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胸の傷と心の傷  作者: 乙女一世
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第89話:定期診察

日々、幸せな時間が、過ぎてゆく中、現実に引き戻される日が来ました。


今日は、定期診察の日です。


私は、3ヶ月に1度、乳がんの手術をした病院に行きます。


そして、この日も、いつもの担当の先生に診察されました。


『前回の検査の結果は、特に異常ないようだけど、どうかな?


何か変わったことはないかな?』


「はい。すこぶる元気です!」


・・・嘘でした。


半年くらい前から、たまにお腹に痛みがありました。


大した痛みでもなく、すぐに治まっていたので、気に留めていなかったのですが、


3ヶ月くらい前から痛みが強くなり、ここ1ヶ月くらいは、時には座り込む時もありました。


でも、病気なら定期検査で引っ掛かるはずだから、大丈夫だと思っていました。


しかし、それは、自分を騙す口実。


本当は、手術以来ずーっと、不安に思い続けていたこと、


「がんの再発」という恐怖で、ただ言えないだけでした。


いいえ、言えるわけがありません。やっと掴んだ翔太との幸せ。


結婚式を挙げて、みんなに祝ってもらって、子供をこしらえて、


家事に子育てに、毎日忙しく、普通に暮らす幸せ。


壊してなるものか。



『そーかー、すこぶる元気かー。それは良かった。』


先生が、微笑んだその時でした、例の腹痛が、私を襲ってきました。


私は、お腹を押さえて、前かがみになり、小さくうめきました。


先生は、『どうした? お腹が痛いのか?診察するから、ここに仰向けに寝れるかな。』


私は、痛みをこらえながら、膝を曲げてベットに仰向けになりました。


先生は、指でお腹のあちらこちらを押さえて、痛いかどうか聞いてきました。


結局、精密検査をすることになってしまいました。


いくつかの検査を終えて、診察室に戻りました。


先生は、写真や書類を見ながら言いました。


『痛みは、今日が最初じゃなかったね? だめだなー正直に言ってくれないと。


何のために、定期的に通ってもらってるのか分からないでしょ。


ん〜、良くない影が映ってるなー。


ほかの検査結果が出ないとはっきりしないけど、入院してもらおうかな。』


「えっ? 入院ですか? 


でも、前回の検査は、大丈夫だったんですよね?」


『その言い方だと、前回の時にも、痛みがあったんだね。』


「ちょうど、検査の少し前くらいからだったかも・・・。」


『しょうがないなー。


ちゃんと言ってくれないと・・・。


初期だと悪いところが、検査じゃ見つからないこともあるし。


明日、お母さんかお兄さんと一緒に来てもらえるかな。


そして、そのまま入院だな。』


「癌ですか? また、手術するんですか?」


『まだ、はっきり分からないよ。


そう、決め付けないで、元気出して。』


「は〜い。」


私は、元気なく返事をしました。



会計の為に、20分程待っている間に、悪い事ばかり考えていました。


「神様〜。どうか何でもありませんように。」


どこかへ、逃げ出したい気持ちでした。



(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)



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