chapter.2 Dead men tell no tales
『〇月〇日。…………をした。隠れ家に…い……仲間が言…ので廃校に……。それが間………った。ここには……………がいる。もうダメかもしれない。母さん…父さん許し……』
所々血がにじんでいてうまく読めない紙をしまいすぐ取り出せる様胸ポケットにバタフライナイフをしまった。
立ち上がりライトでほかになにかないか注意深く見る。どうやら調べ尽くしたようだ。
職員室に向かっていたが、そういえば突き当たりの教室……図書館を調べていないので戻って開けてみる。
……あかない、鍵がかかっているようだ。
「うーん…確かここは図書室、だったかな?…職員室いくか……」
職員室、と書かれた扉を開ける。鍵はついていなかったようだ。
先ずは手近にあるテーブルを照らすと埃だらけのそこに一冊の真新しい手帳を見つける。
『銀行強盗。銀野豪太。23歳。銀行で男は女性を脅し現金5千万を持って逃走。病気の父と母有り。この市内に潜伏している模様。見つけ次第確保の事』
説明文に写真もついている。スキンヘッドで浅黒い肌の男だ。
この写真の男は……さっき倒れていた穴のあいた男だ!?
随分と物騒な男だとは思ったが銀行強盗をしていたとは……。
次のページをめくると他にも何枚か写真が貼り付けられている。全てがなにかしらの犯罪を犯したもののようだ。
「か、快楽殺人鬼!?」
中にはそうそうたる罪歴の顔ぶれが書き込まれている。流石にこれに遭遇したら化物と同じく不味いことになるだろう。或る意味では、化物よりも怖いものだ。更に恐ろしい事にこれらの犯罪者たちはこの付近に潜んでいると書かれている。此処に書いてある人たちには注意しよう。手帳を持っていこうか……?
手帳を読むのに必死で気が付かなかった。闇の中に何者かの気配を感じる。
先程の獣のような息遣いの何かではないようだ。手帳に書いてあった犯罪者たちのことを思い出し身震いする。もしもその何者かが快楽殺人鬼だったなら、もしもロリータコンプレックスの強姦魔だったなら、嫌な汗がつぅと伝う。
どくん、どくん、どくん、息が荒くなる。後ろを振り返らず胸ポケットのバタフライナイフを手に取る。
「だっ、誰ですか!手を挙げてください!そうしないと撃ちます!」
「……?」
撃ちますという言葉に疑問を抱きつつ、片手を上げる。肩を掴まれ相手の方向を向かせられた瞬間ナイフを相手に…。
「あれ…女の子?い、一体ここで何をしているの?」
「お巡りさん?」
相手を見るとどうやら警官のようであった。一気に全身の力が抜ける。
「わっ、だ、大丈夫ですか!?」
崩れ落ちそうな私を支えてくれる腕は男らしく間近で見た顔はまだ若い。どうやら新人の警官のようだ。それに正義感がある人の顔立ちでこの人は信用できそうだとなんとなく思った。
「だ、大丈夫です。それよりお巡りさんは何でここに?」
「実は此処が凶悪犯の隠れ家になっていると聞いて……って、あ!君はどうしてここに?不法侵入に当たるよ」
お巡りさんはダメだよ!なんて言っているが今すぐ出ろと言わないという事は……。
「出られないこと、知ってます?」
「残念ながら。君も私と同じく鍵を探しているのかな?」
「はい…職員室ならあるかと思ったんですが」
「成程…見たところ、学生かな?たしかにこの年代の子達は肝試しとかしたがるもんね」
「すみません……」
「でも、そのナイフは危ないよ」
「これは……さっき手帳にあったスキンヘッドの男の人から貰ってきました。此処には何かがいます……だから、これを貴方に渡すことはできません」
「…………そうだね。此処には奴がいる。危ないなんていまさらだったか……但し、ここを出る時には必ずこれを私に渡すこと…それが条件だよ」
「はい…あ、お巡りさん申し遅れました私は妙寺…(らしい)です」
