第96話:生きる力
次の日も、隆志は、来てくれました。
『前に一緒に暮らしていた、遥のアパート、今どうしてるんだい?』
「あの後は、また、私一人で住んでいたから、そのままだよ。」
『そーか、それじゃー、貸してもらってもいいかな?
あそこからなら、ここまで近いし、毎日来れるから。』
「部屋は別にいいけど、毎日来るなんて、大変だからいいよ。
それに、帰らなくていいの? 病院とかは?」
『別にいいんだよ。家に居てもすることも無いし、リハビリにもなるから、平気だよ。』
でも、その言葉の裏に、「お前を一人にして置くと、心配なんだよ。」と、
言ってるのが聞こえてきました。
翔太には、会いたい気持ちと会いたくない気持ちとが競合していましたが、
不思議と隆志には、ただ会いたいと思う気持ちしかありませんでした。
2人に対する愛情の深さの違い?
恋愛期間の長さの違い?
考えてみると、私は、ずーっと隆志に会いたかったに違いない。
色々な状況が、私の気持ちを押さえつけていただけ。
隆志には、弱っていく私の傍に居て、見守って欲しい。
出来るなら、隆志の腕の中で眠りにつきたい、そう思いました。
決して、翔太を愛していないわけではありません。
ただ、隆志との間には、生まれて来れなかった赤ちゃんの存在が、
強い絆となっていました。
それからというもの、私は変わりました。
ただ、ぼーっと、考え事をしていただけで、終わっていた毎日。
隆志と話していると、病気に立ち向かう気持ちになり、積極的に治療を受ける
ようになりました。
パソコンを持ってきてもらい、日記をつけたり出来るほど、気持も落ち着きました。
携帯電話で色々調べたり、遊んだりと、時間が経つのを早く感じるようになりました。
もちろん、気になる病気についても、調べました。
なるほど、自分の置かれた状況も不思議と冷静に理解出来て、いたずらに怖がっていた
以前の私とは、違っていました。
しかし、精神的に立ち直った私でしたが、身体の方は、悪くなるのを待っては
くれませんでした。
死にたくない。心の底から、そう思いました。
何か方法はないの?
インターネットで、徹底的に調べました。
あてにならないものや、信じられないもの、馬鹿馬鹿しいものも笑い飛ばすことは出来
ませんでした。
癌が治る温泉や針灸、気功など、試してみたいものもありましたが、先生に聞くと、
今の私の状態では、自殺行為だと言われて、実行できませんでした。
それでも、何をやっても、いつも三日坊主の私でしたが、
改善できる食べ物や病院でできることは、色々と頑張ってやってみました。
でも、現実は容赦なく襲って来ました。
症状は、良くなるどころか、日を追うごとに悪くなり、合わせて放射線治療も行うように
なり、心も身体も、疲れ果てました。
「結局、神頼みしかないのかな。」
そんな弱気な自分がまた出る時もあり、人に助けてもらおうなんて、日頃は考えずに生
きてきた私でしたが、
「助けて! 誰でもいいから。治してくれるなら、何でもするから。
お願い!まだ、死にたくない!」
心の底から、助けを求めている私がいました。
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)