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chapter,3 Blood paint

「なんとかしなきゃ」


はだけた胸元を直し、トイレを出る。まず私に出来ることは彼女達を見つけることだ。


私にこびりついている血の跡に酷似したこれが何かなど気にしている暇はない。息苦しいとかそれが侵食してくるなんてことは今現在無いのできっと今は大丈夫だ。突然死ぬなんてことはないはず。


「って、まった。トイレ調べてないね」


一応トイレに戻り扉をひとつひとつ開ける。


便器も開けようか逡巡するがすぐに無理だと諦める。私にはたとえ何かあったとしても手を突っ込むなんて新技は出来ない。


「特に何も無い、か。まああっても取れないけど……」


他になにかないか一応調べたが特に何も見当たらなかった。トイレットペーパーはあるが特に何も使わないと思う。もし入り用になったときはこよう。


こっそり忍び足でトイレから出て近場の教室に素早く入る。ここは、資料室…だろうか?備品やらプリント類やらが山積みになっている。


「うわひどいホコリ…」


ほかの場所はある程度人の出入りがあったからと広かったというのもあるのだろうがこの部屋は狭く殆ど人が入らなかったのだろうがほこりが尋常ではない。


手で鼻と口を覆うがあまり効果は無いと思えるほどにはこの部屋はひどい状態にあった。独特の匂いと息苦しさにくしゃみが出そうになるし目が痒くなってきた。


本来ならすぐにでも出ていきたい。が

しかしなにかあるかもしれないためここは無理してでも探した方がいいとなんとか自らを納得させ探索を続行する。


改めてあたりを見渡すと突如ぞくりと寒気が走る。全身に鳥肌が立ち嫌な予感が胸を支配する。


「い、いまの……」


まさかここに何かいる??一瞬なにかの影のようなものが見えた気がするのだ。


「いや、気の所為だわ。過敏になりすぎているのかも」


きっとホラーゲーム特有のおどかしポイントだ。シャッターを切るとボーナスが貰えたりするあれに違いないわと自分を落ち着かせる。


「オネーサン」


「ヒョア!?」


予感は確信に変わる。

いきなり私の目の前に男の子の顔が飛び込んでくる。どうやら浮いて私をのぞき込む姿勢になっているらしい。そんな浮くなんて芸当は勿論生きた普通の人間には出来っこない。ということは必然的に生者ではないのだろう。


