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早朝の石山寺は、粛然として、夏であってもすがすがしい。その境内を、速仁は惟清らを供にして、延焼をまぬがれた御影堂へむかっていた。堂内に、焼損した本尊と、本尊の胎内から飛び出した金銅像が仮安置されたと聞き、参拝にやって来たのである。
朝食後に石山寺を発ち東宮御所に帰らなければならない速仁は、桜子を救ってくれた観音に、出発まえにもういちど、礼を述べたかった。それに、桜子との再会を、あらためて祈願もしたかった。
速仁が惟清を連れて堂内に入ると、本尊と小さな金銅像五体が、須弥壇の上に置かれていた。速仁が焼け跡から見つけた金銅像は、ほかの金銅像のまえに立っていた。そのうしろには、少し丈の高い金銅像が二体ならび、さらにそのうしろに、もっとも丈の高い金銅像が二体あった。五体の金銅像は、たしかに、両親、姉、兄、弟の五人家族のようだと、速仁は思った。
速仁は祈願をすませたあと、徹夜で勤行していたらしい律師に、新しい本尊の寄進をもうしでた。京都にもどり最高の仏師に依頼する。一年後を目処に開眼法要を営みたい、という。将来は東宮になろうかという速仁のもうしでに、律師は涙を流して感謝した。
そして速仁は、もっとも小さい金銅像を譲ってくれるよう律師に頼んだ。持仏にしたいというのだ。律師は、一も二もなく承諾した。
朝食をすませたあと、速仁は牛車にひとり乗りこんだ。膝には、金銅像を納めた小さな厨子を、だいじそうに抱えている。兼隆と賢子が乗る牛車がうしろにつづき、一行は石山寺を出立した。
昨夜はいっすいもしなかった速仁は、瀬田の唐橋のたもとをすぎた辺りからウトウトしはじめ、やがって熟睡してしまった。厨子の隙間から光りが漏れ出していることにも、なかから幼げな声が話しかけていることにも、まったく気づかない。
『一の宮くん、ありがとう。姉君と兄君から離れられて、ぼくはうれしいよ。あのふたり、口うるさいんだ。もっと修行しなければ立派な観音になれないと、いつも小言ばかり。さっきだって、持仏なんてだいじな仕事がおまえに務まるのかと、からかうんだよ。でも、母上と父上は、「かわいい子には旅をさせよ、です。頑張ってきなさい」と言って、笑顔でぼくを送り出してくれた。――ねぇ、聞いている?』
速仁は、安らかな寝息を立てていた。
『どうしたの? ひょっとして、寝ているの?』
クークー
『んっ、もぉぉ! 牛車のなかでも勉強しなきゃ! ぼく、式部殿の孫姫くんから、一の宮くんの学業成就を頼まれているんだからね。それに、孫姫くんに会いたいんでしょ!』
クークー
『こりゃダメだ』
もとから半眼だった観音の目は、心なしか吊り上がり、ますます細まっていった。




