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胸の傷と心の傷  作者: 乙女一世
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第90話:疑心

病院を出ると、実家に向かい、母に話すことにしました。


心配ばかり掛けていたので、話したくなかったのですが、仕方ありません。


母は、見た目には私と普通に話していましたが、内心穏やかでないことは分かりました。


それから、アパートに戻って、入院の支度をしました。


兄に電話をすると、早速、会社帰りに来てくれて、しばらく好きな物が食べれなくなる


からと、食事に連れて行ってくれました。


兄は、落ち込んでいる私を元気付けようと、終始明るく振舞っていました。


そして、もう1人の大切な人に連絡しなきゃと、夜になって、携帯電話を持って考え込


んでしまいました。そう、翔太になんて言おうかと・・・。


私は、すでに癌の再発だと、思い込んでいました。


そして、もしかしたら、もう手遅れで、何ヶ月かで死んでしまうんだと。


自分の弱って行く姿を、翔太に見られたくない。


悲しむ翔太の姿を見たくない。


そんな気持ちが、強くありました。


だからこれからは、彼に冷たく当たり、出来ればこのまま別れてしまおうと思いました。


携帯電話を持った手は、結局、発信ボタンを押せませんでした。



次の日、兄が会社を休んでくれて、車で病院まで送ってくれました。


私が、病室の支度をしている間に、母と兄は、先生に会っていました。


母と兄が戻って来ると、すぐに診察の時間になり、診察室へ行きました。


「先生、やっぱり、悪いんですか?」


『ん〜。遥さん、まだ、はっきり分からないんだよ。


明日から色々検査をして、はっきりさせるから我慢してね。』


「昨日の検査で、本当は分かってるんでしょ。癌だって。


安心させるために、分からないって言ってるんでしょ?」


『それじゃー、この写真見てもらおうかな。ここは、膵臓なんだけど、白くなってるだろ。』


「あっ、白くなってる。もう、手遅れなんですね。


膵臓癌は、治らないって云うし、私死ぬんですね。」


『白いからって、癌と決まったわけじゃないし、血液検査の結果を診ても、今のところ


はっきりしないんだよ。


膵炎の可能性も高いし、たとえ、癌だとしても、助からないって決まったわけじゃない


んだから。手術で治る人だっているし、色々な治療法で、良くなってる人はいっぱいいる。


悪い方に考えないで、頑張って治そうよ。』


私は、嘘だと思っていました。昨日の検査で先生が分からないはずないと。


私が、癌だと聞いて、ショックを受けるから、分からないなんて言っているのだと。


病室に戻ると、母と兄と3人で、同室の5人の方に、挨拶をしました。


そして、談話室へ行き、3人でおしゃべり。


始めは、つまらない世間話をしていましたが、とうとう私は、2人に問い詰めました。


「ねぇ、私の病気は、癌なんでしょ! 


私の居ない時に、先生と話し合って、手遅れだから、みんなで口裏合わせて、


分からないなんて言っているんでしょ。

私、あと、どのくらい生きられるの?


もう、何聞いても驚かないから、本当のことを、教えて。」


『何言ってるんだよ! 今入院したばかりじゃないか。


先生が言ったことは、本当だよ。


膵炎かもしれないし、違う病気かもしれない。


もっと検査しないと、分からないんだよ。』


兄が困ったような顔で、言いました。


母も、心配そうに、言いました。


『遥、本当なんだよ。


もし癌だと分かっていたら、私が、こんなに落ち着いて話が出来ると思うかい?


明日からの検査で、分かるんだから、その時は、一緒に先生から、説明を聞きましょうね。


悪い方に考えないで、元気出してちょうだい。』


母の困った顔を見ると、これ以上は追求する気になれませんでしたが、


依然として私は、膵臓癌でもう長く生きられないと思い込んでいました。


昨日、病院に来るまでは、幸せな気持ちで一杯だったのに・・・。


「神様! 私って、何か悪いことでもしたの? お願い、助けて!」



(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)




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