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ポイント入ってるもの

ヤンデレはもううんざりだ~出会い編~

作者: 末吉

主人公、ホモではございません。

「あなたも殺して私も死ぬ」

「私だけのものにならないならあなたを殺す」

「仲良さそうに話していたあの子なら、もういないよ?」


 ……もし身近にそんな狂気じみた言葉を吐く女性がいるならはっきり言おう。距離を置きなさい。もしくは縁を切りなさい。


 たとえそれがとびきりの美少女でも、好きだった幼馴染でも。


 恋愛という点でどこかずれてる彼女達を相手にするのは命がいくつあっても足りないぜ?


「現在そんな連中に追っかけられているからな!!」


 七月。雲一つない晴れ空の中。

 照りつける日差しがアスファルトを過熱させ、こんな日の中走らざるを得ない俺の体力をさらに奪っていくが、そんなものもはや気にならない。

 なぜなら、こんな綺麗な天気の中、狂気に身を落とした奴らに追われているからだ。


 その連中もたがいを牽制しながら追っかけてきているのが幸いだが、それでも勢いは止まるところを知らないので、単純に怖い。


 警察さえも介入できない俺達の恋愛事情は、現状平和だったと言えるぐらいには俺も頭がおかしくなっているとは考えたくもない。


 こうなった経緯という、ごく個人的な話を語った方がこの現状について信憑性を持っていただけるのではないかと思うので、回想という場を借りてお話ししようと思う。


 俺――上月修の騒動の起源になった五月の事を。





 上月家。この歴史を端的に言うならば、ヤンデレのお蔭で繁栄したと言っても過言ではないだろう。

 というのも、我が一族の男は何故か知らないがヤンデレを妻としてるのだ。

 ……女の方はなぜか大富豪とかそういう関係の人と結婚して幸せに暮らしてるそうなのだが。この差は一体なんだと言いたくなる。


 なにせ過去をさかのぼれば殿様だった時代に正妻と側室でバトルロワイヤルまがいがあったという逸話まであるのだ。どれだけヤンデレに好かれているんだよと毎度思う。


 とまぁそんな血筋の末裔であるため俺もヤンデレに好かれやすいのだろうと推測でき、中学高校と男子校で、大学にはいかずに就職して出会いのない生活を過ごしていくことを若い頃に決め、その実行をしていた。


 それがうまいこと嵌って現在高校三年生で卒業するだけの日々になり、就職活動に奔走しながら授業を受けるという日々で履歴書を書いていた五月のゴールデンウィークの最初。全てはそこから始まった。


「ちょっと顔見せ程度にうちに戻って来い」


 家族に俺が就職するとは言ってない。言ってなくとも予想されているだろうが、これまで何も言われなかったのだから別にいいのだろう。

 だがこんな風に連絡を受けたからには何かあったのだろう。もし無視したらその翌日に強制連行される未来しか見えない。


 しかし今更だがうちの家系よく絶えなかったよな……と考えながら履歴書を書くのをやめ、寮の部屋にある服などをキャリーバックに詰めることにした。



 そんな訳で地元に電車を乗り継ぎ返ってきた訳なのだが。

 特筆すべき点というならやはり俺の血筋か。

 駅のホームに降り立った俺はふぅと息を吐いて空を見上げる。


 上月家の一族は何かしらの才能を与えられ、成功している。女性の方は家事関係が普通だが、男子はバラバラ。

 祖父は曾祖父から受け継いだ実家の地主で未だに畑作業をしているし、親父はベンチャー企業の社長で成功している。


 かくいう俺も運動神経が良い。自慢じゃないが、ボクシングの全国大会二連覇するぐらいには。


 結構スカウトされたが俺は全てそれを蹴った。なぜなら特になりたいわけじゃないから。普通に働いて生活するぐらいの人間でいたいのだ。一族がとんでもない経歴の人間ばかりの反動だろうが。