「わわっ!?お、おねーさんお願い照らさないで〜。僕光ちょっと苦手なんだよね」


どうやら驚いて彼にライトを当ててしまったらしい。だが彼がいい幽霊なのか、将又悪霊の類なのか見極めなくてはならない。


「まって、くるしいかもしれないけどこれを聞かないと。貴方私を殺そうとか思ってる?」


「ないない!僕を見えるのおねーさんだけなの!ほかの人にもあったけど見えないんだもん!だからお願い!」


少年はまだ幼く見え、歳はおそらく中学にはいりたて若しくは小学五年六年あたりといったところか。つむじが可愛らしい髪に八重歯が特徴的な男の子。


「わかった。信じるよ。それになんだか貴方…初めてあった気がしないんだもの。大丈夫だなって思える」


ライトを下ろし笑顔を見せると彼も満面の笑顔を見せる。

事実何故か理由は皆目検討もつかないものの、私は彼に既視感があるのだ。大丈夫という直感めいたものがある。


「ほんと!?うれしーな!僕は…えっと、僕は……???あれ、ごめんおねーさん僕って誰かな?」


僕って誰かなとな?それを私に聞かれてもわかりかねるのだが……。


「ん、ンンン?もしかして、記憶喪失?」


「きおくそーしつ…んー、そうかも!」


「かも!?」


「そうだよ!」


「そ、そう…名前もわからないんだよね?」


「そうだねー」


「じゃあ……じゃあアムネシア、君はアムくん。どうかな」


「あむねしあ…アムネシア……うん!ありがとう!僕、気に入っちゃったな!うれしい!」


まるで宝物を呼ぶように、顔を赤らめ大事そうに名前を呼ぶアムネシア。


アムネシアとは記憶喪失を指す言葉でそんなに喜んでくれるのなら安直な名前にするべきではなかったのではと少し罪悪感が生まれる。


「喜んでくれてよかった」


「うん!あ、そういえばあった時ひょあって…ふふ、おねーさんかわいい!」


「な、なによ!」


クスクスと笑う彼はイタズラ成功とばかりに嬉しそうにしているが私は驚きで固まっている。


「んーん!あ、そういえばおねーさんの名前は?」


「あ、ああ!まだ言ってなかったね。私は妙寺(ってことになってるもの)っていうの。よろしくね。ところで何も覚えてないの?」


「うーん…わかんないかな。でも、この学校には『あれ』いるよね?」


「ミノタウロス…」


「そう!僕、なんでかわからないけどあれとは何か関係している気がするんだ。ざわざわするんだよね」


「なんでアイツは人を襲うんだろう」


「ラビュリントス・ゲームだからだよ?」


「え?しってるの?」


「え?おねーさん知らないの?」


「し、知らないの!知ってることあるなら教えて!」


彼は知らない私が変だというように普通のことしか知らないよ?とこくびをかしげる。


「えっと〜、ラビュリントス・ゲームはね!一人ミノタウロスを決めるんだ。ミノタウロスになったらすべてを殺すまで止まらないんだよ」


「ころ、す?」


「そう!トントンって二回叩いたらその人は負け!もう二度と起きれないんだよ」


幼い言葉で告げられた真実は空恐ろしいものでつまりあの化物はここにいる全員を殺すまで絶対に止まらないということだ。だが…というこはみんなが殺されることによってミノタウロスと呼ばれる怪物は帰ることが出来る?一体どこに……?


そしてトントンと2回という言葉…恐らくそれは胸に2つ穿たれた穴のことだろう。負けで二度と起き上がれない…つまりは死…そういうことだ。


「な、なんでそんなことを!」


「彼は終わりたいんだよ!だって遊びが終わらないとおうちに帰れないんだから!」


「なんで帰れないの?」


「そういう遊びだからだよ?」


「な、なんでそういう遊びなの?」


「そういう遊びなんだもん!難しいことはよくわかんないよー」


「そ、そっか。ごめんね…」


「いーよ!それよりおねーさん此処から出たいの?」


「そうなの。それと仲間を見つけたいの」


「ふうん…わかった!僕に後ろは任せて!あのね、お願いがあるんだ」


「?なに?私に出来ることだったらいいけど」


「おねーさんといっしょに行動してもいいかな?」


「え?」


「僕おねーさんとなら記憶を見つけられる気がしてるんだ。」

あとあとそんなおねーさんの役に立つかわかんないけどそこに鍵あるよー!理科室の!」


彼が指さしたところには血でぐっしょり濡れていたのであろうそれがかわいて赤黒く変色した新聞紙。


恐る恐る近づくとその上には鍵が置いてある。タグには美術室と書いてある。確か隣の教室が美術室、そして次が理科室だ。


「この部屋でほかになにか見つけた?」


「んーん!」


「そう、ありがとう」


こうして後ろを彼に任せ素早く廊下に出て次の部屋へと移動する。


「ここが美術室ね」


「びじゅちゅしつだね!」


「ぶっ。い、今なんて?」


「び、びじゅつしつ!」


「言えてなかった〜」


「言えてるもん!」


こんな時だというのに不謹慎かもしれないが彼のお陰で少し元気が出る。彼の年相応な無邪気さに他すられているんだと思う。きっと一人なら死と隣り合わせのこの状況に頭かおかしくなっていたかもしれない。


だが、ほのぼのとした気持ちをあっという間にかき消すものが見つかる。


「ひっ……」


ライトで照らした黒板にはまた子供が書いた絵が所狭しと貼り付けられている。

ミノタウロスの絵が大半で、それが人を虐殺する様が描かれている。串刺し、引きちぎり、折られ、潰され、噛み砕かれ、実に多種多様なその様に吐き気が湧き上がってくる。


「うわーこれすごいね。……ふぅん。彼はそんなに嫌いなんだ」


「な、何言ってるのアムくん」


「彼、相当恨んでるみたい。みんなを殺しても殺したりないんだって」


幽霊特有の共感なのかなんなのか、彼は絵を見てうんうんと頷いている。この絵から私が読み取れるのは悲惨さだけだ。


「なんで、わかるの?」


「あー、僕結構観察眼すごいんだよ!死んじゃったのにあそび終わって帰りたいだけなら引きちぎったりばくってしたりしないよ。なら……殺すだけじゃ足りないってことでしょ?」


