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胸の傷と心の傷  作者: 乙女一世
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第98話:婚姻届

澄み切ったある晴れた日、私は一人部屋に移りました。


それは、毎日来てくれる隆志が、私の兄に相談して決めたことでした。


この日、隆志がいきなり驚きの発言をしました。


『結婚しないか?』


「えっ?」


『あの時は、遥に幸せになって欲しくて、あんな風に言ったけど、今、こうやって


毎日会っていると、やっぱり僕は、遥のこと大好きだし、あの時一緒に、結婚式に


向かって、準備していた頃の楽しそうな遥の姿が蘇って来て、結婚式をすることが、


自然なことじゃないかなって。


もしかしたら、遥もそう思っているんじゃないかと思えてきたんだ。どうかな?』


「そーかー。そんなこと思ってくれたんだー。


でもね、隆志と別れた後、翔太と付き合ってるんだ。


翔太には、隆志とは違う優しさが有って、日を追うごとにそれが分かってきたの。


翔太のお陰で、隆志のことからも早く立ち直れたし、プロポーズもしてくれたんだよ。


病気で入院してしまったから、結婚は出来ないけれどね。


だから、隆志とも結婚できないし、今更、後戻りは出来ないんだよ。」


その時、突然、ドアが開き、誰かが入って来ました。


翔太でした。


[俺のことなら、気にしなくていいぜ。]


私は、びっくりして、声が出ませんでした。


[もう来るなって言われたけど、それは、やっぱし、無理でさ。


毎日来てるうちに、遥の兄貴とはもちろん、隆志とも会うようになって、


面会が終わった後に、色々聞いててさ。


遥が、望んでることって何かって、思うようになってさ。


そしたら、俺とじゃなくて、隆志との結婚式じゃないかって、思えた訳で。


アーッ、俺はいいんだよ。もともと、2人は結婚するつもりだったのは、知ってるし。


隆志があんな事故に遭わなかったら、遥に結婚してくれなんて言えなかったんだから。


ずるいのかもなー、俺って・・・。


そんなことよりも、こんな病気になっちまった遥に少しでも幸せになってもらいたくて、


隆志に、その気があるか相談したんだ。]


隆志が、身を乗り出して、私の顔を見つめて、力強く言いました。


『僕は、遥と結婚したい。どんな姿になっても、遥のためなら、何だってする。


死ぬほど愛してるよ。』


「私だって、隆志のこと、愛してるよ。だけど・・・。」


[だから、俺に遠慮は要らないって。ほら、これ。]


翔太がカバンから、紙を取り出しました。


婚姻届でした。


[2人でさっさと、書きな。]


翔太がドアから、出て行くと、それを待っていたかのように、2人が入ってきました。


親友の涼子と智子でした。


〔おめでとー! 後は私たちに、任せてね!〕


私は、このめまぐるしい展開に付いていけなくなっていました。


〔それでさー、ウェディングドレスなんだけど、どれがいい?


私は、遥には絶対、これが似合うと思うんだけど、智子がさー、


これの方がいいって言うんだよね。ねー、どう思う?〕


私は、何だか嬉しくなって、2人と話し込んでしまいました。


隆志は、私の喜んでいる顔を見ると、婚姻届にサインと判を押して私に渡しました。


「えっ? 駄目だよ。私、サインなんて出来ないよ。


やっぱり、こんな身体じゃ、隆志のお嫁さんになんてなれないよ。」


『この紙は、遥が持ってて、好きにすればいいさ。


だけど、結婚式はするからね。


遥のためだけじゃなくて、僕がしたいんだ。遥と結婚式を挙げたいんだよ。』


「ありがとう。でも、こんな私で、ごめんね。」


私の返事は、涙声になっていました。


『そんな遥だから、いいんだよ。』


隆志は、微笑んで部屋を出て行きました。


それから、しばらくの間、涼子と智子と楽しく話しました。


時間が経つのも忘れて、自分が病気で入院していることさえも忘れ掛けさせてくれました。


〔それじゃー、貴子。いい結婚式、用意するからね! またね!〕


そう言うと、2人は帰りました。



皆が帰った後、すぐに私は、メールを打ちました。


相手は、もちろん翔太でした。


「今日は、どうもありがとう。


翔太の気持ちを思うと、何て言ったらいいのか・・・。


でも、私のことを一番に考えてくれて、本当に感謝しています。


翔太と出会うことが出来て、本当に良かった。


そして、色々と、ごめんね。」


すぐに、返事は戻ってきました。


[お前の笑顔が、見れて本当に良かったよ。]



(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)



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