「正直帰りたくなかったんだよな……」


 高校で就活をするというのは実際めんどい。大学生みたく時間が取れるかと言われるとそうでもないからだ。

 だから休みの間にやりたくて帰りたくないんだがな……と思いながら駅を出てバスに乗ることなく自分の家に帰ることにした。


「あら坊ちゃん。久し振りですね」

「あぁどうも。今回は強制的に呼ばれたもので」

「あらそう。大変ね」


 そんな風に会話をしながら歩く。ぶっちゃけ地主のせいで顔見知りばかりである。

 ぶっちゃけみんな家族のようなものだ。あまりにも顔なじみ過ぎて。

 宴会とか村総出だからなぁと思い出しながらのんびり歩いていると、一台の車が俺の前で止まった。


 俺も立ち止ると、車の窓ガラスが開いてその人物が顔をのぞかせた。


「来たようじゃの修」

「呼び出しといてなんだその言いぐさはクソジジイ」


 そういうとその人物――上月修也はしわくちゃなその顔で笑みを浮かべ「元気そうで何よりじゃよ」と言うとそのまま車が発車してしまった。


「っておい!…俺を迎えに来たんじゃないのかよ」


 期待して損したが、基本的にそんなことする奴じゃないことは納得していたのでダメージは軽く、五月だというのに眩しい日差しの中俺は先へ進むことにした。



 今更誰得な身体的特徴を説明しようと思う。もちろん俺のな。


 身長は百七十と平均的。髪は茶髪のショート。丸坊主だったのを三年と同時に伸ばしたのだ。ボクシングをやめて。

 日本のボクサーの大半は細身だが筋肉質で、体脂肪率一桁なのだが、俺もそれに当てはまる。ガリガリではなく引き締まったと言えば分りやすいだろうか。

 顔立ちは顔面にパンチをうけまくったにもかかわらずどこも変形していない。相手ににらみを利かせるためみたいな細い目、鼻先は少し丸く、歯並びは良好。折れたこともなく、全部自前の歯。

 もみあげは耳の真ん中あたりで揃え、服装がだぼだぼのジャージに髑髏が描かれた黒の半袖Tシャツなので完全にいきがったヤンキーに見えてしまう。スーツは普通なのだが、私服となるとこんな感じが多い。


 とまぁこんな感じ。幾ばくか想像できてもらえただろうか。それなら重畳。


 駅から歩いて三十分。爺と会って十五分。それが実家に着くまでにかかった時間。

 一本道なので分かりやすいが遠いので普段なら村の人に送ってもらうが、今日はそんなことを頼む気にならなかった。


 なんというかどこか全員が浮ついているのだ。若い(と言っても二十代や三十代の事)連中ですらも。

 なんだか嫌な予感がしたため躊躇い、歩いてここまで来たが……すごい帰りたくなった。

 相変わらずデカいもんだなと思いながら葛藤していると、ギィィィとその門が勝手に開き、中からこの屋敷の家事を取り仕切るメイド長と執事&メイドさんが脇で列を作り登場した。


