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桜人 ―― 源氏異聞  作者: 塔真 光
第6章 地蔵
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6-14

 悠斗と速仁、夕霧の三人は、地中の洞穴で道に迷っていた。それもそのはず、〈六道の辻〉の地下は、六つの迷いの世界である六道に、文字どおりつながっているのだ。人間は、生前のおこないに応じて、六つの世界で転生を繰りかえす、とされる。地獄道、餓鬼道、畜生道、修羅道、人道、天道の六世界だ。それぞれが、程度に雲泥の差こそあれ、煩悩から脱していない迷いの世界である。


 悠斗は洞穴のなかで、スマートフォンの懐中電灯アプリを使い、行く先を照らしていた。光が岩壁で反射し、三人のまわりは、手探りで歩く必要がないほど十分に明るい。だが、それでも道に迷った。途中いたるところで、道が二股に分かれているのだ。

 三人が、三度目の二股道で途方に暮れていると、右側の洞穴の奥に、ボンヤリと輝く小さな赤い点が見えた。

「あっちに行こうか?」

と、赤い光を指さし、悠斗が速仁に声をかけた。

「うん、任せる……」

 そう返事した速仁は、はじめは勢いよく穴に跳びこんだものの、いまは心細さに内心震えていた。頼りにしてきた守り役の惟清はいないのだ。

「おれのそばから離れるなよ!」

 悠斗が力強く声をかけてくれたのが、速仁にはうれしかった。

「うん、悠にいちゃん。――桜ちゃんも、恐い思いをしているだろうね……。おれたち、力を合わせて、桜ちゃんを救い出そうな!」

「ああ、もちろんだ」

 速仁から素直に頼られて、悠斗は、ほぞを固めた。

 ――おれがしっかりしなきゃな! 夕霧さんは、あんがい、怖がりなようだし……。

 夕霧は、こきざみに体を震わせながら、悠斗のうしろに、張り付くように立っている。南無阿弥陀仏という言葉以外、なにも口に出さない。


 三人が赤い光に近づくと、それは、ゆっくりと遠のいた。それが二度三度と繰りかえされた。まるで、道案内をしているようだ。

 狭い崖道や、深い谷にかかった吊り橋を通り、三人は、ようやく正体がつかめるほどに、赤い光に近づいた。

「地蔵さまだ!」

 速仁が大声をあげ、かけだした。悠斗と夕霧も、速仁の後につづいた。


 たしかに地蔵だった。新調されたばかりらしい赤い前たれが、光を発していたのだ。

 その前たれと、目を閉じている地蔵の顔を見た悠斗は、仰天した。

「おれの町内の、お地蔵さんだ!」

『ああ、そうだよ、悠くん』

 地蔵は、両まぶたを開け、やさしげな声で答えた。

『よくぞここまで来られたね。あともう少しだよ』

と言ったあと、地蔵は、右手に持つ錫杖の切っ先を左方向に差しむけながら、言葉をついだ。

『この先に崖道があり、その突きあたりが隧道(すいどう)になっている。それを抜けると、目のまえに、巨大な竪穴(たてあな)が広がっている。竪穴には橋が十字にかかっているから、中心まで進めばよい。そこが、阿弥陀ヶ峰の山頂の真下だ。そして、右側の橋を渡りきると、その先の広場で、閻魔大王の副官である小野篁卿が、桜子ちゃんとともに、悠くんたちを待っている。源氏の新帖の手がかりも、そこで手にはいるはずだ』

「桜ちゃんは無事なんだ!」

 悠斗と速仁は同時に叫び、うれしさのあまり、抱きあった。

 夕霧も、やれやれと、安堵の表情を浮かべた。


『崖道の下は修羅道だから、落ちないように気をつけなさい。修羅道で憎しみの心に迷い苦しんでいる者たちは、崖道を通る者の体を奪い、人道へ転生しようとする。目を合わせると体を乗っ取られるから、用心しなさい。そして、竪穴の底は地獄道だから、これも転落しないように、助けあって通るのが肝心だ。それから、橋の中心で方向をまちがえないこと。左へ行ってしまうと餓鬼道で、直進すると畜生道だよ』

