第86話:ハッキリさせて
車に戻ると、私は、ハンドルを握りましたが、すんなり帰る気にはなれませんでした。
もっと彼を好きになりたい。
だから、この胸を見せて、この先に進めるのか、はっきりさせたい。
そう強く思いました。
「どこへ行こうか?」
『もう、帰ろう? 明日仕事だし、疲れただろう?』
「それでいいの? 私は、いいんだよ。
私の胸を見て、翔太がどう思っても、私は覚悟できてるし、
私は、今日、あなたが好きなことが、ハッキリ分かったから。」
私は、車を走らせ、ホテルの「空」の字を探しました。
何軒か「満」が続いた後に、「空」が、有りました。
私は、横目で、ちらっと、翔太を見ると、駐車場の矢印の方へハンドルを切りました。
そのまま、駐車場に入り、車を止めて出ようとしましたが、
翔太が、『明日仕事だし、今日は疲れたから、今度にしよう?』
と、乗る気ではありませんでした。
「ありえなーい!」
女の私から誘うこと自体ありえないのに、断るなんて、信じらんなーい!
私のこと好きななはずなのに、こいつの頭の中はどーなってるんだー。
そう言えば、昨日の夜も泊まらずに、わざわざ家に帰ったし、
今更ながら、どうしてなんだろうと不思議に思いました。
昨日はそんなレベルではないと言っていましたが、もしかして、私の胸の傷を見て、
嫌いになるかもしれないと思う自分が怖いのかなと、思ったりもしました。
でも、ここまで来ては、戻れませんから。
「今日、ハッキリさせよう? ハッキリさせたいの!
あなたが、本気で、これから、付き合っていける人なのかどうか。」
『遥が、そこまで言うのなら。』
翔太が車を降りました。
そして、部屋に行きましたが、翔太は元気がありませんでした。
「ねぇ? どうしたの? 私のこと嫌いになったの?」
『そんなことないよ。』
「そう。それじゃー、私、先にシャワー浴びてくるね。」
彼のことが好きと分かって、早く本気で付き合いたくなった私、だから、
早くハッキリさせたくて、積極的になってる私、でも、内心この胸を見て、
彼がどう思うのか、物凄く不安でした。
丸山さんとの時のことが、頭をよぎりましたが、あんなひどいことを、
翔太が言うはずも無いことが分かっていたので、色々考えずに、
さっさとシャワーを浴びて、裸のまま、胸を両手で隠しながら、
翔太の前に思い切って出て行きました。
ベットに腰掛けていた翔太は、私に気が付くと、
私を見たまま、動かなくなりました。
私は、すくむ足を一歩ずつ前に、そのまま、手の届くところまで、
歩いて行き、ゆっくりと両手を降ろしました。
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)