「お帰りなさいませ修様」

『お帰りなさいませ』

「……ああ。ただいま」


 久し振りなので少し驚き、間をとって返事をする。

 となるとジジイの車を運転してんのは執事長の冠さんか。また面倒なことになりそうだな。

 そんなことを思いながら門の中に入ると執事の一人が「荷物をお運びいたします」と俺のキャリーバックを持っていったのでそのまま放置する。


 前に自分で持っていくと言ったら頑として譲らなかったからな。「仕事の一つです」とか言って動かないままだったから俺が折れたんだよな。

 寮生活するとか言ったら執事の一人編入させようとか言いだした時は焦ったなと思いながら、頭を下げて動かない列をメイド長の雫さんの後を追いつつ歩きだした。


「修様。相変わらず服装の趣味が悪いと思います」

「サングラスとかアクセサリーつけてないだけましだと思ってくれれば」


 門から歩いて三分。家の玄関に着いた俺が靴を脱いだらそう言われたので向きを揃えながら返事する。

 ちなみにだが、メイドや執事と洋風の呼びを使っているが服装は和服。仲居さんあたりを想像してくれればわかりやすいだろう。


 相変わらず家が広いし土地もあるし山も所有してるし……あの爺一人で管理はしてないだろうが齢九十近いというのにあの元気はどこから出てくるんだ。まったく解せん。

 視線を彷徨わせながら雫さんの後をついていくと、俺と同じ茶髪で、顔が老けていて優しい人に見える男とばったり会った。


「よう修。来たか」

「……珍しいな、親父がここにいるなんて」

「色々あってな。お前が呼び出されたのも一役買ってる」

「ふーん」


 そう適当に返事をするとそいつ――上月柾谷は「まぁゆっくりしていきなさい」と言ってそのまま通り過ぎた。


「ちなみにですが、奥様も来ておりますし空也伯父様夫妻や善人叔父様も来ております」

「親族ほぼ集合してるのか。みんな暇じゃないだろうに」


 そう言いながら欠伸を漏らす。夜行列車に乗ってきたので少しは寝ていたが、やはり眠気はあるようだ。

 まだ昼にもなってないんだよなと再度欠伸をすると、「お部屋で少しお休みになられたらいかがでしょう? 時間が来たら呼びに向かいますので」と提案してくれたので頷くことにした。




「起きてください修様。昼食の準備が整いました」

「んあ……ああ。分かった」


 うちで働いているメイドの一人が起こしに来たらしく、目が覚めたらそんなことを言われた。

 布団に入って寝ていた俺は起き上がって伸びをし、首を左右に曲げてから髪を掻く。


 あーよく寝た。これなら何とかなるだろ。

 そう思いながら部屋の外に待機しているらしい彼女を待たせるのも忍びなかったので襖を開けた。


「おはよう」

「おはようございます。すでに皆様お揃いです」

「分かったよ」


 年齢的には俺より歳上の人から頭下げられるなんて普通の神経じゃ怯えるだけだろうなと俺の神経もおかしいと言ってることを考えながら歩く。


「そういえば用ってなんだ?」

「分かりません。私どもには詳しく教えていただけませんので」

「マジか……変なことになったら容赦しなくていいだろうな」

「いえ、加減はしてください」

「大丈夫だろ」


 そう言って俺は先を行き、彼女は黙ってついてきた。

 本当、そんなことにならなければいいなと思いながら。



 食堂に着いたので俺は扉を開けて中に入る。


「うす」

「起きたか。さっさと飯食わんかいアホたれ」

「父さん。それはさすがに理不尽では? 休みの前日の夜に来いと言われたのですから」

「ふん。若いんじゃからどうとでもなるじゃろ」


 そんな親子のやり取りを聞きながら自分で椅子に座り、用意された料理を「いただきます」と言ってから食べ始める。


 相変わらずうまい料理だな。そんなことを考えながら食べていると、「さて親父」とモノクルをつけた男の人――空也さん。大学教授――が一旦箸を置いてジジイに話しかけた。


「一族全員を集めたりして今回はどうした? まさか、遺産分配の話をするとか言うなよ」


 面倒事はこりごりと言わんばかりのその口調にジジイは豪快に笑いながら「まだ死なんわアホ」と言い、次いで真剣な表情をして俺を見た。


 ……俺?


 思わず箸を止めると、親族全員から視線を浴びる。何をしたわけではないのだが、居心地は悪い。

 何も言わないようなので、俺は「俺がどうしたくそじじい」と訊ねる。


 それに対しジジイは「実はの」と前置きしてからこう言った。


「修の『見合い』を立ち会ってもらうために呼んだんじゃよ」


 ………ん?


