本日、俺と彼女は結婚する。
「それでは誓約をしていただきます。みなさまご起立ください」
俺達の目の前に立つ若い神父さんの言葉に背後にいた参列者の皆さんが一斉に立ち上がる。
場所は色慾城の礼拝堂。地球でいうキリスト教系の教会に似ているが、異世界には当然その宗教は存在しない。誰に礼拝するんです?とタァバサさんに聞くと「さぁ?」と返ってくる存在意義の不明瞭な広い空間で俺とサラさんの結婚式が執り行われていた。
サラさんと出会い、婚約してからもう三ヶ月経過している。
その間色々あったけれど、とりあえず俺とサラさんは普段は日本人の夫婦として生活することとなった。
世間では新代魔王はタァバサさんと違い顔を出しをしないインドア魔王と言う設定が横行している。
俺の奥さんが魔王だというのはカルジンさんを初めとした色組の方々と日本政府、そして超絶一般人である仁志両親だけであり、本日参列している俺の親族と友人はサラさんを色慾城の魔族という認識しか持っていない。サラさんの素性を隠した結婚なのだが何故か防衛相とか外務相とかが出席している。親戚にいたかな?
また俺が呼んだ親族の中には以前異世界人の女性と結婚&離婚をした叔父も出席してくれていた。
叔父は新郎である俺を見ながら「あれほど結婚について口を酸っぱく言ってやったのに、よりにもよってお前も異世界人か…」と俺に哀れみの目を向けていた。滅茶苦茶に失礼である。しかし先見の目はある。いや、ただ過去の経験かな?
因みに三ヶ月ほど経っている間に俺はサラさんに五回ほど汚い花火となったり、色組の反対派に暗殺されそうになったり、それを止めようとしたサラさんの魔力でまた汚い花火となったり、友人達に「あ、俺結婚するんだけど結婚式くる?」となんの前触れもなく尋ねたら問答無用で私刑を受けボロ雑巾になったりした。他色々合わせると三日に一回は酷い目に遭った気がする。結婚大変。
「仁志さんとサラさんは今結婚しようとしています。この結婚に正当な理由で異議のある方は今申し出てください。異議がなければ今後何も言ってはなりません」
「異議あっぐふっ!!」
「…異議ありません」
神父の問いに巨大な手を上げて声を上げたのは、たしかサラさんの配下のラララーバラさんだ。しかし、隣に居たカルジンさんに何かをされたみたいで発言が中断された。
未だに俺とサラさんとの結婚を反対する連中は多いご様子。
「…どうぞお座りください」
神父の声に参列者の皆さんは再び座する音を立てる。
俺も座りたい。どうもむずむず気恥ずかしい。着慣れない正装を着て普段猫背がちの背中を常に伸ばす。白い手袋がちょっと上質で落ち着かない。軍手に換えてくれません?
隣に居るのは紅いウエディングドレスを着たサラさん。色慾の魔王は赤色を好むのだそうだ。俺も嫌いでもない。それに。
「……」
肩が空いているウエディングドレスは鎖骨がフルオープンしており大変結構でございます。ドレスの色とかどうでも良いよね?
「仁志さん、あなたはこの女性を健康な時も病の時も富める時も貧しい時も良い時も悪い時も愛し合い敬いなぐさめ助けて変わることなく愛することを誓いますか」
「はい、誓います」
緊張を押し殺して神父に答える。一応リハーサル的なことはしたのだが、どうしても落ち着かない。
中学の時叔父の結婚式で同じようなやりとりをしていた記憶が蘇る。
感慨深い。あの時抱いていた憧れ、素敵なお嫁さんを本当に迎えることになったのだ。
「サラさん、あなたはこの男性を健康な時も病の時も富める時も貧しい時も良い時も悪い時も愛し合い敬いなぐさめ助けて変わることなく愛することを誓いますか」
「はい、誓います」
対するサラさんは常時堂々としている。城入り娘だというのになんという自信に満ちた態度。半ば自意識過剰ではなかろうか?まぁ、魔王なのだし過剰と言うほどでもないのかな?
