第71話:命
2人の警察官が、交通誘導を始めて、別の2人の警察官が、
私と乗用車の男の人に、別々に状況を聞いて来ました。
もう1人の警察官は、救急車で話をして戻って来ました。
『ダメダなー。酔っ払っていて、話が通じないよ。
何が起きたのかも、分かってない。
左足首と手首が痛いと言ってるから、病院に運ぶよ。
そうそう、あなたは、怪我してないの?』
「はい、大丈夫です。」
『そう、それじゃーパトカーの後ろに乗ってもらえる?』
パトカーに乗ると、免許証や保険証を求められました。
20分くらいで話も終わり、家が近いこともあって、
一度帰って、濡れて汚れた服を着替えてから、
調書作成などのために警察署に来るように言われました。
『バイクは壊れてないのかな?』と言われて、
見に行こうと、パトカーから降りようとした時です。
「痛い!」 右足に激痛が走りました。
警察官が、私の様子に気付き、『足が痛いんだな? 座ってなさい。
良くあるんだよ、少し経ってから痛くなる事が。
今、救急車、呼ぶから。』と、言い、無線で話し始めました。
その間に、ほかの警察官が、バイクを見に行って、
『ダメだね。ハンドルとフレームが曲がっちゃって、あれじゃ走れないなー。』
と、私に言いました。
私は、ショックを受け、見に行きたかったのですが、
段々と足だけでなく、肘や胸が痛くなってきたので、諦めました。
事故が起きてから、少なからずパニック状態にありましたが、
徐々に落ち着いてきたのが自分でも分かるようになり、
もうひとつ重大な事が頭をよぎりました。
そう・・・おなかの赤ちゃんです!
急に心配になってきましたが、おなかは痛くなかったので、
きっと大丈夫と、自分に言い聞かせました。
ただ、寒さのせいだと思っていた、身体の震えが増してきました。
救急車が来ると、隊員の方に助けられて、救急車に乗り込みました。
横になった方が良いと言われて、ストレッチャーベットに横になりました。
『どの辺が、痛いの?』 と聞かれながら、膝を曲げたりしていた時でした。
隊員の方が、『あっ! どこか出血してるぞ!』 と言い出しました。
ブルージーンズをはいていたのですが、
見てみると太ももの内側が、赤黒く染まっていました。
私は、心臓が止まりそうになりました。
「妊娠しています。もしかして・・・」
それ以上は、声になりませんでした。
すぐに病院に着き、処置室に運ばれました。
濡れて汚れていた服をすべて脱ぐように言われ、手術着を渡されました。
この時はじめて、自分の身体が、思った以上に傷ついていることに気付きました。
右足の膝から足首にかけて、青く腫れ上がり、
服も脱ぎづらいほどに、右手の肘も腫れて、左胸も青くなっていました。
でも、そんなことよりも、私は、ショーツが真っ赤になっていたことが、
死ぬほどショックでした。
そんな思いのせいか、急におなかも痛くなって来ました。
処置中も、祈るような気持ちでいましたが、
結局、祈りは届きませんでした。
私は、取り返しのつかないことをしてしまいました。
大事な命を、自分の不注意で、殺してしまったのです。
次から次へと、溢れ出す涙。
我慢出来ずに、声を出して泣いてしまい、看護師さんを困らせてしまいました。
そのあとは、レントゲンなどを撮ったり、検査をしましたが、
骨折などの異常は無く、他に手術は必要ないことが分かりました。
病室に運ばれ、そのまま1週間入院することになりました。
隆志の状態を思うと、とても許されない不注意。
もう、死んでしまいたい。
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)