「なんか妙な間があったような…まあいいか、私は正。見ての通り警官だよ。此処から出る為に、宜しくね妙寺ちゃん」
「はい。えっと、正さんその……ちゃん付けは恥ずかしいといいますか……」
「そう?可愛いと思うけど……」
「と、兎に角!貴方の持っている情報を教えてください」
「ああ、うんいいよ。取り敢えずそこの校長室に入ろう…あそこは一先ず安全だ」
そう言うと彼は鍵を取り出し開け、中に入れてくれる。しっかり鍵がかかっている事を確認してから部屋の真ん中まで来る。
「ここは入口が二つある。どこからでも逃げられるように部屋の真ん中にいた方がいいよ」
「はい…まずは私から……私たちは母校に高校三年の思い出に肝試しに来ました……」
掻い摘んでスキンヘッドの男のこと、一緒に来ているメンバーについて説明した。
「成程……君の他にも人がいっぱい…私は此処に犯罪者が入っていくのを見たという近隣住民のかたの通報を受け、様子を見に来たんだ。君も見たと思うけど銀野豪太はあの化物にやられた」
「やっぱり…」
「君も見たの?」
「いえ、息遣いだけで姿は……奴が現れる時はむっとするような匂いと大きな足音がしたんですがそれがヒントなんですかね?」
「そうだね何度か見たけどおそらくは…それにこの校舎内をうろうろしているみたいで突然煙のように現れたりという事は無いみたい。遭遇しなければいいんだけど…どうやら銀野以外にも此処には犯罪者がいるみたいなんだ。だからあまり人を信用しすぎない方がいい」
「はい。えっと、正さんはどうしますか?これから」
「実は…上司とはぐれていて…彼を探したいんだ。ちょっと頭の薄いメガネのオジサンなんだ。見かけたらお兄さんに教えてね…君について行ってあげたいけど…もしかしたら途中で離れることになるかもしれない。でも、一緒にいるあいだ君のことはちゃんと守るよ。だって俺はお巡りさんなんだしね」
明るく笑ってみせる正さんに私は不覚にもどきりとしてしまう。かっこよすぎだ。しかもこの人素は俺かよ…私っていってたのに突然の俺…惚れる!!
「えぇ、えっと…」
「ここ、暗いし友達とはぐれて辛かったよな」
よしよし、と頭をポンポンしてよく頑張ったなといってくれる正さん。
つい涙腺が緩み、涙をこぼしてしまう。友達なのかもわからないがひとりで確かに心細かった。
いくら気丈に振る舞おうとも未知のなにかにひとりで立ち向かうという事は相当な勇気と覚悟がいるものだ。
「た、だだじざん……」
「はは、怖かったんだな。出来る君を限り守るよ。ここ出る前にゆっくり泣いていいんだよ」
「ありがとう、ございます」
正直に言うと怖かった。ゲームのようにうまくは行かない。ゲームですら必ず何処かで死ぬ上にトゥルー、またはグッドに行き着けるかとわからないのだ。
「君は女の子なんだし当たり前のことだよ」
「あ、ありがとうございます。ごめんなさい、まだあったばっかりなのにこんな……」
「気にしなくていい。寧ろ、ひとりでよく頑張ったね。ここからは私が一緒だ。さ、そろそろここから出よう?」
「はい!……あ、でも待ってください。ここ調べましたか?」
「あー、そういえばまだだね。調べよう」
まずは校長室の机を調べる。生徒名簿が一冊だけ置いてある。恐らく関係ないだろう。
壁には歴代校長たちの写真がかけられている。
夜になるとしゃべり出すなどの怪談もあるように白黒の写真になると少し不気味だ。
棚にはトロフィーや賞状が飾られているが特にこれ以上は何も無いようだ。と思った矢先、トロフィーやら症状の奥に何かを発見する。ライトで照らすとそこには……
「ひっ!?」
お札でびっちりと閉じられた扉があった。
お札は剥がれかけているものもあるがまだたくさん貼り付けられている。なにが恐ろしいってドア一面に隙間なく札が貼られているのだ。
「こ、れは…妙寺ちゃん…触らない方がいい」
「そう、ですね。この学校…こういうのが多いんでしょうか?」