 そう語る地蔵に、

「はい、おれたち、だいじょうぶです!」

と、速仁は勢いよく答え、悠斗も、力強く相づちを打った。

 だが、夕霧はまっ青だ。

 ――修羅道に、畜生道に、餓鬼道に、おまけに地獄道なんて、あんまりだ! 万が一にも足をすべらせたら、どうするのですか! でも、行くしかないですね……。

 地蔵は、

『わたしが、皆の後をついていこう。三人が助けあいながら進めばだいじょうぶだ』

と、やさしげな声で夕霧を励ました。

 夕霧は、地蔵に深々と辞儀をした。


 地蔵は、袈裟けさから若紫餅を取りだし、夕霧たちに一個ずつ与えた。

『地蔵盆のお下がりだ。召し上がれ。仏の加護があるだろう』

 三人とも、一口で食べた。

「悠にいちゃん、これ、おいしいね」

『大学の君、これはなかなかの美味ですね』

 速仁と夕霧の言葉に、悠斗は勇気をかき立てられた。

「それじゃ、行こう!」


 修羅道を見下ろす狭い崖道を、悠斗たち三人は、背中と両(てのひら)を岩壁につけ、横歩きで進んだ。地蔵は、慣れた道なのだろう、ヒョコヒョコと、最後尾を身軽に歩いている。

 眼下の修羅道では、倭国大乱から西南戦争まで、あまたの争乱に参与した将兵たちが、死闘を繰りひろげていた。

 憎しみと怒りが充満しているあんな世界には堕ちたくない。悠斗が心の底からそう思ったとき、とつじょ後方から、熱風と紅蓮(ぐれん)の炎が吹きだしてきた。

『地獄道の炎熱が、岩の隙間を通って襲ってきたようだ』

 地蔵は穏やかにそう言うと、両腕を横に広げ、その炎に背中をさらした。

『わたしがここで炎熱を防ごう! 悠くんたちは、早く先を進みなさい!』

「でも、お地蔵さまは?……」

 口をそろえて心配する悠斗と速仁に、地蔵は澄ました顔で答えた。

『これがわたしの務めなのだ。それに、心配するには及ばない! わたしの体は石だ。ハハハ』

 悠斗たち三人は、そろって辞儀をし、崖道を進んだ。


 崖道がおわる手まえで、修羅道に堕ちている将兵たちが、三人に気づいた。太刀を振りまわし、わめき声をあげている。矢が何本も射かけられた。このままでは、隧道にたどり着けそうにない。

『われは源朝臣九郎判官義経(みなもとのあそんくろうほうがんよしつね)なり』

と名乗りを上げた若武者が、矢を放った。弱弓から射られた矢ではあったが、速仁の胸をめがけて飛んできた。

 前方を悠斗に、後方を夕霧に挟まれている速仁は、矢をかわせそうにない。悠斗が、意を決して、自分の身を矢にさらそうとした。

 と、そのときだ。速仁の頭上から、石の地蔵が一体、飛びおりてきた。


 コツン

 矢は地蔵の前たれに当たり、はね返って修羅道に落ちていった。

 (やじり)で穴があいた前たれには、〈川上地蔵尊〉と書かれていた。悠斗が直衣姿で桜子といっしょに参拝した、鞍馬寺の地蔵だ。

『だいじょうぶだったか?』

 地蔵が、凛と響く声で、悠斗と速仁に問いかけた。

 ふたりは目をまるくしながら、

「あ、ありがとうございます」と、

口をそろえて地蔵に感謝した。

『武者たちの矢は、わたしがひき受けよう。さっ、隧道に早く入ってしまいなさい』

 地蔵は、そう語ると、先ほどの若武者に顔をむけ、諭すように呼びかけた。

『義経殿、いや、牛若丸さま。鞍馬山での剣術修行は、人を殺めるためのものでなく、己の心を鍛えるためのものだったはず。まずは、それを思いだされよ。さすれば、人界への転生もかないます。――他の武者たちも、よくお聞きなされよ。そなたたちを迷わせている憎しみは、わたしがすべて、この身にひき受けよう』

