第67話:別れ話
日曜日になり、栃木からお父様も来られましたが、
隆志の意識は戻っていませんでした。
池田君は手術後も、仕事帰りによってくれていましたが、
この日は、小林君や山川さん、岩田さんを連れて来てくれました。
意識の戻っていない隆志を見ると、みんなは暗い表情で帰っていきましたが、
池田君は、『きっと、良くなるよ。』と,
私の手にお守りを渡してくれました。
そう・・・私は、もしかしたら、このまま意識が戻らずに・・・
と、悪い方へ考えていました。
池田君は、そんな私の気持ちを察したのか、気持ちが洗われるようなお守りでした。
『中村さんが心配してたぞ。 連絡もよこさないし、電話しても出ないそうじゃないか。』
「いいの、もう。働く気ないから・・・。」
『だったら、そう言わないと。 中村さん、青山の代わりを入れる様に言われてて、
でも、青山の事考えて、誰も入れずに、ひたすら毎日謝ってくれてるんだぞ。』
「そう。 さっさとくびにすればいいのに。」
『おい!』
池田君は、うつむいている私の腕を軽く掴みました。
私は、反射的に、顔を上げて、彼を見ました。
すると、彼の顔色が変わりました。そう、私が泣いていたからです。
『何泣いてんだよ。』
「何って、あんたが、お守りなんて、柄でもないものくれるからだよ。」
『何だよそれ。』
「うれしかったよ。御守りなんて貰ったのは、何年ぶりかな・・・」
『あー、俺も、買ったのなんて、何年ぶりだか・・』
「結局、人間って、自分の力で何もできない時って、神様に祈るしかなくなるんだよね。」
『人間なんて、いかに弱い生き物だってことだな。』
「今から、中村さんに電話してみるよ。」
『そっかー、それがいいな。じゃー今日はこれで帰るよ。』
それから、私は、中村さんに電話をしました。
とりあえず、隆志の状態が、安心できるまで、仕事はしないと。
結局、今働いている工場は、辞めて、待機状態となりました。
無論、給料はでませんが、貯金があるので、当分は何とかなるでしょう。
これで、毎日、隆志に付ききりだ。
しかし、私がこう決めたにもかかわらず、事態はあらぬ方向に向かいます。
この日、お父様は、直接栃木に戻らずに、お母様とアパートに来ました。
少し落ち着くと、ご両親は私の前にお座りになり、ゆっくりと話し始めました。
『遥さん、うちのと、別れてくれないか。』
私は、思ってもいない言葉に、愕然となりました。
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)