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スリル、ショック、サスペンス編③

 お盆休みも終わり明後日から学習塾の後期夏期講習は始まる・・・というタイミングで面倒な話が密告という形で学習塾の郵便受けに投函された。

 文字はプリントアウトされてワープロ打ちされたモノで特定は難しいが、紙は今時珍しい感熱紙だ。

 文字はワードで打ち、自宅のプリンターでプリントアウトしたものだろうが、おそらくパソコンもプリンターもかなり型落ちのモノだろう。

 そんなモノを持っている生徒がいるとすれば『親から型落ちのパソコンとプリンターをもらって使っている』と考える事が出来る。

 だが、普通に考えるなら『生徒が親が使っているパソコンをこっそり使った』と見るべきだろう。

 とにかく今現在、文字で投函の主はわからない。

 それに『いじめの告発』が義侠心に駈られてのモノなら『投函の犯人探し』のような行為は見当違いだ。

 それにしても面倒事だ。

 学習塾は義務教育の場じゃないんだけどな。

 塾のカリキュラムに『道徳』の時間を設けるべきか?

 僕は投函された紙を手にしながらため息をついた。

 『どうしたんです?

 ため息なんかついて・・・』と天野が僕の顔を覗き込む。

 そうだった。

 隣の工房に前日、バーベキューの後片付けにアウロラを貸してくれたお礼をしに来てたんだった。

 いきなり目の前でため息をつくのは失礼だよな。

 そうだ、天野に相談してみるか。

 天野には近所付き合いが僕しかないみたいだ。

 他所に情報を漏らす心配はない。

 「実は、ここに来る前に郵便受けを覗いたんですよ。

 そうしたらコレが入ってました」

 『学習塾でのいじめの告発ですか』

 「その通りです。

 でも学習塾は学校じゃない。

 どこまで口を挟んで良いモノか、そもそも口を出すべきか・・・」僕はそう言うと頭を抱えた。

 『私は教育者ではありません。

 ですが稲山さんは、直ちにこの告発文を信じて、告発文にあった"いじめの加害者"を問い詰めるべきではないと思います』

 「それは何故ですか?」

 『片側だけの言い分を信じて話は進めるべきではないからです。

 例えば『告発者が告発相手を陥れて事実無根のデマを広めようとしている可能性』はありませんか?

 例えば学習塾で学力別にクラス分けがあったとします。

 上のクラスに入るか、下のクラスに入るかの境界線にいる子がいるとします。

 その子が"アイツがいなければ自分は上クラスへいける"と考えた可能性は?』

 多少、競争意識を煽っている。

 テストの順位を壁に貼り出したり。

 それで生徒同士が気まずくならないようには充分に気を使っているつもりだ。

 生徒は"ライバルでも仲間でもある"という関係になって欲しい。

 だから、生徒同士が仲良くなるようにバーベキューのようなイベントも頻繁に開催している。

 だから"生徒が別の生徒を陥れようとしている"という状況は充分に考えられるのに考えたくなかったのだ。

 「何で天野さんはそこまで考えられたんです?

 お恥ずかしながら、僕はその可能性を失念してましたよ」

 『私が自動車メーカーに勤務していた時に、陥れられたからです。

 "お前を解雇する。

お前がメーカーで行った研究成果、研究データは全てメーカーに帰属する。お前がメーカーの外で使う事は出来ない"ってね。

 勿論解雇理由は事実無根でした。

 ですが私は"好きにしろ"と』

 「良かったんですか!?

 研究成果が全て取り上げられても!?」

 『私の頭の中にある"ロボット工学理論"や"AIメモリー理論"は私が自動車メーカーに勤務し始める前に完成していたモノです。

 その私の頭の中にある理論抜きで、私が自動車メーカーで研究した事だけではどうせ何にも出来ません。

 "豚に真珠"以下です。

 私は元から持っていた知識を元に二つの"AIメモリー"を二台の車に取り付けました。

 話が脱線しましたね。

 では始めましょうか?

 時間がありません。

 明日から塾の授業が始まってしまうのでしょう?

 それまでに終らせなくてはなりません!』と天野はやたらはりきって言った。

 「"始める"って何をですか?」

 『監視カメラを教室に取り付けるんですよ。

 "隠しカメラ"と言っても良いです。

 カメラを取り付ける事に罪悪感を感じるかも知れません。

 だったら"いじめがあったか、なかったか"がハッキリしたらカメラを取り外せば良い。

 何にしても、コレはどんな手段を用いてもハッキリさせなきゃいけない事なんです。

 頭を抱えていてもどうしようもない。

 研究者というのは時々"人道"を乗り越えて事実をハッキリさせようとする生き物なんです!』

 研究者は手段を選ばない・・・僕は天野を頼もしく思うと同時に恐ろしくもあった。


 思い付いた天野は早かった。

 学習塾の教室に押し掛けてきた天野は教室のいろんなところをデジカメで撮影し出した。

 撮影をした、と思ったら天野は即、工房へ戻る。

 全く意味がわからない。

 『何をしているんですか?

 ついてきて下さい!』と天野。

 天野は"凄く頼られた事が嬉しい"とまるで尻尾を振る犬のようだ。

 僕は昨日のアウロラの言葉「天野は孤立しがちだが、一人でいることを好んでいる訳ではない」という言葉を思い出していた。

 天野はアウロラと監視カメラを取り付ける位置について相談していた。

 「監視カメラはアウロラさんの専門外なんでは?」と僕。

 『実はアポロンのAIメモリーが持ち去られた時、監視カメラ機能をアウロラに搭載したんです。

 持ち去られた後に機能を足しても泥縄も良いところなんですけどね』と天野は恥ずかしそうに言う。

 なるほど、アウロラには監視カメラの知識が充分にあるのか。

 でもアウロラに監視カメラ機能をつけても無意味じゃないか?

