第65話:手術の終わり
手術は終わらぬまま、夜の9時になりました。
中村さんが、池田さんと私に、もう帰る様にと、促しました。
私は、手術が終わるまでは、帰るつもりは無かったので、半分むきになって言いました。
「私が、帰れるはずないじゃないですか!
こんな気持ちじゃ、明日、仕事なんて出来ないし、
くびになったっていい。隆志のそばに居たいんです。」
一方、池田さんは、違っていました。
隆志のために、明日の仕事を休むわけにはいきません。
親友と言うほどの仲ではないのですから・・・。
『じゃー、無理すんなよ。きっと、大丈夫。』と、
私に言って、池田さんは帰って行きました。
そして、時間は過ぎて、12時となりました。
隆志のお母様が、私に、帰って休むようにとおっしゃいましたが、
私は、まるで、幼稚園の子の様に、首を横に何度も振って、
「嫌です。そばに居ます。」と、言うことを聞きませんでした。
少し、印象を悪くしたかもしれません・・・。
おなかの赤ちゃんの事も考えなくてはいけない立場なのに・・・。
でも、自分でも、どうすることも出来なかったのです・・・。
中村さんも、疲れてきたのか、居眠りを始めました。
いったい、手術はいつ終わるんだろう?
でも、もし、悪い結果なら、このまま終わらないで欲しい。
何かを考えると、悪い事ばかり考えてしまう・・・。
だから、私は、隆志と出会ってから、今までのことを思い出していました。
隆志のお父様が、席をはずし、しばらくすると戻ってきました。
すると、私の前に立ち、暖かい缶紅茶を手渡してくれました。
何か話し掛けたかった様にも、見えましたが、
また、座って目を閉じてしまいました。
時間は更に、過ぎて、午前4時を回りました。
と、その時、手術中のランプが消えました。
ついに、手術が終わりました!
少しすると、扉が開き、
一人の医師が出て来られて、私たちは立ち上がりました。
私は、足が震えていました。
「聞くのが、怖い・・・」
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)