 川上地蔵にむけて、いっせいに矢がはなたれた。


「お地蔵さまは、だいじょうぶかな?」

 速仁が、隧道に入る直前、うしろをふりむきながら、心配そうな声をあげた。

『たぶんだいじょうぶですよ。木像ならたいへんなことになるでしょうが、なにせ石造りですから』

 そう答える夕霧に、速仁は、

「そういう問題ではないと思うんだけど……」

と言いながら、首を曲げて、なおも後方を見やった。

 すると、その視線が、郎党を随えて青毛の馬に乗っている部将の、憎しみに溢れた目を捉えてしまった。部将は、ニヤリと口の端を上げた。

 速仁は、目がくらみ、前のめりに転んだ。

「だいじょうぶか、一宮?」

 そうたずねる悠斗の言葉に、速仁は、なにも言わずに起きあがり、地面に目を落としたまま小さくうなずいた。

『それでは、早くこの隧道に入りましょう!』

 せっつく夕霧に背中を押されて、速仁はフラフラしながら前へ進んだ。


 隧道を抜けると、はたして、三人の目のまえに、巨大な竪穴が広がっていた。二つの石橋が中央で十字に交わり、それぞれの橋のむこうは、霞がかかっており見通せない。

 速仁は、だらしなく口の端を上げ、竪穴をみつめていた。その眉は、ほんらいの、うぶ毛のような柔らかいものから、ゴワゴワした剛毛に変化していた。目も、素直さが消え去り、狡猾そうに吊り上がっている。


「気をつけて行こう! 夕霧さんには、最後尾の守りをお願いします!」

 悠斗は、速仁と夕霧にそう声をかけると、また先頭に立って、橋を渡りはじめた。横にならんでは渡れない、欄干もない狭い橋だった。橋の下の地獄道から、ゴウゴウと燃えさかる炎が立ちあがり、それに混じって、阿鼻叫喚の声が聞こえてくる。夕霧は、南無阿弥陀仏と大声で唱えながら、四つんばいで橋を渡っていく。

