第72話:兄の気持ち
夜10時を過ぎていたせいか、病棟の観察室のような部屋に運ばれました。
明日の朝、6人部屋に移るそうです。
しばらく1人で落ち込んでいると、兄が母を連れて、やって来ました。
『大丈夫か! いったい何やってるんだよ! 』
「ごめんね! バイク壊しちゃった。
フレーム、いっちゃったらしいんだ・・・もう乗れないかも。」
『そんなのいいよ。 それより、お前のからだは? おなかの赤ちゃんは?』
「私は、大丈夫だけど・・・赤ちゃんが・・・ダメだった。。。」
『そっか。ダメだったのか。。。でも、自分を責めるなよ。 それで、事故の相手は?』
「さっき、おまわりさんが来て、名前と連絡先教えてくれて、そこにメモがあるよ。
足を骨折してて、この病院に入院したみたいだよ。」
『分かった、こっちは、俺がちゃんとするから、お前は、早く身体を治せよ。』
「ありがとう。迷惑掛けてごめんね。ほんとに私って、ばかだ〜。」
『運が悪いだけだからな。 昔みたいに変なこと考えるんじゃないぞ!』
その言葉が、返って私の気持ちを、吐き出させてしまいました。
「私、ダメだよ。 隆志の子、殺しちゃったんだよー。 どうしたらいいの!?
隆志に何て言ったらいいの? 隆志の顔、もう見れないよ!
たとえ意識が戻っても、そんなこと彼に言ったら・・・・・」
『大丈夫だよ、分かってくれるし、お前が無事な事を喜んでくれるさ。』
「そんなことないよ! あたしが、死ねば良かったのよ・・・」
『ばか! なんてこと言ってんだよ! もう作れなくなったわけじゃないんだろ?
お前が生きてれば、また、作れるじゃないか。』
「あたしは、大丈夫だけど、隆志は、もうだめかもしれないの。
つぶれちゃって、もう出来ないかもしれないよ。
大事な赤ちゃんだったのに。。。ねーどうしたら、いいの。」
『そうかー。』
私が、泣き出して、少し間が空いてから、兄貴が言いました。
『でもなー、遥。 考えようによっては、これで、隆志君との絆が切れたんじゃないか?
隆志君と別れやすくなったじゃないか。
向こうの親も別れて欲しいって言ってるし、
もう、隆志君のことは忘れるのがいいんだよ。』
「お兄ちゃん、何言ってるのよ!
それじゃー赤ちゃんは、私たちが別れる為に、死んだって言うの?
絆が切れたっていっても、 私たちの愛が終わった訳じゃないよ!
アッ! 何で知ってるの? まさか・・・。
お兄ちゃんが、隆志のご両親に、私に別れる様に言ってくれって、
お願いしたんじゃないわよね?」
『・・・・・』
「うそー! 信じらんない!
お兄ちゃんが、そんなこと言うなんて、がっかりよ!
私のこと、分かってくれてると思ってたのにー。ひどいよ!
もう出て行って! 口も利きたくない!」
私が、興奮しているので、まずいと思ってか、兄は、部屋から出て行きました。
母が、私の頭を撫でながら、
『あんまり思いつめるんじゃないよ。
赤ちゃんは気の毒なことになちゃったけど、
お母さんは、あなたが無事でいてくれて、本当に良かったんだから。
あとのことは、ゆっくり落ち着いて考えればいいのよ。
時間が解決してくれることもあるから、結論を急いじゃダメよ。』
と言って、私が落ち着くまで居てくれました。
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)