除霊編
「この子の体から出て行け!」
私は聖水を振り撒き、ベッドで寝ている少女に向かって十字架を突き付ける。
「グガアアアアアアアアアアアアアアアア」
少女はこの世の者とは思えない声を上げるが、黒い靄のような物が少女の体から出ると、少女はそれまでの咆哮が嘘のように大人しく穏やかな顔つきになった。
「除霊は終了です。霊は彼女の体から去りました」私は少女の母親に言う。
「神父様、ありがとうございます!
何とお礼を言えば良いのやら・・・」母親は私に縋り付くように言う。
除霊は基本的に教会の仕事と言われている。
専門の除霊師もいない訳ではないが除霊師は法外な料金を取るので、庶民は家族に悪魔や心霊が憑いた時、教会に依頼するのが普通だった。
教会が無料で除霊をしてくれるのに何故法外な料金を払って、除霊師を雇うのか・・・
それにはいくつか理由がある。
「教会は礼拝や懺悔などを主任務にしており除霊まではなかなか手が回らないので、除霊を頼んでから除霊の順番が回って来るまで約半年かかる」のだ。
半年間悪魔や心霊に体を乗っ取られていた者は衰弱死したり発狂する者も少なくない。
そして何より「教会の者達は除霊の専門家ではない」という事だ。
除霊師に言わせると教会の連中は「除霊も出来る素人」でしかないのだ。
除霊師曰く「教会の連中は憑りつかれた者の体から出した霊や悪魔の魂を消さない」そうだ。
だが寄生先のない寄生虫が生きていけないように、依り代を失った霊や悪魔は消えてしまう事が多いのだ。
なので今回も私は心霊の霊魂を少女の体から追い出して除霊終了とした。
その晩私は夢を見た。
しかしその夢に出てくる私は夢に出てくる私を痛めつける存在だった。
私の恰好をしている男はベッドで寝ている私に対し「この子の体から出て行け」と聖水を撒き、十字架を突き付けた。
「痛い、何でそんな事をするの?
私はここにいるだけなのに。
しょうがないじゃない、誰かの体に入っていないと私は消えてしまうんだから!」
私は男に一生懸命伝えようとするが「グガアアアアアアアアアアアアアアアア」と吠えるような声しか出せない。
たまらず私は消え去る寸前に少女の体から飛び出し、男の体の中に移った。
私は目を醒ます。
そういう事か。
霊は消え去る寸前に少女の体から、私の体の中に移動したのだ。
消え去りそうであった霊魂は私の意思を乗っ取る事は出来ないが、夢を見させるなど私の体に影響を及ぼす事はあるようだ。
夢で霊魂の声を聞いた。
年頃の娘の霊魂のようだ。
私の体にどのような影響が出るのかはまだわからない。
ただ私は昨日の除霊の結果を助祭様に伝えに教会まで行かなくてはならない。
そこで昨日心霊に乗り移られた事を助祭様に相談しよう。
もしかしたら助祭様自ら私に憑いた霊を除霊してくださるかも知れない。
私は修道服のまま寝ていたらしい。
昨日の除霊で疲れていたとはいえ、だらしない。
思いの外、長時間熟睡していたらしい。
教会から9時を知らせる鐘が聞こえる。
着替える時間はないようだ、急いで着の身着のまま教会へ向かう。
教会まで急いで走っていく最中、何度も修道服のすそを踏み転びそうになった。
服のサイズがあっていないのだろう。
服を選ぶなどという贅沢は言う気はない。
だが、服のサイズが合っていないからあまり動けない、走れないというのであれば勤勉さを阻害するサイズの合っていない服を早急にどうにかするべきだろう。
しかし、今はとにかくそんな事は言ってられない。
急いで教会へ向かわねば。
ようやく教会へ到着した。
私は教会の神職用の通用口へ入ろうとする。
そこには見習いの神職がいて、門番をしている。
見習いの少年は私に言う。
「この先は女子禁制となっております」