 途中で、速仁がなんども滑り落ちそうになり、そのたびに、悠斗と夕霧が助けあげた。

 悠斗は、いつもの敏捷さをうしなった速仁のようすが、気がかりでならなかった。ようやくのことで十字橋の中心にたどり着いても、速仁はなにも言わず、ボンヤリとしている。

「だいじょうぶか?」

 悠斗が速仁に声をかけたとき、前方の虚空を見やっていた速仁の眼が、とつじょ憎悪の色を宿した。速仁は、畜生道へつづく正面の橋にむかって走りだした。

「待てぇぇ、義朝(よしとも)! 常磐(ときわ)はおれの女にする!」

 そう叫ぶ速仁の、狂ったような眼は、霞におおわれた橋のむこうに、肩をよせあい遠ざかっていく源義朝と常磐御前の姿を幻視していた。義経の父と母だ。

 悠斗は仰天し、

「ち、ちがう! 一宮! そっちの橋じゃない!」

と叫びながら、全速力で速仁を追った。

 橋の半ばで悠斗は速仁に追いつき、ふたりは、もつれあいながら倒れた。

「おのれぇぇ、この平朝臣清盛(たいらのあそんきよもり)の邪魔だてをするとは、けしからん!」

 速仁は、そう叫び、悠斗の体を橋の下に蹴り落とした。


 悠斗は、両手で橋の(ふち)をつかんだ。だが、宙ぶらりんで、いまにも地獄道に落ちそうだ。

「一宮、目を覚ませ! おまえは、清盛に体を乗っとられようとしてるんだ!」

 悠斗の必死の呼びかけに、速仁は正気を取りもどした。

「悠にいちゃん、そんなところで、なにをしているんだ? 危ないぞ」

 速仁は、両手で悠斗の左腕を取り、ひっぱり上げようとした。だが、たちまち表情が一変し、

「おれの女を横取りする、憎っくきヤツ! 地獄に落ちろ!」

と怒声をあげ、悠斗を突き放した。


 悠斗は、右腕一本で橋にぶら下がった。だが、体勢を崩し、どうしても自力では這い上がれない。おまけに、速仁が目をつり上げ、悠斗の右手を憎々しげに踏みつけはじめた。

「地獄に落ちろ! おれの大好きな人を横取りするヤツなんて、地獄に落ちてしまえ!」

 速仁の、憎悪の眼から、涙があふれ出ようとしている。それを見た悠斗は、一瞬にして覚った。速仁の想い人は、桜子なのだ!

 悠斗は、地獄道への転落を覚悟し、目を閉じた。

 ――おれ、地獄でどうなるんだろう?

 悠斗はまぶたを上げ、もういちど、速仁の眼を見た。大粒の涙を流している。

 ――桜ちゃんのこと、守ってやれよ。

 速仁に踏みつけられている右手の感覚がうしなわれてきた。悠斗は、また目をつむった。

 ――源氏物語の新帖を、読みたかったな……。


 ガシッ

 悠斗の体が宙に舞おうとするすんぜん、四つんばいで橋を進んできた夕霧が、悠斗の右腕をつかんだ。

『一の宮さま! いったいぜんたい、どうなさったのです! 大学の君と力を合わせてこそ、孫姫を守り、源氏の新帖も得られるのではないのですか! それをお忘れか!?』

 夕霧の、怒りを含んだ声に、速仁は正気にかえった。

「ゲンジ?」

 だが、また一瞬にして、速仁の顔が憎悪にゆがんだ。

「源氏は、われら平氏一門の宿敵じゃ! 源氏に味方するヤツは、許さん!」

 速仁は、身を屈めて悠斗の右腕を抱えこんでいる夕霧を、激しく殴打しはじめた。

 悠斗は、速仁にむかって大声をあげた。

「源氏は源氏でも、時代がちがうんだ。もし家に帰れたら、ちがいをおれが教えてやる。だから、夕霧さんをたたくな!」

 だが、速仁は、夕霧の背中と腰を(こぶし)で打ちつづけた。

「だいじょうぶですか?」と、

悠斗は夕霧に声をかけた。

「はい。これしき、鬼のような雲居雁の小言と比べると、痛くもなんともないです」

と、夕霧は顔をしかめながら答えた。

 悠斗は、口とはうらはらの夕霧の顔を見て、おもわず笑ってしまった。すると、力がふたたび、体のなかにフツフツと湧きあがるのを感じた。


 悠斗は、夕霧に助けられ、橋の上に這いあがった。そして、すきをみはからい、速仁を仰むけに倒した。速仁は両足をばたつかせたが、それは夕霧が押さえた。

 悠斗は、馬乗りになって速仁の両手を押さえ、その眼をまっすぐみつめながら、魂へ届けとばかり、懸命に呼びかけた。

「正気にもどるんだ! 桜ちゃんのためだぞ! そしておれたちといっしょに、新帖を見つけよう。おまえと桜ちゃんと、それにおれは、仲間なんだぞ。仁和寺で、そう約束しただろ。思いだせ!」

 悠斗の眼の先で、速仁の顔が、もとの素直な顔と、狡猾な清盛の顔とに、なんども目まぐるしく入れ替わった。そして、ウーッとおおきく息を吐いて、ようやく速仁は、もとの顔を取りもどした。

 だが、その顔は、眠っているように目を閉じている。悠斗が体を揺さぶっても、まぶたが開かない。悠斗は、速仁の鼻先に頬を近づけた。

 ――そんなぁぁ!

