表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

肝試し

作者: merry

 この間、大学の友人と肝試しに行ったんだ。オカルト好きなFの発案で、割と近場の心霊スポットに行ってみようという、ごくありふれたのもだった。当初は俺とF、Kの三人でいく予定だったんだが、チャラいKの誘いに乗って、女子三人組も参加することに。

 そいつらはA、R、Mと仮称しようか。

 Aは気さくで明るいショートヘア、RはAほどではないが、元気がいいセミロング、Mは二人に比べてかなり大人しい性格で、髪はロングヘア。

 小さいおしゃべりグループに大人しいやつが居たら、そいつはハブられることが多いと思うが、こいつらはお互いの歯車がカッチリ噛み合ったかのように、いつも一緒に行動してた。


 そんなわけで、6人というまあまあな規模になった俺たちは、Fの案内の下、目的地に向かった。意外にもMがステップワゴンを所有していたため、移動は一台で済み、その間も講義についてや最近の流行、これから向かう先の曰く何かを話して盛り上がった。


 30分ほど車を走らせた頃、その場所に着いたんだが、そこは大きく古めかしい民家のような印象で、所々が朽ちかけ、如何にも何か出そうな雰囲気がある場所だった。

 Fが言うには、昭和初期にこの辺りの地主が建てた物で、家族と下働きの小作人が住んでいたらしい。ある日地主が病に倒れ、そのまま亡くなってしまったのだが、遺書なども無く、遺産相続問題が勃発したと言う。

 あまりに醜い争いに、地主を敬愛していた小作人が嘆き悲しみ、このままでは地主が浮かばれないと思い、説得を試みるものの、下働きの者の言うことなど誰も聞くわけは無かった。身勝手すぎる遺族に業を煮やし、彼は怒りのままに仕事道具である鉈で、一家惨殺に奔ったのだとか。


 そんな話を聞いていたからか、より不気味なオーラを放っているように思え、AとRは、


「こわーい。やっぱり入るの止めない?」


 などと言っていたが、俺ら男組は逆にハイになりつつあったんだ。

 そんな中、Mだけは平気なようで、


「怖かったら車の中に居ればいいよ。私たちだけで行くから。」


 と、男顔負けな発言。その言葉に感化されたのか、二人っきりで車に居るのが怖かったのか、どちらかわからないけど、二人もやっぱり行くと言い出し、結局全員で中に入ることに。

 玄関は扉が半分外れていて、そこを抜けると右手前に部屋、奥へは廊下を曲がって続いていた。手前の部屋に入り懐中電灯で辺りを照らすと、黒い染みが畳と壁一面にあった。


「これってもしかして、当時の血痕だったりするのかな?」

「やめてよそういう事言うの。やっぱり来なければ良かったかな。」

「どうかな?単なるカビかもしれない。ほら、畳のこの部分は腐ってボロボロだし。」


 俺が疑問を口に出すと、Rがビビリながらも俺に対し怒りをぶつけてきた。それとは対照的にMが冷静な回答をしてきたので、なんとかその場は収まった。

 その部屋は切り上げて廊下の先に進むと、左右に破れた障子が現れたので、二手に分かれて捜索することに。俺とF、Mが左側で、KとA、Rが右側に行った。

 こちらの部屋は先ほどの部屋と似たり寄ったりで、別段新しい発見はなかったけど、脇においてあった箪笥に切りつけたかのような後が気を引かれた。しかし、それすらMは結構簡単に傷なんて付くし、物干し竿みたいな長いものを運ぶときにぶつけただけかもよと切り捨てた。ここまで真面目に切り返されると、Fも苦笑いを浮かべて顔を見合わせるしかなかったね。


 すると突然、


「きゃああああああああああああああああああっ!」


 という、甲高い声が隣から聞こえてきて、全員ビクッっとなった。どうしたんだと駆けつけてみると、Aがガタガタと震えながら、床に座り込んでいた。話を聞いてみると、部屋を調べながらKがRを口説いていたらしいのだが、その間少し距離を取っていたAの肩に、何かが触れたのだとか。

 気のせいだ、虫か何かがぶつかったんじゃないのかと落ち着かせようと試みるが、


「気のせいじゃない!触るとき、耳元で"お前もか"って囁かれたもん!」


 と、息絶え絶えに答えた。

 俺たちはどうしようかと相談しあったが、あと一部屋だけ見たら帰ろうと嫌がるAを説得し、先に進むことにした。


 そしてたどり着いた部屋は、30畳はあろうかという広い空間だった。KとFが先に入り、それに続いて俺とM、最後にAとRといった順だったが、入った瞬間、身体が急に重く感じた。