にこっと笑っていられる様を見てやはりこの子も何処かおかしいのだと少し恐ろしくなる。それとも子供特有の無邪気さなのだろうか?先程から遊びなんて言葉を使ってるしあまり重大なこととして捉えていない可能性もありえる。


「……アムくん、あなた……」


「……?なあに、おねーさん」


「な、なんでもない!じゃあ取り敢えずなにか使えそうなものだったり鍵だったり見つけたら報告してね」


「はーい」


この部屋も何故か無意味に血だらけで気味が悪い。普通の教室は比較的綺麗だったのにここの彫像なんて血の涙を流している。彫像から流れる血の涙は何故か途切れることなくぽたぽたとずっと流れ続けている。


まず戸棚をチェックすると彫刻刀や絵の具、粘土が入っている。


「スプレー絵の具……」


スプレー絵の具は何かあった時噴射できるからもしかしたらいいかもしれない。

一応2つカバンに忍ばせ次は水道を調べる。


蛇口をひねると水は出ない。全部試すが一向にでないのでもしかしたらここには水が通っていないのかもしれない。


「ん?このバケツ……」


水道近くの絵の具バケツに、一つだけ水が張っている。水が出ないのに怪しい…が、水が赤い。これが血でない可能性はあるのだろうかと思いつつ流すと金属音がする。


「あれ……これ理科室の……」


絵の具バケツの中には理科室と書かれた鍵が入っていた。またもや鍵をゲットしてしまったぜ!なんて思っていると


「おねーさん」


「なに?」


「外」


「外?」


「ミノタウロスきたっぽいよ」


「ま、まじ?」


「まじ〜!」


慌てて大急ぎに教卓の下に滑り込む。もし扉を開けられたらを考えたら隠れるが吉だ。


予想は的中でバンっと扉が壊れる勢いで開けられる。まずい、真逆本当に入ってくるとは……??あれ、もしかして…これ黒板に絵を貼りに来たとか?だとすれば最高にまずい。私がいるのは黒板の前の教卓だ。例えば黒板に貼ってから振り返られたらおしまいになる。


体がブルブル震えて泣きたくなる。このまま飛び出して逃げたところで捕まって死ぬだろう。だがまだ諦めないなんとかなるはずだ。


ミノタウロスの様子を伺うために耳に意識を集中させる。何故か静かだし……おかしい。そう思っていると突然けたたましい笑い声がして何かを磨る様なごりごりという怪しい音が響く。


アムくんもこわごわとそれを見ており私にジェスチャーで何かを伝えている。


「(……しかく?細長いしかく?あ、えんぴつ?かく!そっかなにかをかいているんだ!)」


アムくんのジェスチャーをなんとか察してふと気づく。彼はミノタウロスに見えていないのだろうか?いや、こんなに堂々と浮いているのに見えないということはそうなのだろう。


壊れたような笑い声は更にましてボキッと何かが折れる音。もしかして鉛筆、またはクレヨンな折れた音だろうか。考えていると地響きにも似た足音と共にあのムッとする匂い…奴が近い。


息を殺し祈るように手を握りしめる。


一歩、また一歩と足音が近づく。あまりの恐怖に思わず目を閉じる。


バンッ!突如大きな音がして恐る恐る目を開けるとミノタウロスは絵を黒板に貼り付けていた。


どくん、心臓が跳ねた。ここで振り返られたら終わりだ。お願い、そのまま出ていって!!


だが私の淡い願いなど、叶うはずもなかった。


「……!!!」


振り返り、私を見つけたその獣はにたりと口角をあげて私に向かって雄叫びをあげる。


空気はビリビリと震え、あまりの音量に鼓膜が破れるのではと本気で思ったがそんなことを気にしている場合ではない。私、死ぬ!


死ぬと思うと体は勝手に震える手であいたカバンからスプレーを取り出し噴射する。


怪物はしょげて鼻を鳴らすように呻いて尻餅をついた。いましかない!!!


