第64話:重い時間
時間がゆっくりと過ぎて、私も落ち着いてきました。
ふと顔を上げると、池田さんが、いつ買ってきたのか、
サンドウィッチと、缶ジュースを差し出していました。
いつかのお昼休みのように・・・。
『おまえのことだから、昼飯も食わないで、来たんだろ?
おなかの子にもドクだし、食わないとダメだよ。』
私は、池田さんの優しい目を見ながら、うなずきました。
それから、中村さんが、事故の様子を話してくれました。
話の間にも、中村さんは、電話のために、何度も外に出て行きました。
中村さんは、中村さんで、責任関係やら、後処理で大変そうですが、
今の私には、そんな事はどうでもよかった。
何をする事も無く、重苦しい時間が、過ぎていきました。
私が来て5時間が経ち、外は、暗くなってしまいました。
中村さんが、お腹が空いたらしく、外に食事に出て行きました。
1時間程して、中村さんが戻り、そばにファミレスがあると言うので、
池田さんと私が、行く事になりました。
しばらくして私たちが、戻ってくると、中村さんの隣に、人影がありました。
近づくと、そこには、隆志のご両親が・・・。
私は、何てご挨拶していいのか分からず、一瞬、足が止まりました。
それでも、池田さんに連れられて、そばに・・・
すると、お母様が、私に気が付き立ち上がりました。
『遥さん、そばに居てくれたのね。疲れたでしょ?
もう帰って、休んでちょうだい。あとは、私たちが、就いてるから。』
「でも私、とても一人で、うちに居られません。
一緒に居させてください。」
『ありがとう。それじゃ、もう少しね。』
それから、お母様が、看護師さんから聞いたことを話してくれました。
それは、お腹から下が、潰されていて、助かるかどうかも微妙で、
たとえ命が助かっても、歩く事はおろか、立つことも出来ないでしょうとのこと。
それを聞くと、私はまた、涙が止まらなくなりました。
私には、こんな現実は、とても受け入れられませんでした。
「どうか神様、これは、悪い夢でありますように・・・」
祈るような気持ちで、ほっぺを、つねってみましたが、
やっぱり、痛くて、すごく痛くて、死ぬほど痛くて・・・
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)