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胸の傷と心の傷  作者: 乙女一世
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第93話:抗がん剤

手術後2週間が経ち、痛みも和らいできた頃から、点滴の種類が増え始めました。


毎日、暇な時間も増え、周りの事に色々と興味を持つようになりました。


その一つに、「どんな薬を点滴しているのだろう?」という気持ちがありました。。


点滴の袋や小瓶のラベルなどを良く見るようになりました。


ラベルの無い物や見えなくなっているものも有って、気になっていました。



手術をしてから、具合は良くなるどころか、手術の前よりも気分の悪い日が続く、そんなある日でした。


トイレから戻る時に、仲良しになった看護師さんに、ちょっと声を掛けようと、ナース


ステーションを覗いた時でした。


看護師さんが話しながら、巡回用のワゴンを準備していました。


話の中に私の名前が出たように聞こえたので、耳をそばたてました。


良く聞こえなかったのですが、抗がん剤という言葉が聞こえたような気もしました。


私が日頃から疑っているせいで、そう聞こえたのかもしれませんが、私は少し興奮気味になりました。


視力の良い私は、看護師さんの触っている物にも注意をしていました。


しかし、さすがに文字を読むことは出来ません。


そこで私は、看護師さんに挨拶をするフリをして、思い切って中へ入り、


スタスタと近づきました。


看護師さんは、点滴を準備していましたが、


「ge」と「b」の文字が、ちらっと見えた気がしました。


すぐに追い出されてしまいましたが、気になって仕方がありませんでした。


ベッドに戻ると、携帯電話を使って調べてみることにしました。


すい臓がんの抗がん剤を検索してみました。


色々と出てきました。


「ge」と「b」の文字があるもので、見たイメージに近い物。


有った。これだ。


「gemcitabine」


私は、勝手にこれだと決めつけました。


少しすると、さっきのワゴンを押して、看護師さんがやって来ました。


看護師さんは、いつものように、おしゃべりをしながら、点滴の用意を始めました。


私は、気持が高ぶっていて、我慢出来ずにストレートで聞きました。


「ねぇー、その薬、抗がん剤のゲムシタビンですか?」


看護師さんは、『違いますよー、抗生剤ですよ。』と、平然と軽く返しました。


その普通さに、そうなのかなという気もしましたが、


私は、悪知恵が働いてしまいました。


標的は、兄貴です。


早く見舞いに来い、兄貴。



しかし、標的にされたのが伝わったのか、この日に兄貴は現れることは無く、


来たのは次の日でした。


『具合は、如何ですか? お嬢様。』


「兄貴、ちょっと話が有るんだけど。」


私は、重い身体に鞭を打ち、半ば強引に兄を連れて、廊下の端にある展望を楽しむため


に設けられたスペースに行きました。


都合良く誰も居ない椅子に腰掛けて、兄の顔をじっと見ると、私は問い始めました。


「ねぇ、私に何か隠してることって、無い?」


『いや、別に無いけど。』


「それじゃー、昨日、私にゲムシタビンという薬が投与されてるって、分かったんだけど、


これって、抗がん剤だよね。一体どういうことなの?」


『何かの間違いじゃねえのか? 誰が言ったんだ? そんなこと。』


「私見たの。看護師さんが、この薬を使うところ。」


『看護師さんが、そう言ったのか?』


「ナースステーションで、準備しているところに行って、ゲムシタビンと書かれたラベル


を見たの。それで、携帯で検索したら、すい臓がんの抗がん剤だって!」


『お前のじゃなかったんじゃないの? 看護師さんが言ったわけじゃないんだろ?』


「看護師さんに聞いたら、顔色変えちゃって、返事もあたふたしちゃってたよ。」


『おかしいなー、そんなはず無いんだけどなー。』


「いい加減にしてよ。私のことを気遣って、隠してるのは分かるけど、


そんなの、ちっとも嬉しくないよ。ちゃんと本当の事、教えてよ。」


兄の顔つきが変わりました。



(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)



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