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桜人 ―― 源氏異聞  作者: 塔真 光
第7章 薫香
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7-11

 桜子と悠斗は、朝食後、外出の準備をすぐにはじめた。

 悠斗は、リュックサックを置いていこうか迷った。だが、万が一を考え、スマートフォンのポータブルバッテリーも入れて、持ち歩くことにした。

 襖が開け放しになっている桜子の部屋を悠斗がのぞくと、着替えをすませた桜子が、スズメを手に乗せてしゃべっていた。

「おなかが空いたり、寒くなったら、また来なさいよ」


 悠斗は両手に、水と米粒がそれぞれ入った小皿を持っていた。窓を開け、それを手すりの底板に置いた。そしてスズメに近づき、

「おれの手にも乗らないかなぁぁ」

と言いながら指を差しだした。

「ああしておけば、いつでも食べられるだろ」

 背をかがめて話しかける悠斗に、太陰は、クチバシでツンツンと指を突っつくだけにしておいた。

「あっ、おれにも少し慣れてくれたみたいだ!」


 桜子は、スズメを指に乗せながら窓に近づき、その指を手すりに置いた。

 底板にピョンと跳び移ったスズメは、桜子と悠斗がみつめるなか、米粒をついばんだ。

 ――べつに食べたいわけではないぞ。オババが食べれば、おぬしたちは喜ぶだろ。だから食べてやっているだけだぞ。それから、人が食べているところを、ジロジロと見るものではない! つぎは、パンくずのような、柔らかいものにしろ!

 太陰は、心のなかでブツブツそう言うと、かわいげにチュンと鳴き、飛びさった。


 桜子と悠斗は窓を閉め、一階へ下りた。春恵が、六条御息所の人形を店に飾ろうとしていた。

「今日も、ゆっくりと遊んできよし」

という春恵の声に送られて、ふたりは店を出た。

 鞍馬駅へむかう途中で悠斗が、出町柳でバスに乗り換え二十分ぐらいで紫式部の墓に着く、と桜子に説明した。

 どんな墓なのだろうかと桜子が不思議に思っていると、肩に白スズメが留まった。

「ワァァ、すごいねコイツ」

 悠斗が大喜びで叫んだ。

 桜子も、首を曲げ、うれしそうにスズメに語りかけた。

「いっしょに行く?」

『チュン』


 桜子と悠斗は、出町商店街の花屋で仏花を四束買い求めた。そして、商店街の出入り口にある停留所でバスを待った。

 白スズメは、出町柳に着いてからというもの、空を飛んだり、桜子の肩に留まったりを繰りかえしていた。だが、桜子たちがバスに乗ろうとしたとき、電車のときと同じように桜子のカバンのなかに潜りこんだ。そして身動きひとつしない。まるで、ぬいぐるみのようだ。

「コイツ、賢いな」

 悠斗はつくづく感心した。

 ――だてに、おぬしより長生きしているわけではないからな。公共の乗り物のなかでは、ペットはカゴに入らなければならいのじゃ! そんなこと、常識じゃろうが。それから、コイツコイツと言うな!

「な、桜ちゃん、名前をつけようよ」

 ――すこしは頭が回転するようだな。

「なにがいいかなぁぁ。そうだ、シロはどう?」

 ――シ、シロ!? おぬしな! 犬ではあるまいし。語彙ごい力のないヤツじゃ!

「かわいい名前ですね。悠斗さんは、やはり頭がいいですね」

 ――はぁぁぁ!? どこが? 恋は盲目とは、ようゆうたものじゃわ。

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