第80話:別れ、そして・・・
隆志の実家での新しい生活が始まりました。
晴れ渡った朝、お洗濯物を干していた時でした。
隆志の居る病院から、電話が有りました。
「はい。 そうです。 はい。 本当ですか! ありがとうございます。
はい、これからすぐに行きます!」
受話器を置くのも、煩わしいほど、私は、慌てました。
「お母様、お母様、大変!・・・隆志さんの、意識が回復したって!」
私たちは、病院に駆けつけ、病室に急ぎました。
そこには、目を開いてる隆志が居ました。
私は、うれしさで胸が張り裂けそうでした。
お母様も泣きながら、隆志の手を握って喜びました。
話し掛けると、少し間が空いて、ゆっくりですが返事がありました。
彼と話をしたのって、いったい何ケ月ぶりなんだろう?
この時本当に、私は海で死ななくて良かったと思いました。
きちんとした会話ではありませんでしたが、私たちには十分でした。
その日は、隆志のお父様とお母様と、うれしくって、お祝いをしました。
そして、急速な回復をして会話を取り戻していった次の日のことです。
赤ちゃんのことを聞かれて、話さなければならなくなりました。
事故での赤ちゃんの死と、私の自殺のこと。
私は、彼の身体の状態に悪い影響を与えるんじゃないかと心配で、
出来るだけ遠回しに、話しました。
そしたら、思った以上に彼は冷静に、私の話しを聞いて、
『一人でつらい思いをさせて、悪かったな。
遥は、悪くなんかないよ。
俺が、こんな怪我をしてしまって、心配させてしまったから、
事がみんな悪い方向に向いてしまったんだ。
遥の言う通り、転勤なんてしないで、料理の仕事探して、
コックになっていれば、こんなことにならなかったんだ。
だから、赤ちゃんのことで、責任を感じることなんてないんだよ。』
この言葉を聞いた瞬間、私は泣き出してしまいました。
今までかかえていた重たい物が、落ちた気持ちがしました。
そして、彼は、続けました。
『きのう、医者から聞いたよ。
俺は、もうベットから起きられない、って。
トイレも1人じゃ出来ないし、子供も作れないって。
笑っちゃうよなー。』
彼の目に、涙が浮かびました。
『すごく悩んだよ。でも、諦めた。
色々頑張ろうとすると、気が変になりそうで。
だから、頑張らないで、ゆっくりと自然にまかせようと思う。
僕たち別れよう。
遥が僕と結婚するのは、自然なことじゃない。
遥がそばにいてくれると、そりゃーすごくうれしいよ。
だけど、落ち着いて考えた時に、それ以上に、苦しさを感じると思う。
遥の人生を奪うようで、幸せを壊しているようで。
遥は、今までだって辛い経験してたのに、
僕のことで、また、大変な思いさせてしまったし、
これ以上、辛い道を僕と歩いちゃダメなんだよ。
だから、俺と別れて、幸せになってくれよ。
解ってくれるよね。
それが、僕の願いでもあるし、幸せでもあるんだ。
今までありがとう。そして、さよなら。』
「勝手なこと、言わないでよ! なんで1人で決めちゃうのよ!
私の人生は、私が決めることなんだから!」
もちろん、私は、猛烈に反論しました。
でも、それは、単に感情的なもので、私も、どうなるものでないことは解っていました。
それに、一番辛いのは、彼だと解っていました。
目が覚めた日に、いきなり、もう歩けないと聞かされて、
あれほど欲しかった赤ちゃんも、死んでしまったと、私に言われて・・・。
彼にしてみれば、別れようなんて、言い出さない方がいいに決まってる。
でも、私のことを思って、すごく我慢しているんだと。
言いたいことを言い尽くした私は、窓から空を見ました。
私たちの気持ちを表すような、きれいな夕焼けが広がっていました。
この日、私の3つ目の恋は、終わりました。
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)