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胸の傷と心の傷  作者: 乙女一世
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第91話:もう、来ないで!

次の日になり、朝から検査が始まりました。


エコー検査をしたり、ファイバースコープを使って、膵管に造影剤を注入してレントゲン撮影


を行ったり、再度血液検査をしたりと、疲れました。



3日後、母と兄が来て、一緒に診察を受けました。


『血液検査を念のために、再度したんですけど腫瘍マーカー(CEA・CA-19-9・デュパン・エス


パン1)は、やや高いですね。超音波とレントゲンを見ると、膵臓全体が腫れてます。


3日程点滴して薬で様子を見ましょう。良くならないようでしたら、1度開腹手術をして、


細胞を直接取って調べた方が良いと思います。』


ハッキリしないことに、私はイラついていました。


「これだけ検査して、分からないなんて、おかしい。癌なら癌って、はっきり言ってください。」


『ん〜、実際に、取ってみないと、何とも言えないんだよ。なるべくなら、切らない方が、


良いし、薬で様子を見ましょう。』


こう言われてはみたものの、やっぱり私は、信じることは出来ませんでした。


かと言って、私が何か出来るわけではなく、指示に従うしかありませんでした。



携帯電話には、翔太から幾つものメールが届いていましたが、私自身、精神的に不安定で、


何て返事をしていいのか分からずに放って置きました。


彼に抱きしめてもらい、癒して欲しい自分もいましたが、治らないと思っている私は、


先のことを考えた時、このまま別れてしまうのが良いと、決めていました。



しかし、そんな私の気持ちもよそに、次の日、翔太が病院にやって来ました。


兄に電話をして、事情を聞いたそうです。


『どう、調子は? 』


「まーまー。」


『何で、連絡、くれないの? 心配しちゃったよ。』


「そう・・・。 病気のことで、頭がいっぱいになっちゃって、翔太の事なんて、忘れてた。」


『そっか。大変だったな。俺、忘れられないように、明日から毎日、見舞いに来るよ。』


「いいよ。翔太に来られると、落ち着かなくて、余計、悪くなりそうだし。


こんな病人、相手にしてないで、もっと可愛い、健康な人探して、結婚しちゃいなよ。」


『遥、何言ってんだよ。お前らしくないよ。今まで、辛い事有っても、吹き飛ばして来たじゃないか。


病気がなんだよ。遥が、弱気になってどうするんだよ。』


「何も知らないくせに、無責任な事言わないでよ。兄貴に何て聞いたか知らないけど、どうせ、兄貴から言われた事、真に受けてるんでしょ。兄貴が言ってる事なんて、嘘っぱちなんだから。


それに、私、強くなんかない! 吹き飛ばすなんて無理よ!もう、帰って。もう来ないで!」


『興奮させちゃった様だから、今日はこれで帰るけど、一人で頑張るなよ。


俺も仲間に入れてくれよ。悲しいときは、一緒に泣こうぜ。じゃーまた来るから。』



それからというもの、翔太は、毎日来ましたが、私は、相手にしませんでした。


顔も見ないで、翔太に話掛けられても、そっけない返事だけを返して、


私から、話掛けることはしませんでした。


翔太は、そんな私の態度に、突っ掛かったりせずに、毎日、私の横に座り、


スポーツ新聞を1時間程読んで帰って行きました。


帰り際に、いつも私に、軽いキスを残して。


私も、このキスを避ける気にはなれなくて、ただ目をつぶり、じっとしていました。


この瞬間が、2人の気持ちが通じ合う唯一の時間だったのかもしれません。



(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)




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