要性を全く感じていないからこそ今まで免許は持っていなかったのだが、免許を持っている事で就職が有利になるというのであれば話は変わって来る。
この失職中に何としても免許を取ろう・・・しかしそれほど長い時間無職ではいられない。
収入なしでは干上がってしまう。
前職時代に作った貯金もそんなに長くは持たない。
・・・という訳で「短期間で絶対免許が取れる」という謳い文句に惹かれて思わず合宿免許に申し込んでしまったのだ。
合宿免許を甘く見ていた。
最初のガイダンスを受講してみて思った。
「何を言ってるのかサッパリわからない」
合宿免許を福島で申し込んだが、まさか年寄りの会津若松弁・・・ズーズー弁がこんなにわからないとは思わなかった。
若者の使う方言はそこまでキツくないのだが、年寄りの使うズーズー弁は「一体何語なんだ?」というものだった。
何で自動車教習所の教官はこんなに年寄りが多いのか不思議に思っていたが、教習所の教官は警官を定年退職した年寄りが多いらしい。
一つ例を挙げるとガイダンス時に「こちらのスズにすたがってもらいます」と教官が言って「えっ?何て?」と思って一時間「???」という感じで過ごした後「あ!『指示に従え』って意味だ」とやっと理解する。
いちいち教習でも授業でも字幕が必要なのだ。
この教習、短期間で免許を取得しないと免許も何も持たず帰らねばならなくなる。
ガイダンス後、アンケートに答えた。
今更なんのアンケートだよ。
普通アンケートって言ったら一番最初か一番最後だろ。
そう思いながらもアンケートに真面目に答える。
真面目に答えないと心証が悪くなって免許が取れなくなるかもしれないからだ。
「あなたは免許が必要ですか?」
愚問だな、必要だからこうやって合宿免許を申し込んだんだから・・・答えは『はい』と・・・。
「『はい』と答えた人に質問します。どうしても免許が必要ですか?」
なんだこの質問は・・・今までは「免許なんてどうしても必要なモンじゃないだろ?」と思ってたからこの歳まで免許持ってないんだけど、今は就職するのにどうしても必要なんだから・・・答えは『はい』と・・・。
「『はい』と答えた人に質問します。免許を得る事によって大事な何かを失うかも知れません、ですが免許を得る事で新たに大事な何かを得るかも知れません、それでも良いですか?」
訳がわからん。
考えようによっては「仕事を失ったから免許を取りに来れた」と言える。
何かを失って何かを得るという考え方はわからなくもない。
俺は仕事を辞めて、免許を取りにきたんだ。
答えは『はい』と・・・。
「『はい』と答えた人は机の裏にある赤いボタンを押して下さい」
机の裏に赤いボタンが・・・あった。
アンケートに従うと俺はこのボタンを押さなくてはいけない。
・・・押すしかない。
合宿免許に来た者が赤いボタンを押したかどうか、教官達にはわかっているのかも知れない。
赤いボタンを押した者だけに何らかの配慮があり、合格のハンコがもらえるのかも知れない。
覚悟を決めて俺は机の裏の赤いボタンを押した。
机にはよく見ないと見えないチューブがついていて俺が赤いボタンを押すとチューブから顔に向かって「ピュッ」と何か液体が飛んだ。
結局何がなんだかよくわからないままアンケートは終了した。
しばらくすると自動車教習の授業の時間になった。
俺が緊張していると地元の女の子が見かねて声をかけて来てくれた。
「大丈夫よ。どんな厳しい教官も女の子にはハンコくれるから」