「そうか。それなら納得だ」

「あー修ももうそんな年かー。子供が成長するのって速いなー」

「というより善人。お前も三十路なのだからいい加減身を固めなさい」

「いやーどうにもピンと来なくてねー。絶賛修羅場中」

「まったくお前は……いい加減にしないと本当に刺されて死ぬぞ」

「まぁ善人の奴はどうしようもあるまい。今は修の事じゃ」


 …………。

 ……。

 …うん。


「意味わかんねぇからな!?」

「こら修。食事中にテーブルを叩いて立ち上がるとは何事ですか」

「いやなんで平然としてるのお袋!? 今現代社会においてほとんど縁のない単語が聞こえたのに!!」


 俺がおかしいのか!? と頭を抱えたくなっていると、「はい空也さんあーん」と言う声が。


 あーダメだ。この人達基本的に頭のねじ何本かぶっ飛んでるんだった。人の事言えないだろうが、俺はマシだ。きっと。絶対。


「まぁそんな訳じゃ。悪いがゴールデンウィーク中はここに留まってくれ」

「すまない善人。空也兄さん」

「僕は別にいいよー」

「私も特に問題ない。論文位はこちらで書けるし、なにより娘も元気で気兼ねなく遊べる」

「という訳で修。食事が終わったらわしの部屋に来ること……逃げられると思うなよ?」


 着々と外堀が埋められていくのを感じ取れた俺は、こうなったら全員振って話をおじゃんにさせてやると意気込むしかすべがなかった。





 ――思えば、そんなことを考えるしかできなかった時点で現状につながっているのだろうと隠れて息を整えながら考える。

 ここまで語って本格的な話に入らない。簡潔にまとめた方が良いだろうが、今でも鮮明に思い出させてしまうその出会いを語るにはこういった経緯で自分の心を落ち着かせないと、今にも絶叫しそうになるのでご了承願いたい。


 さて。何とか撒いたようなので絶対に見つからない場所に隠れることにしよう。話はその間にしていこうと思う。


 彼女達の出会いを。








 爺に脅されたので渋々飯を食ってから一人向かう。両親や伯父さんたちはそれぞれ暇じゃないだろう。関係ないが。


 部屋の前まで来た俺はため息をついてからノックする。すると爺が「入っていいぞ」と言うので襖を勢いよく開けて乗り込む。


 前来た時と変わらないが、違う点があるとするなら爺の後ろに三人のそれぞれタイプの違う女性がいる事。ただ一つの共通点を除いて。


 ――あ。これ全員病気だな。


 入って彼女達を視認した時の感想。絶対間違ってないだろうと確信を持てる、彼女達の第一印象。


 ひとまず俺は畳の上に胡坐を掻いて座り、「なんでいきなり見合いなんて」と切り出す。


「どうした? 空也さんじゃないが自分の死期でも悟ったのか」

「何言うておる戯け。百を超えても生きるぞわしは」

「ああそう……んで? どうしたんだいきなり」

「ふむ。修。お前も今年で十八。結婚できる歳じゃな」

「それは自覚してる」

「じゃが……する気ないんじゃろ?」

「あたぼうよ」


 自信満々にそういうと爺は肩を落とした。


「なんでじゃ……普通エロ本の一冊や二冊を持っててもおかしくはないじゃろ。なんでお主は一冊も読んだことないんじゃ」

「……あのよ」


 変なことを呟かれたので俺は確認をとるために質問した。


「なんで俺がエロ本持ってないとか分かるわけ?」

「調べたからじゃが?」


 サラリと言われたので俺は立ち上がり爺に歩み寄ってから思いっきり拳を振り下ろして寸止めした。

 それにも動じないとはさすがに年くってるだけあるなと思いながら、主張する。


「孫のプライベート無碍にしすぎじゃね!? 何やってんだくそじじい!!」

「何って、孫の恋愛事情を調べただけじゃぞ?」

「おかしいからな! その思考がまったくおかしいからな!? 頭沸いてるだろ!!」

「とまぁそんな訳で「おいこら」結婚する意志も女性と出会うのも避けてるという報告が上がっておる。その事態を重く見たわしは、コネを使って知ってる奴に聞いたところ彼女達が候補として挙がったのじゃ」


 そういうと爺は俺の反論すら許さずに彼女達に「自己紹介したらどうじゃ」と言い、彼女達が前に出てそれぞれ自己紹介を始めた。


「私の名前は弓坂千里。君より年上だけど、よろしくね」

「わたしの名前は白波美絵ですっ。修さんより年下ですけど、精一杯支えられたらいいと思いますっ」

「私は……榊棗……よろしく」


 そんな三人の目が怪しく光っているのが分かっている俺は、「んで? 絶対選ばないといけないのか?」と確認する。


「別に選ばんでもいいぞ。その時はまた別の候補を探すがな」

「えぇー……」


 エンドレスに続きそうなその答えに、俺はもうどうしようもない事を悟った。


「明日から一日ずつ一人一人とデートしてもらうからな」


 そう言って追い打ちをかけてきたクソジジイに対し、俺は殴る気力すら起きなかった。

気になったらどうかよろしくお願いします。感想など。一応頑張って短編集的な形で続けていく予定です。

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