「あなた方は自分自身をお互いに捧げますか」
「「はい、捧げます」」
神父の言葉に俺とサラさんは同時に答える。
一般人が魔王に捧げるのはともかく、逆はとんでもない事だろう。この言葉を信じるならサラさんの鎖骨は俺に捧げられたという事になる。やったね、マジやったね☆
誓い合えば次は指輪交換に入る。
神父さんが愛の印として与えるだの受け取るだのを問答し、政府からお金を借りて購入した指輪を交換する。
びっくりするほど高い指輪だった。俺自身付ける指輪なんて輪ゴムで良いですよなんて言おうとしたら、周りから魔法付与された指輪にするように言われた。指輪選びにカルジンさんと巻子さんも同席する。よくわからない経験をしました。
互いに左手薬指に指輪を通す。飾り気のないシンプルな指輪。
「んっ…」
一瞬指輪周りに痛みが走る。
どうも魔法付与が発動したらしい。
正式な誓いを果たした後に指にはめると発動する呪術系の魔法付与。普通に外すことができなくなるが、俺に対して様々な効果を与えてくれるらしい。色々ありすぎて全ては把握できていないけど抗魔石と同じ力が常時発動してる
らしい。生ける人体花火としては凄い有り難い。いやマジで。
「ではベールを上げて誓いのキスを」
遂に来た!婚約してから三ヶ月。もしかして速攻童貞卒業?なんて思った時期もありましたが、今日この日までキスもしていない俺達。
俺なんか裸どころか内蔵も(撒き散らして)お見せしている訳だが、なかなかサラさん側の貞操観念がしっかりしていた。色慾の魔王だよね?不思議発見。まぁしかしその間彼女の生鎖骨は幾度となく拝見している訳なのでプラマイゼロとしておこう。
目の前に経つサラさんの薄紅色のベールを上げる。そこに現れたのは圧倒的美貌の魔王。そして視線を下げれば美鎖骨。
よーしキスするぞ~。
他人に見られながらのキス。初めて彼女の身体に唇を付ける。
「…仁志さん。キスは鎖骨じゃありませんよ?」
「……」
やってしまった。
俺のファーストキスは彼女の鎖骨となった。
友人共が「馬鹿だ、馬鹿がいる」と笑うのを我慢している。あとで泣かす。
「…んんっ!」
咳払いを一つして、仕切り直す。失敗は誰にでもあるのだ。これだけ魅力的な鎖骨を前にしたら唇の着地点がそちらに変わってしまったのは必然とも言える。この着地は小さな一歩に見えて大きな一歩に違いない。
これ以上はまた後ほどということで改めて彼女を見つめる。
全てにおいて赤く朱く紅い、赤を纏ったサラさん。日本にいる色慾城の主、色慾の魔王ラスト・リリステレス。
今日この日、この瞬間より彼女は一般人忠野仁志の妻となり、俺は魔王サラ・ラスト・リリステレスの夫となる。
なにかの間違いではなかろうか?何度も思う。あの夜、俺は彼女に何を言ったのだろうか?
何度も尋ねたけれど、サラさんは語ってくれない。
正直なところ魔王を幸せにすることなんてできるとは到底思えない。
普通の女性であったとしても幸せにしてあげられる自信も無い。
それでも、そんな俺でも彼女と幸せな生活をしたいなんてそれっぽい事を考える。
どうしたら彼女を幸せにできるのだろうか?
どうしたら彼女の笑顔をいつも見ていられるだろうか?
どうしたら彼女をただの女性、ただの奥さまにできるだろうか?
わからないけれど、これからの生活は誓い通り彼女と共に歩みたい。
そんなことを想いながら俺は双眸を伏せた彼女の唇に自らの唇を重ねた。
この日、俺達は結婚を果たした。
あーやわらかー。
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日本の役所にも前日に婚姻届は出しており名実ともに二人は夫婦となった。
俺は忠野仁志という名前の他に、仁志・リリステレスという名前を持ち、彼女もまたサラ・ラスト・リリステレスと忠野サラという名を名乗ることとなった。
結婚式に披露宴、二次会が行われる。
披露宴などでは防衛大臣と外務大臣、それに初見だったので知らなかったが絆機関の機関長も巻子さんと参列してくれいていたらしく態々挨拶してもらった。
滅茶苦茶緊張した。何に緊張したのかわからないくらい緊張した。
選挙で名前見かけたら投票しちゃおう!
全ての催しが終わった頃には既に日が沈んでいた。
婚約こそしていたけどこれまで別居していた俺達だが、本日からはあの日巻子さんに紹介された政府保有の一軒家に住まう事となる。
つまるところ皆様、お待ちかねの初夜である!