「そうだね。私が見た教室にもお札が貼ってあったりしたね。この学校にはお札が多いみたいだ。なんでも理事長がそういうものに明るい人だったみたいで…そろそろここから出よう」
鍵を開け廊下に出る。
耳をすませばしんとしており化物はいないようだ。
「そういえば、ここの学校は広いよね」
「確かに……何階あるんでしたっけ?」
「7階建てだったかな…地下もあるみたいだよ…」
「うわ、それは高いですね。しかも……地下?」
「広いし、地下には焼却炉があるみたいだ。本当にまるで迷宮だよ」
「確かに……校長室以外の鍵はお持ちでないんですか?」
「うーん、残念ながら。でもこの鍵は怪物が落としていったよ。ってヒントにはならないかも知れないけど」
「いえ、それがわかっただけでも助かります。もしかしたら化物は鍵を使えるのかもしれない」
「どうだろう……私には奴が所謂バーサーク、獣の皮を被る狂戦士のような…理性がないようなものを感じたよ」
「……奴は何故ここにいて人を襲うんでしょう」
「そうだよね。それが最大の疑も「み、みょうじか!?」
「!!」
突如曲がり角で突進する勢いで私の肩を掴んできた男。
驚いて思わず体が固まってしまう。
「まて、妙寺ちゃんから離れろお前は誰だ」
正さんは厳しい顔つきで銃に手をかける。
「まっ、まて!俺ァ柚木だ!」
「あ、柚木…大丈夫、知り合いです。どうしたの?他のふたりは?」
「……常乃が、殺られた……」
「と、常乃が?」
先程情弱だとか私を馬鹿にしてきたあの男が!?
見知った誰かの死というものはなかなかに応える。私も次の瞬間には死ぬかもしれないと思うと心臓がドッドッドッと早くなる。
「アイツ、俺らより足が遅くて……転んで……それで……それで……」
「ゆ、柚木…落ち着いて、深呼吸して…刀利は?」
「と、刀利は無事だ、と…思う…」
「それで、常乃はどうしたの?」
「ゆ、幽霊だ……長い髪の女だ…水色の服を着ていて…教師、みたいな格好してた…ごめんなさいって、謝りながら追っかけてくるんだ……!!」
「「!!??」」
私と正さんは顔を見合わせる。私たちが遭遇した化物とは明らかに違う。此処には一体どれだけの何かがいるのだろうか。
「あの女…ごめんなさい、ごめんなさい、って言いながら…俺達に手を伸ばしてくるんだよォ!!」
「柚木」
取り乱す彼の手をぎゅっと握りしめる。
人というのは不思議なもので肌が触れ合うと安心するものだ。柚木も例外でなかったらしく張り詰めていた力が緩むのを感じる。
「落ち着いて。此処で取り乱していたら、死ぬよ。わたしたちはまだ、死なない。いい、柚木…」
「妙寺…」
「先ずは刀利を探そう。私も里佳子ちゃんと萌木ちゃんとはぐれているの」
「…あァ。あの、妙寺」
「なに?」
「そのォ、ありがとよ……お前、かっこよかった。ほんとは男の俺がしっかりしなきゃいけねェのにな」
「…柚木、私は……私はちょっと場慣れしてる、ってちょっと変だけど…そういう事だから。恥じることじゃないと思うの」
「うっ、なんかお前がイケメンに見えてきたぜェ…!!」
「ふふ、ほれてもいいよ?」
「ほれてまうやろ!!」
「ふ、二人ともそろそろ移動しない?」
私たちの茶番を申し訳なさそうに中断させた彼は上を指さす。
「ってうォ!?そ、そういえばこのサツは誰だ!?」
「柚木このサツって…お巡りさんだよ…この人はさっきあった正さん。挨拶して」
「そ、そゥか…俺は柚木、コイツの同級生だ」
「私は警官の正。出来る限り君たちのことを守るつもりでいる、よろしく。取り敢えず上に向かっていこうと思う。上まで見たら下に行って体育館を目指す予定だ。私も同僚と離れ離れになってしまったからね…」
「わかったぜ宜しくな正」
「ちょ、ちょっと柚木呼び捨てって…」
「はは、いいよ。宜しくね柚木くん。それで、女の幽霊とはどこで?」