「アムくん!」


「OKおねーさん!」


横をすり抜け隣の教室、つまり理科室の鍵を大急ぎで開ける。かちりと静かに音がして鍵が空いた気配を感じすぐさま滑り込む。


あまり廊下に長居するのは危険だ。見通しがよく隠れるのに全く適していない。

すると丁度隣の教室から再び雄叫び。どうやらもう回復したらしい。隣の教室から探されるのは必須。しかし廊下を走っても追いつかれるのもまた然り。


ならば……!


教室から出てボーリングを投げる容量で思いっきりスプレー缶を転がす。あまり知能がないように見受けられるあの怪物は恐らく音のする方に向かうだろう。転がすが早いか静かに理科室へ戻り手近にあるロッカーへ逃げ込む。


すると思った通り音のする方へと思い足音が向かうのが聞こえた。


「アムくん」


こそっと声を出すと彼がはーいと言うのが聞こえた。


「教室と廊下は無人でありまーすたいちょ!」


「引き続きお願いね」


「あいあいさー!」


ロッカーから出るとやはり私の苦手なホルマリン漬けの標本やら骨格標本人体模型が置かれていて気味が悪い。


だが助かったことに相違ない。安堵のため息をついて伸びをひとつ。


ホルマリン漬けの魚なんか『今にも目玉が動きそうだ』なんてゲームなら調べるコマンドでウインドウが出てきそうなくらいだが命が助かったことに今は感謝しよう。


「はー…ほんとにこういうの動き出しそうだからいや」


「おねーさん怖いの?」


「そりゃあね。絶対この骨格標本か人体模型、もしくはホルマリン漬けのやつ動くよこれホラーの鉄則だもん」


「ふーん怖がりだね!でもそっか、女の子だもんね」


「いや、男の子でも怖い人は怖いって」


「僕はへーきだけどね」


「いやうーん…それは勇敢というべきかなんというか」


貴方はもう死んでいらっしゃいますしね!とは流石に言いづらい。


「まあね!僕勇者の素質あるって王様にひのきぼう貰ったし!」


「それゲームでしょ!」


取り敢えず彼のことはさておき、改めてあたりを見渡す。恐らくここが理科室なら実験道具がある筈なのだ。ともあれば必然的に持っておけば心強い硫酸先輩を探すのだ。


戸棚をみるとなにやら鉱石が置いてある。……何故か血で汚れているが。


「……そっとしておこう」


無理矢理鉱石を見ないようにしてスルーし、下の戸棚を開けると鍋が何個か入っている。だが蓋を開ける迄もなく異臭が漂ってきて気分が悪い。


「これもそっとしておこう」


次の棚にはお目当ての薬品がズラリ。これならばと扉を開ける。そういえば理科室の薬品で作れる爆薬なんてあるらしいが如何せん詳細を思い出せない。失敗して死んだら洒落にならないしね。


「えーっと……はいどろ??……りっく……あし……????」


取り敢えず薬品の一つを手に取りラベルを読むがまずいことに全く読めない。『Hydrochloric acid』と書かれており裏返すと塩酸と書いてある。


「塩酸じゃなくて硫酸だよね。えーっとたしか硫黄と黄鉄鉱をつかって二酸化硫黄を作って〜ん??昔なんかのまとめてみたんだけどな〜。現物があれば一番いいんだけどないならやめておこう……」


「おねーさんこれ硫酸じゃない?何に使うの?」


アムくんが指さした薬品ボトルを手に取ると確かに硫酸と書かれている。


「でかした!ありがとうね。企業秘密だよ硫酸はいろいろ便利だからね」


「えっへん!あとは何探してるの?」


「いまは硫酸でいいよ。ああ…でも硫酸を小分けにしたいから試験管とろうともお願い」


「あいあいさー!」


硫酸をそのまま投げるのはあまりにも危険だし一度に使い切ってしまうのも勿体ない。試験管なら割れやすいので当て逃げすることが出来るだろう。


先程スプレーが聞いたことといいあの怪物には実体がある。殺せるか否かはこの際置いておきそれならばこれときっと役に立つ。ホラーゲームをやっている私からすれば備えあれば憂い無しなのだなんとしても硫酸を持ち帰らねば。


