手の届かない季節
冬。白い息を吐き出しながら、心の中で夏を恋い焦がれる。
夏。それは僕が愛して止まない季節。古くからの春秋合戦なんて、僕には全く無意味だ。春には、その中に夏の香りを探す。秋には行ってしまった夏の残り香をたどる。そして冬。真っ白な雪と吐息の中で僕は、手の届かない夏に思いを馳せる。
夏は、君の気配がするから好きだ。海になってしまった君。君の名前も、年齢も、なにもかもを、僕は知らない。ただただ、「今年の夏が終わったら、海になるの。」そう言った儚げな君の笑顔だけが僕の胸を駆け巡る。この言葉の真意を、僕は未だ知らない。でも、彼女のあの笑顔は僕にその言葉を信じさせるには十分だった。
一夏の恋。大人はそう言うかも知れない。でも僕は、この胸の気持ちを一生忘れない。恋とは言えないかも知れない。それでも僕は、ずっと夏を恋い焦がれ続けている。