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102号室

 机の上にはCDが重なり、タワーの様に積み上げられている。

独り暮らし用の、小型の冷蔵庫の傍らには、アコースティックギター。

ここは、ミュージシャン志望の女性の住まいだ。







 私こと、芋洗たぬ子(23)は今、漫画に夢中だ。


「やっぱり花男 (花嫁男子)は、おもすれーな」


 ソファに横になり、101号室のめぐっちから借りた、少女漫画に読みふける。

すると、突然、部屋の明かりが消えた。


「何だぁ!?」


 玄関の上に設置してあるブレーカーを調べるも、落ちてはいない。

つまり、電気代の未納で、止められてしまったんだ。

私は、サンダルに履き替えて、めぐっちのいる101号室に向かった。


「めぐっち、いるかー」


 チャイムを連打すると、扉が開く。


「どしたの、たぬ子」


「電気さ止められちまったんだわ。 あれじゃ、漫画の続き読めんから、中は入ってもいいべか?」


「……入って」


 サンダルを抜いで、中にお邪魔する。

私とは違い、めぐっちの部屋はいつも片付いている。

私がソファに腰掛け、漫画の続きを読もうとした時だった。

漫画が宙に浮いた。


「な、何すんだ!」


「たぬ子、最近曲、作って無いわよね?」


「……今、スランプなんだわ」


「こっちに来てから、もう3年目でしょ。 いい加減、田舎に戻るか、決めなきゃいけないと思うよ?」


 私が漫画を取り返そうとするも、めぐっちは私の手の届かない所まで漫画を掲げる。


「たぬ子、今から死に物狂いで曲書いて、オーディションに申し込みなさい。 さもないと、もう漫画、貸さないから」


 そんな……

音楽が好きで、家出までして、こっち来て。

でも、都会は美人ばっかだし、路上演奏してる人らはことごとく私より才能があった。

訛りも全然抜けないし、私は自信喪失して、引きこもり生活をしていた。

めぐっちみたいに可愛ければ、アイドル路線もあっただろうが、私に限って、それはない。

良い曲を書くしか、道はないのだ。


「……分かったよ」


「曲出来たら、聞いてあげるから」


 私は、めぐっちの部屋を後にした。






 私の部屋の入口まできて、電気が止められていることを思い出し、とりあえず支払いを済ませることにした。

一応、仕送りはある。

伝票を持って部屋から出ると、ポストの所で、管理人さんとばったり出くわした。


「あ、山猫さん、今晩わ」


「……」


 山猫さんは、耳にイヤホンを突っ込んで、ポストをガサゴソあさっている。


「やーまーねーこーさ~ん」


「わっ!」


 やっと気付いた。


「何聞いてるんですかぁ?」


「芋洗さんか。 聞いてみますか?」


 私は、何気なくそのイヤホンを耳に突っ込んだ。


「……!」


 これ、宇多多ヒカルだ!

何を隠そう、私は宇多多ヒカルに憧れて、この道を目指した。

CDは全部持ってるし、曲名も全て言える。

けど、この曲は知らない。


「どっ、どこでこの曲さ、手に入れたんですか!?」


「拾ったんですよ。 気に入ったら、貸しても良いですよ」


 拾ったって……

とにかく、私は山猫さんから、見慣れる音楽ブレーヤーを借りた。

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