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赤の女王の手のひらで  作者: 真の助
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プロローグ

「その場にとどまるためには、全力で走り続けなければならない」

ルイス・キャロル作 「鏡の国のアリス」より



「15年前に突如として現れた超能力者たちですが、その数は年々増え続け様々な分野で活躍しています。

みなさんも超能力を生かし社会に貢献できるようがんばりましょうね。」


生まれてから何億回と聞かされたセリフが、校長の口からでてくるのをおれはうつむきながら聞いていた。


もううんざりだった。

こういった話を聞かされるたび、悲しくなった。むなしくなった。やりきれなくなった。


小さい頃はヒーローに憧れていた。超能力で人を助け、感謝され、尊敬されるようなヒーローに。

自分はきっとなれると思っていた。

この世の中には、超能力があるのだから、

きっといつかすごい超能力を手に入れヒーローになれると思っていた。



でも、なれなかった。



5年前、政府が義務付けた定期的な健康診断で、

自分に超能力の素質があると医者に言われたときは心が躍った。

1年後、日本初の超能力者養成を目的とした中高一貫型専門学校「姫ケ丘学園」に政府の推薦で入学できたときなんかは、飛び跳ねて喜んだ。

これからの人生はバラ色だ。

ヒーローになって世界を救うんだ。

本気でそんなことを考えていた。



でも、なれなかった。



入学して一月が過ぎると15人いるクラスの3分の1が超能力に目覚めた。

半年で3分の2が、一年たつと14人が目覚めていた。


おれは、、、、、?

入学して2年たっても、おれが超能力に目覚めることはなかった。


そして気づいた

おれはヒーローなんかじゃなかったのだと、、、


努力はした。

授業も真剣に受けた、集中力を高める訓練もまじめに取り組んだ。

超能力を操るには体が重要だと聞いたから、体も鍛えた。時には無茶をして体を壊したりした。

ほかのやつらの何倍もの努力をしてきた。


それでもだめだった

それでもだめだったんだ



今まで泣き言を言ったことはなかった。

家族の前でも友達の前でも、明るく振舞っていた。

「大丈夫、きっといつかすげえ超能力に目覚めてやるぜ」

そう言って、自分をごまかして生きてきた。

友達のやさしさがつらかった。

家族のやさしさがつらかった。



でも、それもこれまでだ。


おれは、今日の超能力確認検査でなんの超能力も確認できなかったら退学させられることになっている。

いつものように校長が挨拶をすまし、検査が始まれば退学が決定する。


いつもは永遠に感じられる校長の挨拶が、今日は一瞬だった。


そこからはあまり覚えていない。

きっといつものように体育館からでて、検査室に一人ずつ入っていったのだろう。


気づけば検査室の椅子に座り検査が始まっていた。

いつもおれの心の安らぎだった、採血してくれるかわいい巨乳の看護師とも何を話したのか覚えていない。


くそ、最後なのだからもっと話せばよかった。

そしたら胸ぐらい揉ましてくれたかもしれない。

意外にも、悲しさよりそんな馬鹿な考えが浮かんだ。



「はじめくん!!!おめでとう!!!」

検査を担当してくれたいかにも賢そうな初老の医者の大きな声で我に返った。


は?

おめでとう、、、?


医者がニコニコと笑顔を浮かべながら言った

「超能力、目覚めてるよ」


まじか、まじかまじかまじか

こんなにうれしいことが今まであっただろうか

こんなにうれしいことが今まであっただろうか

心臓が高鳴るのを感じた。心が躍るのを感じた。

今なら、このニコニコおじちゃんを抱けそうな気分だ。

ああ、ついにか

ついにきたのか!!!!

心の底から叫びながらガッツポーズをした。

こんな自然なガッツポーズは初めてだ。


「しぇっしぇんせい」

興奮しすぎて噛んでしまった。

落ち着け、落ち着くんだおれ


気を取り直すと、おれは一番重要なことを聞いた。

「先生、おれの超能力はなんですか?」


ニコニコおじちゃんは答えた。

「ずばり普通の人より免疫力が高いっていう超能力だね」


ん?

んーーー

ん?

おーーーーっと

これは、、、これは思ってたのと違うなぁ

ふぅ、、、、、


たぶんそのときのおれの顔は世界でだれもしたことがない顔だっただろう

世界初、初公開、全米が泣いた、そんな顔だっただろう。

唖然、呆然、落胆、喜び、悲しみ、怒り、恥

そんなすべてを表現していただろう。


はぁ、相変わらず看護師のおっぱいはでけえなぁ



かくして、おれは退学をまぬがれたのであった。




















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