 僕の考えが正しければアウロラにこそ監視をしなきゃいけない。

 アウロラはアポロンのAIメモリー紛失事件に関わっているはずなのだから。

 「ちょっと待って下さい!

 この工房にも監視カメラがあるって事ですか!?」と僕は叫ぶ。

 別に悪い事をしてる訳じゃない。

 でもカメラで監視されてる、というのは良い気分のモノじゃない。

 『監視カメラがあるというか、ないというか・・・アウロラ自体がこの工房の監視カメラの役割を担っているのです。

 カメラで監視されているのはイヤですよね?

 でもこう考えて下さい。

 "アウロラのカメラは車のドライブレコーダーのようなモノだ"と。

 何か問題が起きなければ内容をチェックする事もない。

 別にカメラがあることは気にしないで大丈夫です。

 コンビニに監視カメラがあるからって気にしてコンビニに行かない人なんてほとんどいませんよね?

 それと同じです。

 カメラがあるのは安心、安全のためなのです』天野は僕を宥めるように笑いながら言う。

 どうやら"教室に監視カメラをつける"という事に僕は必要以上にナーバスになっているようだ。

 実は現代社会でカメラが付いていることは、そこまで気にしなくても良い話なのかも知れない。

 色んなモノを買い揃えなくちゃいけない・・・と僕は思っていたのに、アウロラと天野は工房にあるモノだけであっという間に超小型の監視カメラを作りあげた。

 『何を隠そう、ロボットの目代わりになるカメラは私の最も得意分野なんです』と天野はどこか自慢気に言う。

 これ、買ったらどれだけ高級品だよ?

 市場に出回ってる監視カメラを遥かに上回る高性能さだよね。

 僕にはどんな高級品でも、"カメラの画素"とか言われてもちんぷんかんぷんなんだが。

 呆気に取られている僕を尻目に、天野とアウロラが塾の教室で撮ってきたデジカメの画像を見ながら『どこにカメラを取り付けるのが良いのか?』という議論をしている。

 アウロラが僕に質問する。

 【教室のどこのカメラ画像が欲しいですか?】と。

 天野がアウロラの言葉を補足する。

 『問題の子はどこの席に座っていますか?

 いじめられている、という子はどこの席に座っていますか?

 いじめている、という子供はどこにたむろしていますか?

 子供達は授業以外ではどこにいる可能性が高いですか?』天野が探偵のような切り口でモノを言うから僕はびっくりした。

 そんな僕を見ながら天野は少し恥ずかしそうにしながら『ごめんなさい。実はこういった監視カメラを仕掛けるのは初めてじゃないんです。

 浮気している疑惑がある奥さんの行動パターンを読んで監視カメラを取り付けた事があるんですよ』

 「探偵みたいな事をしてるんですか!?」

 『してませんよ!

 ただ、小型カメラはさっきも言ったように得意分野なんです。

 わたしが作った小型カメラを浮気調査に使った事がある、という話です。

 その場合、監視対象の行動パターン別にカメラを数台行動範囲に取り付けるのは定石らしいです』

 なるほど、だったら準備すべき監視カメラは4つ。

 ①いじめの疑惑がある子の席周辺。

 ②いじめられている、と言われている子の席周辺。

 ③いじめの疑惑がある子が授業外でたむろしている場所。

 ④みんなが授業が終わった後にたむろしている場所。

 これだけ網羅(もうら)すればいじめの現場はキチンと押さえられるはずだ。

 もちろん、いじめがあればの話だが。

 僕は「ここと、ここと、ここと、ここの画像が欲しいです」と天野とアウロラに言った。

 2人は全く「その要求は厳しい」とは言わない。

 監視カメラをLEDランプの電球の中に仕込む、という手際の良さに僕は寒気を覚えた。

 こんなん『監視されないように』なんて気を付けてても無駄じゃん。

 もう『超監視社会』は到来しているのかも知れない。

 天野を敵に回すのは止めよう。

 恐ろしすぎる。


 「監視カメラを取り付けたは良いけど、これ、どうやってカメラ画像を見るんですか?」と僕。

 すると天野が古びたノートパソコンを僕はに渡した。

 『これ、見た目は超古い"WindowsXP"搭載のノートパソコンですけど、中身は全く別物です。

 電源を入れたら監視カメラの画像が映し出されます。

 ・・・というか、それしか映し出されません。

 他に全く機能はありません』と天野。

 「流石にこれだけのモノをいただいて、これだけ労力を使っていただいて"無料"という訳にはいきません。

 突然ですので今は持ち合わせはありませんが、請求書をあげてきて下さい」と僕。

 『そうですか?

 部品なんかも有り合わせで、使ったモノもジャンク品ばかりで値段がつくような物はないんですけどね?』と天野。

 「でも工賃は払わないと。

 天野さんはプロですよね?

 プロに動いてもらったのですから、それに対する対価を払わせて下さい!」と僕は一歩も引かない。

 『わかりました。

 では請求書を月末〆の翌月初発行で送らさせていただきます』とついに天野は折れた。

 因みに翌月初に届いた天野の請求書の金額は『¥1200(税込み)』だった。

 品代は『スイカ代』

 つまり、バーベキューに持って行ったスイカの値段を請求してきたのだ。

 備考欄にはメモ書きがあり・・・

 「私にもプロとしての意地があります。

 金をもらってもやらない仕事もありますし、払うと言われても1円も貰わない仕事もあります。バーベキューご馳走様でした!」と書かれていた。

 僕はどうも技術屋の意地とかプライドというモノを勘違いしていたのかも知れない。

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