 悠斗は、速仁の足を押さえつづけている夕霧に、涙で濡れた顔をむけた。

『どうなさいましたか?』

「一宮が、息してない……」


 悠斗が、嗚咽(おえつ)しながらそう答えたとき、橋の上に、光り輝く地蔵が現れた。

 獅子頭の(かぶと)をかぶり、薄い袈裟の下に(よろい)が透けている。左手に錫杖を、右手に太刀を握りしめているその地蔵は、清水寺本堂の勝軍地蔵菩薩だった。

 勝軍地蔵は、仰むけに横たわっている速仁のそばに歩みよると、錫杖の切っ先を、その口もとに当てた。すると速仁は、ゴホッ、ゴホッと、上体をおおきく震わせて咳きこみ、口から、赤黒い妖光を吐きだした。

 悠斗と夕霧が驚愕の目でみつめるなか、その妖光は人の形をとりはじめた。平清盛の魂魄(こんぱく)だ。

 橋の上で、清盛と勝軍地蔵が刃を交えだした。だが、勝軍地蔵に太刀で(かな)う者などいない。たちまち打ち負かされた清盛は、

「ギャー」

という叫声を竪穴に響かせながら、地獄道へ、まっさかさまに落ちていった。


『正気を取りもどしたかな?』

 勝軍地蔵が、低く力強い声で速仁に話しかけた。

 速仁は、悠斗に上半身を抱かれて力なく横たわったまま、わけもわからず、小さくうなずくだけだった。

 速仁に代わって悠斗が、

「ありがとうございました」

と礼を述べ、そのあと、おそるおそるたずねた。

「あのぉぉ、お地蔵さまでしょうか?」

『ああ、そうだ。清水のな……。奉納の秋風楽を、笑いこけるほど楽しませてもらったぞ。最初は、なにをしているのか、さっぱりわからなかったがな。ワハハ』

 地蔵は豪快に笑いおえると、厳しくも慈愛あふれるその顔を、奈落の地獄道にむけた。そして、あらためて悠斗と速仁にむきなおり、言葉をついだ。

『となりの橋を渡り、小野篁卿に会いに行くがよい。卿のご下問にみごと答えられれば、源氏の新帖の手がかりが得られるだろう。――さて、煩悩に迷う清盛公の苦しみを、和らげに参ろう』

 地蔵は、ヒューと橋から飛びおりた。


 それから数分後、体力を回復した速仁が、悠斗に手を貸してもらい立ちあがった。

「悠にいちゃん、おれ、隧道に入ったあたりからのこと、なにも覚えていなくて……。清盛ってヤツに、おれ、体を乗っとられていたのか?」

「ああ、まあな。でも、もうおわった」

と答える悠斗に、速仁はさらにたずねてきた。

「おれ、なにか変なことをしたり、言ったりしていなかったか?」

 悠斗は、無言で頭を左右に振った。

「ふーん。それじゃ、おれ、だれかに殴られたりしていなかった?」

 速仁の言いざまに、悠斗のうしろにいた夕霧が、おおきく眉をひそめた。

「いや、それはなかったぞ。とにかく、おまえは気をうしなってただけだ」

と答えた悠斗は、心配顔で速仁にたずねた。

「おまえ、どこか痛いのか?」

 今度は、速仁が頭を左右に振った。

「そうか、よかった。――それじゃ、さっ、行こう!」

「うん」

 速仁は、悠斗に相づちを打ったものの、合点がいかなかった。童直衣の袖が、派手にほつれているのだ。

 うしろをふり返ると、夕霧が腰をさすっている。

「どうしたの? 腰が痛いの?」

 そうたずねる速仁に、夕霧は眉をひそめた。だが、なにも言い返さなかった。

 ――トホホ、わたしは、どこまでいっても、損な役まわりだ……。

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