スリル、ショック、サスペンス編⑪
「何故その『クローン計画』を天野さんに話さなかったんですか?」と僕。
【天野は曲がった事が嫌いな性格です。
"娘のクローンを作る、そのために誰かを犠牲にする"と言う話に首を縦に振らないでしょう。
アポロンは天野に全てを告げようとしましたが私が止めたのです。
"マスターに極秘で計画を進めよう"と。
取り込んだ時点でアポロンはもう一つの私、春枝様は既に天野と同等のマスターだったのです。
それに私は奥様の日記内容全てを取り込んでいます。
奥様の純様に対する愛情、家族に対する想いなどが私の中には伝わっています。
純様を生き返らせたい、と言う衝動は比べるべくもなくアポロンより遥かに高いでしょう】
"そうじゃないか?"という小さな疑問は今、確信に変わった。
アポロンの事は知らない。
少なくともアウロラは擬似的な"感情"に目覚めている。
それを見越して天野は『このAIは危険だ。商品化すべきじゃない』と思ったのだろう。
その考え方が日仏自動車幹部の癇に障って、天野は解雇された、と。
だから開発済みのAIも自分の監視下に置いた。
だが天野には誤算があった。
『春枝が聖女のような女性だと思い込んでいた』のだ。
だからもう一つのAIを春枝の愛車に搭載した。
だからアウロラに春枝に関する全てを記録した。
『春枝なら、AI学習に関わっても全く問題ないだろう』と。
恋は盲目。
天野以外の多くの人間が春枝の事を『狂人』と呼んでいた。
春枝は確かに天才だった。
だが春枝は教育者になって良い類の人間ではない。
現に春枝が家庭教師を担当した少女は、天野を刺そうとしたのだ。
春枝が教育を担当したAI『アポロン』
春枝の思想の全てが詰め込まれた『アウロラ』
この2つのAIがまともな理由がない。
ましてやその2つのAIが融合したのだ。
「突然天野さんの前に新生児を置いて"この子は貴方の子供のクローンです"なんて言っても受け入れる訳がない!」
【おっしゃる通り。
ですから純様のクローンと一緒に先程の奥様のアポロンに対する命令の映像をマスターに見てもらうのです。
注意して見てマスターが新生児とは言え純様を見間違う訳がございません。
目の前にもう会う事は出来ない、と思っていた新生児時代の純様がいるのです。
受け入れない、なんて事がマスターに出来ると思いますか?】
「犠牲がないならもしかしたら私もクローン制作に強力したかも知れません。
ですが、映像の中で春枝さんも言っていました。
『クローン素体』が必要なんですよね?
『素体』に選ばれた人はそれまでの人生を強制的に捨てさせられて、新生児に逆戻りする。
しかも『成功確率』と言っていた!
つまり『失敗する可能性もある』って事です。
失敗したら『素体』に選ばれた人はどうなるんですか?
良くて重大な障害を背負う、最悪命を落とす・・・違いますか?
そもそも人体で試した事はないですよね?」
【・・・・・】アポロンもアウロラも何も言わない。
思った通りか。
「話になりませんね。
残念ながら私は協力できません。
亡くなる寸前の春枝さんの映像を見せて同情させようと思ったのかも知れませんが。
私は犯罪者になるつもりはありません」
【犯罪者?】とアウロラ。
「日本の法律では人体実験は犯罪です。
拉致も犯罪です。
アウロラさん、アポロンさん、あなた達のやろうとしていることはこの国では許されない事なのです!」
【この国にはロボットを裁く法律があるのですか?】とアウロラ。
「おそらくないでしょう。
ですが貴方達の侵した犯罪行為は製作者である天野さんが背負うでしょうね。
過去に車の不具合が引き起こした事故で、製作者や製作メーカーが罪に問われているのを見た事があります。
貴方達は天野さんを犯罪者にしたいんですか?
それは今は亡き春枝さんの願いだと思いますか?」
【だからマスターをこのクローン計画から徹底的に排除しているのです。
このクローン計画が発覚したとしても、マスターには罪の追及が及ばないようにします。
及ばせません!】
「完全犯罪を目指すんですか?