「6階だ…俺達の教室をまず探したくて…」
「…女は下の階まで追ってきた?」
「い、いや…下の階に逃げたらこっちをじっと見て追いかけては来なかったぜ。それより一階の反対には行かないのか?」
「ああ…実は化物が反対側に行ったから念のために」
「おゥ…ゆいと千秋は無事だといいんだが…まだ一回も見てねェんだ」
「そうだね…行こう、二階に」
二階にあがり、手近な教室の扉を開ける。特に何も無いがふと、掃除ロッカーが目に入る。
「柚木、私はバタフライナイフ持ってるし正さんは銃を持ってる。なにか持っておいた方がいいんじゃない?」
「な、なにかって…なんだよ?」
「例えば、モップだとか…なにかあるだけでも気分的に違うかも」
「お、おう…でも幽霊にきくのか?」
「さあ…ただ物体があるように感じた化物にはきくのかもしれない」
「よし、じゃあ持ってくか」
柚木と私はロッカーに近づき、机にある画用紙に気がつく。
「んァ?なんだこれェ」
そして裏返した画用紙には…………
「やべェ…こ、れ……これは……」
そこには何人かの男女の生首が描かれていた。
「っ!?」
ひるむ私たちに気づいた正さんも慌てて駆けつけてくれるが彼も絵を見て言葉をなくす。
生首から流れる血は赤いクレヨンで書かれており何故かそれが妙にリアルに見える。子供の絵だという事が、殊更この絵を不気味なものに仕上げていた。
「おい、これ…この…いや、まさか、まさかな…」
彼が指さした先にあったのは……
「常乃?」
「お前も、そう見えるか?」
お互いの声は震えていた。顔を見合わせこくりと頷く。
「二人とも、常乃って?」
「私たちの同級生です。なんで、ここに……」
常乃の顔は特徴的だ。太っているということもあるが、彼は左目の下になきぼくろがある。子供の絵で多少わかりにくいがこれは常乃に似すぎていた。
「俺…ここに書いてある奴ら……知ってる。クラスメイトだった……奴らだよ」
「クラスメイト…なんでここに……」
「それからここに書いてないのは…ここに来た俺達と………………美濃だ」
「みのう?」
「美濃のことは…………あまり、話したくない」
「……そう、わかった」
彼の顔は酷く傷ついていて、同時に怯えていてとても聞けそうにない。
「無理には聞かない、聞けない。でも必要とあらばその時は、聞かないわけには行かないと思う…覚えておいて」
「……そうだな」
「二人とも、もうここからでよう。あまり一所に居るのは危ない」
私たちは教室を出て次の教室へ向かう。
「そういえば、なんでこうやっていろいろ探しているんだい?君たちは友人を探しているんじゃ?」
それは……たしかに何も言えない。だけど私は経験則から行って友人を見つけて体育館に行ったところで出られないきがするのだ。
「まず、鍵が何処かにあるかもしれないし…友人を探すついでに此処で何が起きているのか知ることが出来たら、と思ってるんです」
「まあたしかに私もここで起きている不可思議な出来事の理由が知りたい。でもそれは一番じゃない、いいね?君たちの命を第一に考えるんだ」
「おっさんも気をつけろ…ここに幽霊だの化物だのがいるならそいつァ一人じゃないかもしれない」
「それって…ていうかおじさんって…まだ俺23なんだけどな…」
「俺らから見りャおっさんだ。兎に角うじゃうじゃいるくらいに思っておいた方がいいかもしれねェ」
「そうだね…次の教室に行こう」
どうやら一つの階に教室は3つある。それからこの階には視聴覚室、資料室があるようだ。
次の教室に入ると、そこは何やら異臭がする。
「なに、この匂い……」
不思議に思ってライトで照らすと……
「千秋……」
柚木がその場に崩れ落ちる。手はブルブルと震え涙まで流している。
ゆいと行動していたチャラ男こと千秋が、血だらけで息絶えていたのだ。
やはり彼も胸に大きな二つ孔が穿たれ、中からはまだ血がチョロチョロと流れ出ている。