「あったよー!」


「了解。いまいくよ」


流石に硫酸を直にはいれられないので慎重に漏斗へ注ぎ、試験管の蓋を閉じる。


「これで5個はできたね。それじゃああとは何も無いだろうけど…一応標本のあたりも探す?」


「おねーさん怖がってたのにいけるぅ〜?」


「もっ、もちろんよ!ってあ〜!あの!此れ見よがしに置いてあるアイテム!絶対動く!絶対動くからこの標本!ってあれ…白衣?」


机に此れ見よがしと置いてある白衣。袖口にはべったり血がついたあとがあったが念のためにポケットを探るとドライバーが出てくる。


「うーん…今はいるとは思えないけど…持っていこう」


カバンにドライバーを入れて白衣をちらりと見る。


「いや、白衣は要らないか。まさか白衣持ってネイルハンー…じゃないドライバー振り回すわけにも行かないしね」


そして最後の難関である人体模型へと視線を向ける。目を凝らせばなんとなくだが胃のあたりに何かあるように見える。しかし経験則からいって取れば何かしらのアクションが起こるに違いないのだ。


「がんばれおねーさん!」


「他人事だと思って!」


「ごめんね…僕ゆーれーだから触れないんだ…役に立てなくて悲しいよ」


「めちゃくちゃ笑顔の言い訳ありがとう!!!!もういいよ!!!」


ひとつわかったことがある。彼は少し意地悪な性格のようだ。


意を決して手を伸ばし、いつでも逃げられる体制でそれに触れる。手に触れた感触からそれが金属であるということを察し、そっと引き出す。


「と、とった!早くここから……で???嘘…………」


嫌な予感は的中。見上げると人体模型の目玉がぎょろりと動き、私に焦点が合わさる。途端ぞわっと怖気が走り恐怖が足元を縫い付ける。この世のものではないその瞳は虚のように何処までも暗く、だが確実に私を殺そうという殺意が感じられた。


「ぁ……」


「おねーさん!早く逃げて!」


殺意の目に射抜かれ動くことが出来ない私にアムくんの声がやけに遠くに聞こえる。


スプレーは聞かないしナイフもきかない!どうしよう!焦ってばかりでなにもできない私に着実に近づく人体模型。


ギギギと音を立てて腕が上げられるのが酷くゆっくりに感じる。そしてそれは輪郭がぶれたと思った次の瞬間だった。


「ぁあああああぁ!?」


お腹が燃えるように熱いそして痛い。よろよろと後ずさる私の腹部には深々と人体模型の手が突き刺さっていた。後ずさり抜けた穴からはどうどうと滝のように血が流れ痛みとショックからその場に座り込んでしまう。


駄目だ、逃げられないと本能で悟る。こんなところで死ぬなんて…死にたくない!でも、この傷ではこの状況では私が生き残る可能性は万二一つもない。


でも、でも諦めたくない。死にたくない。私には…私には罪を償う為の真実を知る義務がある。


「わたし、は…わたしはっ!!!まだ!!死ねないっ!」


火事場の馬鹿力だろうか、自分でも信じられないほどの力で人体模型の隣にある骨格標本をぐわしと掴みそのままぶつける。そして怯んだ隙に手近にあった椅子で頭部を吹っ飛ばし雄叫びをあげながら腕を引き抜き足を引き抜き達磨にすればまだ動いているものの何も出来ない様だ。


「はーーっ……ハー……っ!!」


黒いセーラー服にも血が滲み出しぼたほたとこぼれ落ちる。だというのに興奮状態にあるせいかアドレナリンが多量に分泌されているのだろうがあまり痛みを感じない。

恐らくあれだけ突き刺さっていたのだ、穴からは内蔵が見えているだろうに。


「おねーさん!大丈夫?ぽんぽんが……」


「ハァ…は……っ……ぽんぽんなんて、っ……かわいい、ことっ……」


「そ、そんなこと言ってる場合じゃ!」


「わか、ってる!でも、ごめん…私……もう、もう……だ、め……かも」


ごぽりと喉奥から何かがせり出してくる。次いで口の中は鉄の味でいっぱいになり、ああいよいよ私は死ぬのだと思った。


どんどん目の前が暗くなっていく。もうダメだ。


激痛で意識が薄れ、ついに私は私を手放した。



理科室のブツで爆弾作れるらしいですね。作り方は知らないですが危険なものがたくさんだから大概棚に鍵がついているのでしょうね。


おすすめのホラーゲームありましたら教えてください!

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