新婚旅行前夜
「へー、二人の新婚旅行熱海行くんだ?」
カフェに和藤夫婦と行った際に護さんに尋ねられた。
俺達忠野夫妻は新婚旅行に熱海へ向かう。
静岡県熱海市、温泉観光地としてあまりに有名な街である。
俺達は熱海を拠点に伊豆半島を二泊三日で巡る。
結婚式を挙げて直ぐ行けなかったのは、いままで色々と慌ただしく新宅にもまだなじめてないので一息ついてから出かけようという話だった。
というか、結婚式で手一杯で新婚旅行に頭が回っていなかったという事実もあった。
「熱海か~いいねぇ温泉」
「そうだね~。でも意外、海外とかには行かないの?あ、別に熱海が悪いって訳じゃないんだけれど」
奈々梨さんが思った疑問を尋ねてくる。まぁ確かに異世界人が地球に訪れてから一世紀経った今でも新婚旅行と言えば海外に出かける夫婦は多い。俺自身も外国語てんでダメなのだが、新婚旅行くらいはとも思っていた。
しかし、残念なことにサラさん側の事情により海外旅行は断念された。
サラさんは忠野サラ名義で日本人生活を始めたが、残念ながらそれが適用、通用するは日本国内までである。
海外に出れば必然と色慾の魔王ラスト・リリステレスとして扱われることになるらしい。
そして、魔王が他の国に出向くのは、それすなわち侵略に等しい行動となるそうだ。
初めそれをカルジンさんから聞いたとき「なんだそりゃ」と声が漏れてしまったが、事実らしい。
どうにも現在この地球に在籍する七人の魔王様方は例外は居れど、基本自身の領地でふんぞり返り硬直状態を決め込んでいる。
仮に他の魔王の領地に出向こうなら一触即発で戦争に発展しかねない。
ただの観光とあらかじめ報告すれば行けないこともないのだが、その際監視がついたりし、夫という存在が露見されることになるそうだ。
なので俺達大人しく国内で新婚旅行をすることとなった。
「えぇ、まぁ、あんまりお金もありませんしね」
実際お金の話なら色慾城側から何処へ旅行に行っても事足りるくらいの旅費は貰えるだろう。国内旅行といっても日本には四七都道府県、魔王城も入れると四八都道府県城もあるわけだ。選択肢は数え切れない。個人的には沖縄とかにも行ってみたかった。
しかし、今回は比較的近場でもある伊豆半島を選んだ。俺達忠野夫婦の深刻な問題を解決するために必要な場所が、そこにあるのだ。
「そうか、そりゃそうだよな。俺達も成人して結婚はしたけど、結局新婚旅行行ってないもんな」
「だね」
「そうなんですか?」
「意外です」
サラさんと同意見、こんな仲の良い二人が結婚して新婚旅行に行っていないのは些か意外だった。
「金もないし、日々仕事こなしてるだけで手一杯だしな」
護さんは苦笑いをしながら答える。しかし、微笑んで言葉を続ける。
「まぁ、ナナが隣に居れば俺は何処でも良いって話しだよな」
あんま~~い!!
うおーマジか、この人良くそんな恥ずかしい台詞口に出来たな。ちょっとこっちまで頬紅くなるわ。コレを言って赦されるの本当にイケメンまででしょう。
「でも、私達も旅行行きたいね」
おっと、奈々梨さんは若干リアリスト対応…と見せかけて滅茶苦茶顔が緩んでる。
「だなぁ~今お互い忙しいけど、四月にでもちょっとした旅行行こうか?」
「そうだね~」
などというやり取りを見せ端から見ても仲睦まじい夫婦であることを改めて認識させてくれる。頑張って俺もサラさんと仲良くなれねば。
「サラさん、俺達も新婚旅行頑張ろう」
「ん?新婚旅行って頑張るものなの?」
若干の不安と期待を胸に、明日俺達は新婚旅行へ出かけます。
------ Calljin Side-------------
「そうですか、わかりました」
色慾城にある私の階層。幾つか頂いた部屋の一つである執務室で、私は電話の応対をしていた。
「えぇ、その辺りの条件は先代と交わしたものと同じと思ってくださって結構です」
サラ様がご結婚なされて数日。私はその殆どをこの部屋で過ごしていた。
普段から魔王の政務を代行していたので仕事の勝手自体はわかるが、先日の結婚式の際に、政務を後回しにしていた為そのツケが今回ってきた形となる。
こう言った業務だけは魔力の有無は関係ないため、我が組の連中は不得手と言えた。
ただ最近では仁志様の補佐官である巻子真二郎さんが、こちらのデスクワークを手伝ってくれている。
お陰で私は大事な政務に集中出来ている。
これほど有能な人間を仁志様の補佐に当てるのということはそれだけ絆機関の真摯さが伺える。
あの機関には彼並みの人材が多く居るのだろうか?