そして左腕は噛みちぎられたのか、床に投げ出されあたり1面は血の海と化していた。
腕の断面には骨やピンクの肉が見えており先程の時間が経過した銀野の死体よりもっとグロテスクだった。
「知り合い?」
正さんは躊躇いがちに質問する。確かに質問しにくいタイミングだ。
「はい。この人も同級生で」
「そうか…辛いと思うけど……いまは……」
「わかってます。いまは悲しんでる暇じゃないって…柚木、辛いのはわかる。でも行かなきゃ…」
「あァ…アイツ、チャラいよな。でも、あいつもあれで反省してるんだ。あの事以来…心を入れ替えてる」
「柚木、私には…わからない」
「わからなくていい。思い出すと辛いのは……お前だろ」
わたし?何故私が辛いのだろう。私の疑問に答えることなく、彼は廊下を見てくると言って外に出てしまった。
「…正さん。千秋…何かを守るみたいにして倒れてませんか?」
「そうだね…」
彼は後ろのロッカーに首を預け大の字な姿で倒れていた。恐らくゆいと行動していたことを考え、彼女を守って死んだのだろう。彼女の亡骸が無いことを考えればそう推理することが出来る。
彼の目を閉じさせ、拝んでから体を調べる。特に何かこれといったものはなかったが、彼の手の付近に血文字を発見する。
「ああ!ダイニングメッセージだね」
「ダイニング?ダイイングメッセージではなくてですか?」
「あっ、そっ、それ、かな……ご、ごめん英語苦手なんだ」
彼は間違えたことが恥ずかしいらしく赤くなった顔を両手で覆っている。
「なにそれかわいい」
いや、英語苦手なのはそれは私たち日本人ですしね気にすることないですよ。
ってハッ!?思わず正さんが可愛くて本音が出てしまった!
「かわいい?」
「ごっ、ごめんなさい!あのその、あれです、あれ!正さんにもお茶目なところがあるんだなって!あははは!」
「そう?でも、君のことちょっとでも笑顔に出来たなら俺が英語できないってバレたかいがあるね。なんて、不謹慎か」
「いえ、和ませてくれようとしたんですよね。ありがとうございます。そう、そういえばダイイングメッセージです!」
やじるし、だろうか?血文字が続く先にはスマートフォンがある。スマートフォンはライト機能がつきっぱなしになっているし血でベタベタに汚れている。
「この、ライト…一体なんの意味が……?」
やじるのほかに、ひらがなの『ひ』とカタカナの『カ』によく似た文字も書かれている。どうやら途中でちからつきたようだ。
「ひ、カ、やじるし、スマートフォン、ライト、血文字…もしかして……ひかり?って、書きたかったのかな」
「そもそもこれがひとかなのかもも怪しいけど…その線はあると思うよ。ひかりならスマートフォンのライトがついていたのもうなずける。ただ、なぜひかりなのかという疑問は残るけど」
「彼の遺体は恐らくあの化物にやられたものだと思う。私も銀野を見たけれど、こんな穴があいていた」
「そうですね…あの化物に関してのヒント、なのかな…何にせよ死人に口無し、真相は自分で探るしかないということですよね」
「うん…彼のことも、助けたかった……」
正さんは悲痛な面持ちで千秋を見つめる。決して彼のせいでは無いというのに責任を感じているらしい。
「貴方のせいじゃないですよ。寧ろ、止められなかった私たちの責任です」
「…君は強いな。俺も、昔は君みたいに、キラキラしてた筈なのに…職業柄しょうがないんだけど、疑って怒鳴られて……ちょっと疲れたんだ」
正さんは私を眩しいような、悲しいような目で見つめる。
私だって、そんなにキラキラなんかしていない。なにもわからないままここにいて、ただ脱出したいだけの人間だ。
「正さん…あの、私でよければ…「っ!大変だてめェらァ!逃げろォ!」
柚木が突然教室に顔面蒼白で飛び込んでくる。
「一体何が……」
「わっかんねェ!兎に角アイツは本気ヤベェ…目でわかる!逃げるぞ!」
