第83話:海水浴前夜
「どこに行くの? 日帰りだから、行けるのは、湘南か三浦だね。」
『湘南へ行こう。葉山や逗子も考えたんだけど、やっぱり茅ヶ崎の方がいいな。
三浦だと帰りの渋滞がひどいし。』
「渋滞? それじゃー車で行くの?」
『うん。遥のお兄さんの車。』
「えっ? 今からじゃ無理だよ。」
『大丈夫。先週頼んで、オーケーもらってるから。』
「えーっ? 先週から計画してたの?
それも、兄貴に先に話してるなんて。
私が行かないって言ってたら、どうするつもりだったの?」
『俺が、説得すれば、遥が行かないなんて言う筈ないじゃん。』
「いつにも増して、大した自信だわ。」
『噂をすれば、ほら、来た!』
外で聞き慣れた車の音がしました。
(ピンポーン♪)
ドアを開けると、兄貴が立っていました。
『よっ! あした晴れみたいで良かったじゃん!
だけど、遥、よく海なんか行く気になったな?』
「水着買ってあげるからって言われて、仕方なくね〜。」
『そっか。遥も池田君を、やっとそこまで好きになったか。』
「何言っちゃってるの兄貴!」
『そこまで、2人の仲が進展してるなら、池田君は、あしたの朝早いから、
泊まっていくんだろ?』
池田君が、慌てて口を開きました。
『いえいえ、そんな。そろそろ帰りますよ。』
『そっか。遥の目はオケーサインを出してるように見えるんだけどな。
それじゃー楽しんできな。俺も用事が有るからこれで帰るよ。』
私は、余計なことを言うなーって感じで、右足を軽く蹴る様な仕草をしました。
「そんなこと言ってるなら、さっさと帰れ。」
『おー怖わ―っ! じゃー、怪我すんじゃないぞー。』
兄は私が隆志から貰ったバイクで、帰って行きました。
『それじゃー、俺も帰るよ。朝5時に来るから、寝坊すんなよ。』
「本当に帰るんだ? てっきり、泊まっていくのかって思ってた。
大きなバック持って来てたし・・・。」
『ああ、このバックは、ここに来る前に、明日の為に買ったんだ。
だから、空っぽ。
早く帰って、明日の準備しなきゃ。』
この時、私は、隆志と同棲していたこの部屋に泊まることが、
嫌なんだろうと思っていました。
翔太は、空っぽの大きなバックをタスキに掛けて、原付スクーターで帰って行きました。
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)