第73話:お見舞い
次の日、隆志のお母様が、お見舞いに来てくれました。
『遥さん、大丈夫なの?
なかなか帰って来ないと思ったら、お兄さんから電話があって、
事故だなんて聞いて、びっくりしちゃったわよ。』
「ごめんなさい。隆志さんとの大事な赤ちゃんを死なせてしまったんです。」
『いいのよ。楽しみにしてはいたけど、仕方ないじゃない。
遥さんに、大した怪我が無くて良かったわよ。
早く元気になってちょうだい。』
お母様はこう言うと、持って来たリンゴを、剥いてくださって、
一緒に食べ終わると、隆志の居る病院へ行かれました。
一人になって、1日中、色々なことを考えていると、
ある方向へ自分の気持ちが向いていました。
「あたしなんて、生きていても仕方ない。」と・・・。
外が暗くなり、夕食が運ばれて来ました。
そこには、ロールキャベツがありました。
隆志が、私によく作ってくれた料理。
一口食べると、思い出が甦って、涙が出てきました。
すると、前に居る方のお見舞いに来ていた、5歳くらいの女の子が来て、
『何で、泣きながら食べてるの?
ご飯が食べれるってことは、幸せなことなんだから、
笑顔で食べなきゃいけないんだよ。』って、言われました。
入院しているお母さんが、慌てて、
『ごめんなさい! さやかちゃん、余計なこと言わないの!』
『は〜い。』
『この子、泣き虫で、良くご飯の時にも泣いていたから、
そう言い聞かせてたんです。ごめんなさいね。』
「いいえ、いいんです。さやかちゃんの言う通りだもんねー。
お姉ちゃんがいけないんだものねー。」
さやかちゃんは、ニコニコして、Vサインをしました。
『イエーィ!』 「イエーィ!」
おなかの赤ちゃんも、無事に生まれていれば、
こんな可愛い子になったのかと思うと、やるせない気持ちになりました。
そんな中、池田君がお見舞いに来てくれました。
『オーイ! びっくりさせんなよ! 天才レーサーが事故って、どーすんだよ!』
「あたしは、車は、うまいけど、バイクは、大したことないんだよーだ!」
『赤ちゃんダメだったんだって? 気、落とすなよ!
俺がいつだって、次の子作ってやるから。ハハッ。』
「何、言っちゃってんの? ばーか。。。」
『もっと、落ち込んでんのかと心配してたけど、大丈夫そうだな!』
「そんなことないよ。今も、泣いてて、あの、さやかちゃんに怒られちゃったところ。」
『そっかー、怒られたかー。
青山もあんなに小さくて、可愛い頃あったんだろうな〜』
「あったんだろうなって、あったに決まってるじゃんか!失礼な。」
『青山! 辛いこと何でも、言ってくれよ!
俺、今でも、お前のこと好きだから・・・
命張って、守ってやるから・・・
はい、これ、御守り!
前に渡した時、中根のものだけじゃなくて、
お前にも安産の御守り渡すべきだったなー。』
「またまた、何言っちゃってるんだこいつ〜。
池田君なんかに、たよらねーっーの!」
『なんか必要な物とかねぇのか? 着替えとか、持って来てやるよ!』
「だれが、君に頼むかっー! どーせ、下着でもいたずらする気でしょ?」
『エヘッ ヘッ〜、バレたかー。 じゃー洗濯でもしてやるよ!』
「2・3日はしなくていいし、その頃には、自分で、出来る、っーの!」
『じゃー、風呂、入れないんだろ? からだ、拭いてやるよ!
俺、こう見えても、毎日、機械のメンテナンスしてるから、うまいんだぜー!
細かいところまで、きっちり、ピカピカ!』
「呆れた〜。頭の中、メンテナンスすべきだね!」
『これでも食って、もっと元気出せよ! じゃーな!』
と言って、ケーキが入った箱を置いて、帰って行きました。
ちゃんと、部屋の人の分まで、気を利かせて、10個。
くだらない事言いながらも、私もなんか、今日は眠れそうな気持ちになれました。
「さやかちゃん! おいでー! これお父さんとお母さんと食べて!」
『やったー! ケーキ! ケーキ!』
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)