第99話:結婚式
その日は、スカイブルーの空に、太陽がまぶしい朝でした。
病院の屋上ガーデンに、用意された誓いの場。
そう、ここは、親友の涼子と智子が、一生懸命に準備してくれた、
私と隆志のための手作りの結婚式場。
進行役は、自慢のおしゃべりで、涼子がしてくれています。
沢山の花が飾られて、壇上には十字架が掲げられ、智子が得意の腕を振るいエレクト
ーンを演奏しています。
神父さんが、現れて、いよいよ結婚式の始まりです。
病院の入院患者さんやスタッフの方々が、沢山の拍手で、私たちを迎えてくれました。
夢にまで見たウェディングドレスを着て、兄に支えられて歩くバァージンロード。
立っているのもやっとの私でしたが、せっかくのウェディングドレスです、車椅子から
立ち上がり、1歩1歩ゆっくりと、松葉杖を着きながら神父さんのもとへ。
車椅子の隆志と向き合い、誓いの言葉。
緊張の瞬間です。
神父さんが、口を開きました。
[中根隆志は、青山遥を生涯妻とし、幸せや喜びは共に分かち合い、
悲しみや苦しみは共に乗り越え、永遠に愛することを誓いますか?]
『誓います。』
額に汗をかき、声が微かに震えています。
[青山遥は、中根隆志を生涯夫とし、幸せや喜びは共に分かち合い、
悲しみや苦しみは共に乗り越え、永遠に愛することを誓いますか?]
「誓います。」
嬉しさのあまり、元気良く答えて、周囲の笑いを誘いました。
指輪の交換。
一緒に買いに行くことができず、インターネット販売で決めた指輪。
中央にハートが彫ってあり、周囲にはV字カットが施されている私のお気に入り。
そして、私が彼の車椅子の横に膝を着いて、人前で初めての熱いKiss。
晴れて、私たちは、結ばれました。
兄が用意してくれた台に吊るされた本物の鐘の音が、天高く響き渡り、クラッカーが
次々と音をたてて、皆が作ってくれた紙吹雪のアーチとライスシャワーをくぐり、
拍手で迎えられました。
隆志が、お礼の言葉をしっかりと述べて、私が続きました。
この時、隆志は、私の耳元でささやきました。
『待たせて、悪かったな。』
そう言うと、さっと私の手を取り、指にダイヤモンドの指輪をはめました。
『けっして、お前だけ一人に、寂しい思いはさせないよ。』
「えっ? 婚約指輪? 何やってんだよ。順番、逆だよ。」
皆から笑いと拍手が沸きあがりました。
やっと貰えた隆志からの婚約指輪。
私は、とてもうれしくて、はじけてしまいました。
そして、1週間掛けて作ったブーケを思いっきり、青空に放り上げました。
ブーケは空高く上がり、太陽と重なり、魔法がかかったように光り輝きました。
前に同じ病室だった女子高生の友香ちゃんが、受け取りはしゃいでいます。
このガーデンで、お友達になった妊婦の亜実さんも、大きなお腹を抱えて、笑顔で
迎えてくれました。
母も兄も泣いて喜んでくれています。
隆志のお父様、お母様も、心に思うことはあるのでしょうが、快く許してくれました。
こんな幸せなことはありません。
今日まで生きてこれて、良かった。
本当に良かった。
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)