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胸の傷と心の傷  作者: 乙女一世
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第69話:悪い予感

隆志は、次の金曜日に転院する事になりました。


私は、どうしていいのか悩みました。


栃木まで、毎日通うわけにはいかないし、


病院の近くに、アパートを借りて住むことも考えました。


でも、お父様に、別れてくれないか、と言われているのに、


そんなことをして、そばにいても良いのかどうか・・・。


お母様に、相談しようとしても、どう言っていいのか・・・。


結局、この話には触れずに、今日1日は終わりました。


次の日は、朝から曇りがちで、肌寒い日でした。


いつものように、午後1時頃、兄貴から借りている車で、


お母様と病院へ向かいました。


結局、この日も、隆志の意識は戻らないまま時間は過ぎて、午後6時に帰る事にしました。


病院の駐車場に止めてあった車に乗り込むと、私の携帯が鳴り出しました。


会社の管理の中村さんからでした。


書いて欲しい書類があるのと、給与明細を渡したいので、


出来れば、これから営業所まで来て欲しいとのことでした。


営業所は、アパートから病院とは反対の方向にあるので、


一旦、お母様とアパートまで帰ってから、営業所へ行く事にしました。


営業所は駅の近くに有り、周辺は駐車の取締りが厳しいのと、


車よりバイクの方が早いので、1時間くらいで戻る気軽なつもりで、


バイクにまたがりました。


ヘルメットを被ろうとした頃には、暗くなっているのに、


うっかり、スモークシールドのヘルメットを持って来てしまいました。


取替えに戻るのも面倒なので、「まっ、いいか。」と、そのまま出てしまいました。


しかし、このことが、取り返しのつかない事への道しるべになってしまいました。


帰宅ラッシュ時間帯でもあり、営業所に着くのに、普通より5分ほど多く、


20分掛かってしまいました。


営業所のドアを開けると、『おー久しぶり!』と、中村さんが迎えてくれました。


仕事をせずに、待機扱いとされるために、書類が必要ということで、


その場で記入しました。そして、いつもの半分くらいしかない


給与明細を受け取り、用件は済みました。


ビルの外に出ると、雨が降り出していました。


「まいったなー。雨カッパも持ってないやー。大失敗! 


止みそうもないし、15分くらいだから行っちゃえー。」


5分ほど走ると、雨は急に強くなりだして、どしゃぶりになりました。


ヘルメットのスモークバイザーが災いして、凄く見づらい状態となりました。


バイザーを開けてみましたが、雨が強すぎて、目が開けていられないので、


ほとんど閉めた状態で、走り続けました。


対向車のライトが当たると、何も見えなくなってしまいます。


タイヤも、ズルズルと滑りました。


滑ること自体は、慣れているので、大したことでは無いのですが、


見えないのには、本当に参りました。


10分も走っていると、服もびしょ濡れになり、


中までしみて寒くなり、早く着きたい気持ちになって、


運転にも影響していたかもしれません。


アパートも近くなり、大通りから脇道に入りました。


大通りでは、良く見えないながらも、車の流れにのって走れました。


ここからの脇道は、交通量も減り、歩道も無く、街灯も少なくなり、


濃い色の服や黒っぽい傘を差した人が、見づらくなります。


そして、その時が、訪れました。


電柱にもたれ掛っているたて看板に、7メートルくらいまで近づいた時でした。


黒いコートに傘をかついだ男が、たて看板の裏から、


突然、私の目の前の道路に、フラフラと出てきました。


「うそーっ!」


(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)


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