「ですが一つ、改めて言わせて頂きますが我が王の伴侶、忠野仁志。彼の安全だけは保証してください。彼にもしもの事があった場合、我が王がどのような行動をとるかわかりかねます」
電話でのやりとり。相手は日本の防衛省の役員からだ。内容は所謂宣戦布告に近い。
日本という国は我々が転送される前にあった大戦に負けて以来、軍を持たず自ら他国を攻める事をしない。
その日本国が何故我が国に宣戦布告紛いな発言をしているのか?
突き詰めれば単純な話である。
我々色慾城は地球に転移してから約一世紀、日本国領地を占拠し居座っている。現状共存と言える状態ではあるが、とらえ方によっては色慾城が日本の領地を占拠しているとも解釈できる。
攻められているのであれば日本国は防衛のために部隊――自衛隊を派遣できる。
ただ一世紀も共存が続き、昨今では両種族が隣で分け隔てなく歩いている環境である。親睦を深めてしまえば両国とも表だっての戦争は難しい。
そのため日本防衛省はブレイヴァーズなる日本国民にも秘匿された特殊部隊を造り、彼らに魔王討伐の使命を下してきた。
万が一彼らによって魔王陛下が敗れた場合、我々は彼らの軍門に降る。
とは言え、日本という国は非戦争国を謳っているため軍門という形ではなく色慾城という場所が日本の領地となり、色慾城の民が正式な日本国籍扱いとなるわけである。
先代から続いている我々からしたら|政≪まつりごと≫に近い行事、というより魔王の暇潰しである。
約束を違えるつもりはないが、元来魔力を体内に蓄積できない地球人がいくら束になってかかってきても色慾の魔王に敵う道理はない。
一世紀の間に随分と戦力を増してはいるが、それでも魔王という存在には足下にも及ばないだろう。
「はい、場所はサラ様と仁志様が向かわれる。熱海で…えぇ、二人の時間の邪魔でなければいつでも」
それから数分間幾つか確認を役人とやり取りをして電話を終える。
「カルジン様」
「ディーボ、どうした?」
私が受話器を戻したと同時に待機していた部下のディーボが声をかけてきた。
「電話のお相手は日本政府の奴らですか」
整った顔立ちと肩先まで伸びたストレートの銀髪から覗く碧い瞳が私を睨んでいる。彼は私を、色組を心酔している。傍目から見える怒気は先程の電話相手へのものだろう。
「あぁ、防衛省の方からだ。明日から行うサラ様達のハネムーン中にサラ様への自衛行動を行うそうだ」
「下等な日本人がぬけぬけと」
ディーボは忌々しげに顔を歪める。彼は我が色組を心酔するあまり、日本、果ては地球人を蔑視している。
確かに彼らは矮小と言って過言ではない。
「ディーボ、貴様は我らが主の方針に異を唱えるつもりか?」
しかし、我々の王サラ様が日本人である仁志様とご結婚され、日本国と和睦を深めた今、のディーボの態度は不敬に値する。私は言葉と共にディーボにキツい視線を送る。
「と、とんでもございません。しかし、正直なところ私はまだ、あの男を認めることが出来ません」
否定しつつも、自分の本心は隠せないディーボ。まだ青い。こいつもまだ仁志様に関わる仕事を振るわけには行くまいな。
サラ様の伴侶となった忠野仁志。
彼にかかわらず様々な業務は私が一人で熟さなければならない。日本国側から巻子氏が仁志様の補佐役としてコチラの仕事をフォローしてくれているが、色組に関わることを振るわけにも行かないので、仕事は山のように増えていく。
そんな仁志様の存在に私も迷惑を感じていないと言えば嘘になるが、それでも私自身、彼に対する意外な心境の変化を抱いている。
彼自身は紛う事なき一般日本人。地球人は稀な例外を除けば魔力を体内にて生成及び貯蓄できない。
地球という世界には魔素という概念が我々が転移するまでフィクションの中でしか存在していなかったのだ。
唐突に生まれた魔力という概念。否、常識化されていなかっただけで一部の界隈は知っていただろうが、転移事件前の地球という星では魔力の常識化は不要ないし世界発展の妨げになるとされ隠匿されていたようだった。
申し訳ございません。当話ですが、まだ途中となっております。
予約していたのを忘れていました…
出来るだけ早めに更新するよう努力いたします><