柚木の次に入ってきたのはまだ年若青年だった。ライトで照らすと青年はにこりと私に微笑む。
「女の子ミッケ〜、しかもJKかあ〜」
ゾワゾワっと悪寒が背中を駆け上がる。
こいつは人間だ。だが、その中でも外道等と称される部類に入るようなそんなものを感じる。
「妙寺ちゃん!下がって…君と柚木くんは私が守る……止まりなさい、そこの青年。君は…詩清邦之だね」
「あれ、お兄さん俺の事知ってるんだ〜?」
「ああ…現在指名手配をされている君の事を知らない警察はいないさ。女子中高生を強姦並びに誘拐した人物とあらばね…有名じゃないと思うかい?」
「ありゃ、ここサツ居るわけ〜?ほんとついてないよね。カワイイ子に出会ったってのに。ま、そっか〜」
「うわロリコンめっちゃキモイ」
思わず出た言葉に彼はひどいとブーブー文句をよこす。
「え〜口説いてるのわかんないわけ〜?俺、結構君タイプだよ。だって、真面目そうだもんね心から」
「どういうこと?」
「作ってるまじめさじゃないってこと、さっき友達を犠牲にして逃げた真面目ヅラしたクソみたいな女の子よりは、ねえ?」
「まって、それ……いったい誰の……」
「さて、誰だろう?」
私が詰め寄るより先に柚木が男の胸ぐらをつかむ。
「おィ!説明ェしろこのクソったれがァ!その女2人!どこで見た!」
「おおっとこわいこわい。まずはそこのおに〜さんが構えてる銃、下ろしてくれる?怖くて俺話せないよ」
正さんは悔しそうに、ゆっくりと銃を下す。
「はい形勢逆転」
しかし次の瞬間一瞬にして胸ぐらをつかんでいた柚木が地面に倒される。彼自身何が起きたのかわからないようで目を白黒させている。
「そこのおに〜さんを殺さなきゃね。俺まだ捕まりたくないわけ。この血気盛んな少年が、殺されたくないなら…わかるよね?銃を寄越してくれる?」
「まずい…君だけでも逃げろ妙寺ちゃん……」
「で、でも……」
「いいから!必ず追いつく!」
「あっは、いいよ〜女の子は後でゆっくり…追いかけてあげる。死んでなければねえ?」
「聞いただろォ!おめェが一番邪魔なんだよ!!さっさといけ!!!」
「……!!二人共、ごめん」
たしかにここで私に出来ることは無い。居るだけ邪魔なんだ。何も出来ない自分に歯がゆい思いが募る。
「必ず合流するよ。心配しないで?さ、いって!」
正さんに力強く背中を押される。いくしかない。いくしかないのだ。そのまま走って振り返らず教室を出る。
「ごめん、ごめんなさい」
泣きながらそのまま階段を駆け上がり、手近にあったトイレに駆け込んだ。
手洗い場に手をつく。涙がこぼれるが今の私には泣いている資格も、暇もない。唇をかんでキッと前を見る。
「え……?」
手洗い場の上には大概鏡がついているもので、このトイレも例外ではない。
その鏡に写っている私になにか異変を感じる。
胸元の付近になにやら赤い…なんだろうか?制服をずらしてみるとそこには10と数字が書いてある。
「なに、これ……」
血のような文字が、私の肌にべっとりとついていたのだ。その文字は左腕に続いており、出をまくってみると手首の近くに0と書いてある。0から10までの数字が私に刻まれてたのだ!
ぬぐってもぬぐっても取れることのないその文字は一体何を意味しているのか。
謎が深まるばかりで混乱してしまう。先ほど男が言っていた真面目そうな女の子…あれは里佳子と萌木の可能性が高い。
「なんとかしなきゃ」
はだけた胸元を直し、トイレを出る。まず私に出来ることは彼女達を見つけることだ。
死人に口無し。
みなさん知ってますか?私はつい先日知りましたが
ロリータコンプレックスは18くらいまでの女性を対象として見ること
13から10付近までをアリスコンプレックスなどと分類されているそうですね。近年ロリコンという言葉でいろいろと書かれていますがそうだったのだな、と勉強になりました。