表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
胸の傷と心の傷  作者: 乙女一世
78/100

第78話:新しい命

病院を出て、車での移動中も、ほとんど会話は、ありませんでした。


2人とも、私を気遣って、無理に話そうとしなかったし、


私も、どう話していいのか・・・。


正直話したくありませんでした。


重い空気のまま、入院していた病院に着きました。



診察を受けて、病室に戻りました。


すぐに昼食の時間になり、食事が運ばれてきました。


兄は、病院内のレストランに食べに行きましたが、


母は、そのまま私の傍に居ました。


どうやら、私がまた逃げ出さないようにと、交替で昼食を摂るようでした。


兄が戻ると、今度は母が、レストランに行きました。


すると、池田君が、やって来ました。


『調子はどう?』


私は、目を合わせづらかったので、目をつぶって黙っていました。


病室の他の人は、食事を終えると、食器を廊下のキャリーに載せるついでに、


みんなどこかへ行ってしまいました。



兄が、部屋に誰も居なくなったのも手伝って、とうとう黙ってられなくなったのか


口を開きました。


『まったく何をやっているんだよ、お前は。みんなを心配させて。


もっと不幸でも頑張って生きてる人は、いっぱいいるんだぞ。』


私はその言葉に、なぜか腹が立ちました。


「他の人なんて、関係ない! 私には耐えられなかったの!」


『池田君が居なかったら、どうなってたか分からなかったんだぞ。


彼は岩場で足を怪我しながらも、必死でお前を助けたんだぞ。


ちゃんとお礼言っとけよ。』


「助けてなんて、言ってない!」


池田君が、傍に来て話し出しました。


『青山は、助けて、って言ったよ。


意識がほとんど無かったけど、助けてって俺にしがみついてきたんだよ。


その時、俺は気付いたんだ。これは、運命なんだって。』


「勝手に助けて、何言っちゃってるのよ!死なせてくれれば良かったのよ。」


『青山は、あの時、死んだんだよ。だから、今までのことは、すべて忘れちまえよ。


嫌なことは、みんな海の中に消えたんだよ。青山は、生まれ変わったんだよ。


その命は、俺が救ったんだから、俺と付き合う運命なんだよ。』


「あったま、おかしいんじゃないの? 岩にでもぶつけた?


誰があんたとなんか、付き合うかつーの!」



池田君を見ると、今まで気付かなかったけれど、松葉杖をついていました。


足の方に目をやると、右の靴は履いてなくて、包帯で包まれていました。


兄が、私の表情を察して、言いました。


『岩場を走ってる時に、足を滑らせて、靴が脱げてしまって、


それでも、彼は止まらずに、お前を追いかけて走り、足の裏を20針も縫う怪我を


してまで、お前を助けたんだぞ。』


「そう〜。痛むの?」


『大した事ねえよ。怪我すんの慣れてるから。


そんなこと気にするよりも、俺と付き合えよな。』



私は、特別に彼が嫌いなわけではありません。


むしろ、始めに配属された工場での面接の時に、嫌な思いをしている私に代わって、


面接官に食って掛かってくれた時は、本当にうれしかったのです。


ただ、思ったことを、ぽんぽんと言う強引過ぎる態度が、苦手でした。


やわらかい優しさで包み込むような中根君を選んだわけですが、


それでも、池田君は、私の事を見守ってくれていたわけで、色々助けてくれました。


私は、無神経にも、池田君がそばで助けてくれるのが当然のように思っていました。


彼の気持ちを考えると、彼に助けられたこの命、彼にあげるのが当然のような気も


してきました。でも、そんな簡単に、右から左へと移れる筈は有りません。


だって、私は隆志が好きなのですから。



(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