 Mも何か感じ取ったのか、眉根を寄せ、キョロキョロと視線を動かしていた。しかしその違和感の正体がわからなかったのか、溜息を吐いて床や壁を眺めることにしたみたい。

 俺もそれに習って、周囲を見回していたんだが、Aがガタガタと震えていたことに気がつく。


「おい、どうした!何かあったのか!」


 声をかけて、肩を揺さぶろうとすると、


「いやああああああああああああああああああああああああああああああああ!」


 と、悲鳴を上げて、俺の手を払いのけた。その瞬間、ガシャーンッ!と何かが割れる音がして、驚いた俺たちは一目散に逃げ出した。車までの距離が異常に長く感じ、それでも必死に走り、なんとか車にたどり着いた。俺は助手席に乗り込み、運転席にM、その後ろに男共、最後尾に女子2人が座ったのを確認し、車を出した。

 公道沿いにあるファミレスに着くまで、誰も言葉を発しなかったが、車を止めると堰を切ったように、一斉に溜息をついた。


「あ~、全く酷い目にあったな。」


 車を降りながら場を明るくしようと、俺は勤めて気軽そうに言ったのだが、誰一人として俺のテンションについて来てくれない。


「どうした?確かにあの音には驚いたけど、それだけと言えばそれだけだったじゃん。」

「・・・お前見てなかったの?」


 Kが未だ青ざめた顔で言うが、俺は何の事だかさっぱりわからない。


「あの音がしたとき、部屋の奥から鉈持った女が歩いてきてたじゃねえか。」

「・・・なんだよそれ。」


 俺はAの方を見ていたから知らなかったが、あの時に音のした方を振り返った、奴は全員見たらしい。そして、お前らもか、と聞こえたんだそうな。


「見なくて正解だったわ。」


 俺が下を向いてこぼすと、Mが呟いた。


「ねぇ、Aは?」


 俺たちは反射的に周りを見渡したが、そこには5人しかいなかった。


「ちょっとまてよ。車出すときに確認したよな?」

「R、お前の隣に居ただろ?」

「え、私の隣ってMじゃないの?!」

「私車運転してたんだけど。」

「じゃあ私の隣って誰よっ!」


 Rはパニくって、ヒステリー気味に吠え立てるが、俺達も動転していてどうすればわからなかった。するとMが、


「とりあえず車の中確認しましょ。」


 そういって、車へと引き返し、中を確認する。俺達もそれに習って見に行くと、Mが「あっ」と、小さな声を上げた。Aが座っていたと思しき場所は、赤黒く濡れていた。


「何だよこれ・・・」

「もう嫌ああああああああああ!」


 Rの絶叫を気にも留めていないかのように、Mは濡れた座席に触りそれを確かめると、一言呟いた。


「血みたい」


 そこで耐え切れなくなったかのように、ファミレスへ駆け出したRを追って、FとKも走って行く。残された俺とMはどうする?と相談するが、もう一度行って確認するしかないという結論になり、嫌々ながらも行くことに。

 先に店内に行った三人は行かないと強く反対されたので、俺達二人だけで引き返した。俺もかなりビビッていたのだが、Mがずんずん俺を引っ張っていくので、何とか気持ちが保てた。


 奥の部屋まで来ると、その中心にAが不気味に満面の笑みを浮かべて突っ立っていた。目を見開き血走り、口は裂けんばかりに吊り上がっている。しかもその手には赤く錆びた鉈を握り締めている。

 俺はあまりの恐怖に腰が抜けてその場にへたり込んだが、Mはツカツカと歩いていき、Aの頬をパシーンッ!と強く叩いた。Aの表情は戻っていなかったが、鉈を取り落とした。その手をそのまま握りAはこちらに歩いてくると、「行くよ」とだけ言って外に向かう。

 ここで俺もようやく気を取り直し、急いで後を追った。


 それからファミレスに向かうと思ったのだが、Mは違う道を走っていたので、どこに向かっているのかと聞くと、


「寺。このまま他の人に合わせるわけには行かないでしょ。」


 とのこと。確かにこの恐ろしい形相をあいつらに見せたら、また一騒ぎありそうだと思い、深く追求するのはやめた。

 それから寺の人に事情を説明し、Aを預けたのだが、明日他のメンバーも連れてきて御祓いを受けろとのこと。

 ファミレスで待機していた奴らにこのことを伝え、翌日皆で向かうと、昨日とは違う人が出てきた。


「Aはどうなったんですか?!」


 とRが聞くと、


「彼女はまだ合わせることが出来ません。かなり強い霊が取り憑いたようです。」


 とだけ言われた。そして御祓いが終わり帰る頃、俺とMだけが呼ばれて説明を受けた。

 なんでも霊の影響を受け過ぎて、無事祓ったとしても人格に影響が出てる可能性があると。その場合、然るべき機関で治療することになるだろうが、元に戻る見込みはないんだとか。

 俺が衝撃を受けていると、Mは、


「やっぱりですか。ありがとうございました。」


 とだけいい、踵を返した。

 俺は展開についていけず、慌てて後を追って問いただすと、こう言った。


「視えるとね、自然と厄介ごとが集まってくるのよ。だから色々慣れてるだけ。」


 今Aは山奥の精神病院に入院している。未だ、あの満面の笑顔は外れず、隔離されているらしい。

 時折独り言で、「お前もか」と呟くそうで、退院の目処は立っていない・・・

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