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胸の傷と心の傷  作者: 乙女一世
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第95話:再会

病室に戻った私は、死の恐怖と闘う毎日が待っていました。


身体の状態はとても辛いけど、手術をしたので、日に日に良くなっていると


思っている、いえ、そう信じたい私がいました。


しかし、事実を兄から聞かされた今となっては、精神的にもきつく、手術箇所の痛みは、


弱くなってきてはいるものの、全身の倦怠感は強く、全ての行動はスローモーション


となり、歩くのも手摺りに掴まってやっとの思いでした。


そして、日に何度か襲ってくる腹部の激痛と吐き気。


抗がん剤から来る具合の悪さも有るのでしょうが、身体が確実に悪くなっていることを


自覚させられてしまう毎日が過ぎて行きました。


こんな毎日を繰り返していると、時には、弱気な自分が顔を出して、頭の中でそのうち


動けなくなり、痛みの中で死んでいく自分をイメージするようになりました。


どう頑張っても、何をどうしても、逃げられない死の恐怖、気が狂いそうなくらい


悩んで、苦しんで、段々と明るさを失っていきました。


人と話をすることも、嫌になり、唯一、母だけが話し相手となりました。


来る日も、来る日も、母と思い出話をして、過ぎる日々。



そんな日が続いたある日、車椅子が病室に入ってくるのに気が付きました。


誰だろうと、ふと、見てみると、車椅子に座っていたのは、なんと、隆志でした。


私は、声を失うほど、驚きました。


『よっ! 遥。 こんなところで何してるんだよ。


早く元気になって、僕をバイクに乗せて、どこか連れて行ってくれよ!』


「隆志、車椅子で動けるほど、回復したんだね。良かったね。本当に良かったね!」



再会出来た喜び、車椅子で自由に動き回れるほどに回復していた驚き、そして、


溜まっていたフラストレーションが弾けて、私の目から、大粒の涙が溢れました。


『車椅子が有れば、もう何処にでも行けるんだ。一時はもう、寝たきりかと思って、


絶望したけどな。遥が夢の中に出て来て、弱気な僕のほっぺたを叩くんだよ。


そんな弱虫は嫌いよってね。だから、頑張ったんだ。


遥も、きっと良くなるよ。僕がついてるよ。一緒に頑張ろう。』


「ん〜ん。きっと私は、もう駄目。日に日に弱っていくのが分かるもん。」


『何言ってんだよ。僕だって、ここまで回復するのは奇跡だって、医者に言われたよ。


もしかしたら、あの事故で死んでいたかもしれないし、意識が戻らないで植物状態のま


まだったかもしれない。


ここまで回復したのは、遥のお陰なんだよ。


意識が戻らなかった時でも、暗闇の中で遥の顔だけが見えて、僕のことをずっと呼び続


けてくれたんだ。


隆志、早く帰って来て!って。


僕は遥を掴もうと、何度も何度も必死で手を伸ばしたんだけど、駄目で・・・。


でも、遥が手を伸ばしてくれて、僕がその手を掴めた時、意識が戻ったんだ。


だから今度は、僕が遥に手を差し伸べる番だよ。


遥を、絶対に放したりしない。


僕に起きた奇跡、遥にだってきっと起こるさ。良くなるに、決まってる。』


隆志が、手を伸ばして、私の手を握りました。


「ありがとう。そうだね。そうだよね。良くなるよね。


隆志が助けてくれるんだったら、きっと治るよね。


今まで、辛い事ばかりだったもん。


神様だって、助けてくれるよね。


分かった。私、頑張ってみるよ。」


『そうだ、その意気だ。頑張れ! 遥。』



(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)



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