第63話:手術
『大丈夫か? 青山さん。』
小林さんが、顔色が悪くなった私を心配して声を掛けました。
でも、私の耳には何も聞こえてきませんでした。
少しすると、涙が溢れてきて、止まらなくなりました。
自分でも何を言ったのだか憶えていませんが、
急に歩き出そうとして、倒れてしまい、小林さんと
山川さんに支えられて、すぐ横の談話室の長いすに、横にされました。
10分程して、やっと落ち着いた私は、隆志の所に行く事に決めました。
足のふらつきも取れ、職場に行き、
職長さんに具合が悪いと言って、早退しました。
ぼーっとしていた頭が、段々とハッキリして来て、
「早く行かなきゃ」という焦りに変わりました。
バイクにまたがり、道に飛び出しました。
とても、普通に走れる心境ではなく、すぐに100キロ以上出していました。
白バイやネズミ捕りなど、そんなこと気持ちから飛んでいました。
運良く捕まる事も無く、近くまで来ましたが、具体的に工場の場所が分からず、
どうしようか考えて、コンビニで地図を立ち見しました。
工場に着くと、守衛所で許可書をもらい、中へ入りました。
でも、どこに行っていいのか分からず、管理の中村さんに電話をしました。
『はい、中村です。』
「今どこですか? 隆志は、どうですか?」
『中根君の運ばれた病院に来てるよ。中根君は、手術中だよ。』
「なんていう病院ですか? 私、今、山産に来てるんですけど。」
そんなやりとりのあと、
私は急いで、隆志の居る病院に向かいました。
病院に着くと、手術室近くの、待合席に、
中村さんと池田君が居ました。
「隆志は? 隆志は、どうなんですか? 死なないですよね。」
私は、半べそで、2人に聞きました。
中村さんが、重い口調で、答えてくれました。
『手術が終わらないと、今は、何とも言えないよ。』
「そんなー! 何とも言えないなんて! そんなにひどいんですか?
あなたが、転勤なんてさせるから・・・あぶない仕事させるから・・・」
私は、段々冷静さを失い、叫びだしました。
「私たち、結婚するんですよ!隆志が死んだら、どうしたらいいんですか!?
おなかには、赤ちゃんだっているのよー。
やっと、やっと掴んだ幸せなのに! そんなのひどい〜 。」
私は、床に座り込み泣き崩れました。
すると、中村さんが、優しく抱えてくれて、ソファーに座らせてくれました。
池田君は、このやりとりを、一言も無くただ見ていました。
彼にとっては、隆志の事故もそうですが、
私の口から、結婚、妊娠を聞いてショックだったんだと思います。
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)




