第85話:海水浴Kiss
彼の行動は段々とエスカレートして、揺らし方も激しくなり、
時々潜って、私の足を引っ張ったりしました。
しばらくすると、さすがに彼も疲れてきたのか、浮き袋に掴まって来ました。
浮き袋が傾き、彼の顔と私の顔が、急接近!
周りの人も遠くなり、なーんだ、そういうことかと思い、目をつぶっていました。
でも、いっこうに唇に感触は無く、どうしたのかな?と思い,
目を開けてみると、すぐ目の前に彼の目が!
びっくりして、思わず顔をそむけてしまい、
「何してるの?」と、聞きました。
『整形とかしてるのかな〜?とか、思ってさ。』
「してないよー! してたら、失敗作だ〜!」
『イヤイヤ、かわいいよ! こうやってじっと見てると、
早園麻衣ちゃんよりかわいいかも。
ほんと、このまま一生、遥と一緒に居られたら、
俺、生まれてきてほんとに良かったと、思えるんだけどな〜。』
「どうしちゃったの? プロポーズみたいなこと言い出しちゃって。」
『べつに。正直な気持ち言っただけだよ。
だけどさ〜、急に目なんかつぶるから、キスしたくなちゃったよ。』
「鈍感!」
『えっ? 何が?』
「何がって・・・」
私がこう言った瞬間、彼は私の前の浮き袋を両手で押し沈めて、
キスをして来ました。
僅か数秒でしたが、彼の顔は真っ赤になり、照れているのか、
浮き袋を、私の後ろから押して、砂浜に戻り出しました。
砂浜に上がっても、彼は私を見なかったので、
「どうしちゃったのかな〜? 翔太くん?」
って、おどけて、聞いてみました。
『いや、あの、ごめんなー。怒ってねえか? 勝手にキスなんかしてさ。
ちょっと気まずくなっちゃって・・・。』
「あれ? そんなこと気にしてたの?
いいんだよ。あたし、キスは好きだから。遠慮なくしちゃって。」
『ほんと? ほんとに、いいのかよ。』
「うん。全然。」
あっと云う間に、元気を取り戻した彼でした。
『何か、急に腹減ったな〜。昼飯、食わない?』
「そうね。海の家に、戻ろっか。」
彼は、海の家に着くと、カレーやラーメン、おでんにピザ。
やきそばに、たこ焼き、スイカに、かき氷を注文。
「オイオイ、そんなに食べるのかい?」
『遥は、好きなの食べて。あと、ビール飲んでもいい?』
「酔っぱらわなきゃいいけどー。」
それから、食べる、食べる、彼ってこんなに、大食漢だったけ?
食べるだけ食べたら、眠くなってきて、お座敷でゴロゴロしていたら、
いつの間にか、彼に寄り添って寝てしまいました。
気が付くと、どこから持って来たのか、タオルケットが掛けられていました。
おおざっぱな気がするけど、たまに見せる細かな気遣いが、嬉しい私でした。
「いっけなーい! こんな時間! すっかり寝ちゃった〜。
ごめんね〜、遊ぶ時間無くなっちゃったね。」
『気にすんなよ。遥のペースでいいんだよ。
遥が、楽しければ、俺は嬉しいんだから。』
「無理しちゃって。それじゃー、泳ぎに行こうー。」
それから、3時間ほど泳いだり、砂浜で遊んだりして、楽しく過ごしました。
帰る人も出てきて、私たちも疲れが出てきたので、海の家に戻り着替えました。
『飯食って行こうぜ。この先に、ちょっと洒落たとこあるんだけどさ。』
いつの間にか、彼は、近くのレストランに予約を入れていたようで、
海岸道路を少し歩いて、レストランに着きました。
美味しいイタリアンレストランで、私は、大満足。
日が暮れて来て、とてもきれいな景色を見ながら、浜辺を歩きました。
知り合ったばかりのころは、強引でガサツなイメージのあった彼で、
いい面もあるのは分かっていましたが、ちょっと苦手でした。
でも、今まで付き合ってきて、私の抱いていたイメージは変わり、
隆志の事故の頃から、彼は優しい人だと分かってきました。
そして、今こうして歩いていても、手を繋ぎたくても繋げない、
シャイな性格だと分かり、可愛くもあり、いとおしくもなりました。
だから、私から手を繋ぎ、彼に身を寄せて歩きました。
今、自分で実感しています。
私は、彼が大好きです。
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)