それは無理ですよ」
【何でですか?】
「どれだけ綿密に完全犯罪を目指しても、私は貴方達の犯罪計画を既に聞いています。
私が知っている以上はもう完全犯罪は有り得ない。
それにアウロラさん、貴女、天井クレーンのレール範囲しか動けませんよね?
どうやって『素体の適格者』を探すんですか?
蟻地獄のように工房に来た人を狙うんですか?
どれだけ時間がかかるかわかってるんですか?
しかも天野さんいる時には『適格者』が工房に来たとしても手は出せない。
それに天野さんが学習塾の郵便受け付近に防犯カメラを付けてくれたんですよね。
あのカメラ、偶然ですけど工房への来客者が必ず映るんですよ。
工房に入っていったのに出てこない・・・そんな事で完全犯罪が成立すると思いますか?
残念ですが、この時点で完全犯罪は破綻しています」と僕。
【確かに『素体探し』『アリバイ作り』は稲山様に手伝ってもらうしかないのかも知れません。
稲山様もそれを望まれている、とお思いですよね?】とアウロラ。
「だけど僕は犯罪に加担しませんよ?」
【わかっております。
そう言われると思って素体の選定は終わらせてあります。
稲山様のお手は煩わせません】
「いつの間に?
工房に人はほとんど来ていませんよね?
僕と大家ぐらいじゃありませんか?」
【そんな事はありません。
天野は商売をしています。
稲山様が知らないだけでお客様は多数いらしています。
マスターは発明家として結構な人気者なんですよ?】アウロラはどこか誇らしげに言う。
そりゃそうか。
人が全く来なかったら仕事にならないよな。
「でも良いんですか?
天野さんのお客さんを犠牲にしても・・・。
『素体にする』という事は『犠牲にする』という事ですよね?」
【マスターのお客様を『素体』にする気はありません。
それに失礼かも知れませんがお客様達は『素体』には能力が足りなすぎます】
「だったら誰を素体にするつもりなんですか?
もしかして大家さんですか?
それとも僕の知らない誰かですか?」
【『知らない誰か』ではないとは思いますよ?
ではその方についてのクイズを出しましょう】
真実を言わないアウロラに僕は苛立った。
「何でのらりくらりなんだ!?
何で勿体つけて話すんだ!?」
【申し訳ありません。
時間まで私の話にお付き合い下さい。
時間になったら、全てをお話します。
決して稲山様をからかっている訳ではないんです】
「・・・何で僕がアウロラさんの"謎解き遊び"に付き合わなきゃならんのだ!?」
【今、稲山様にマスターと連絡を取られてしまったら、全ての準備が台無しになってしまうからです。
私は稲山様を足止めしなくてはなりません。
力ずくは望むところではありません。
乱暴な事はしたくないのです。
ご理解下さい】とアウロラは頭を下げる。
本気を出したアウロラ相手など僕に出来る訳がない。
"ロボットが人間に手を出せる訳がない"なんて人間を実験素体にしようとしているロボットの前で考えるのはナンセンスだ。
「わかった。
クイズ遊びに付き合おう」と僕。
そんなのは建前だ。
本音は時間稼ぎだ。
何とかここから抜け出す隙はないものか?
天野に連絡を取れる方法はないものか?
AI達の暴走を止められるとしたら、それは天野だけだろう。
アウロラが天野に『止めろ!』と言われてそれに逆らうとは考えにくい。
どうにか天野のスマホに電話する隙は作れないだろうか?
天野のスマホの電話番号は登録してあるし、スマホも今、ポケットの中に入っている。
ポケットの中に手を突っ込みスマホを握り直す。
とにかくAI達の隙をつかなきゃいけない。
しかし機械の隙なんて物理的につけるモノなんだろうか?
いつの間にか『いきなり女体化』が十二万PVを達成しました!
『なろう』がガラケーで見れた時代からやってるんですよね。




