第61話:ご挨拶
車から降りて、いよいよ彼の実家の玄関前に立ちました。
そして、彼が玄関の扉を開けたら、私は、完全に固まりました。
『いらっしゃーい! どうぞ、お入りになって!』
「は・は・はじめまして・・・青山遥と申します。
隆志さんとは、お仕事でいつも助けていただいて・・・」
『堅苦しい挨拶は抜きにして、さーどうぞ、お上がりください。』
「は、はい。 お邪魔します。」
靴を揃えて、上がると、和室に通されました。
隆志が色々と、私の事について、話し始めました。
しばらくすると、同棲していることも話し、
そして、お腹に居る赤ちゃんの話しになりました。
さすがに、驚いていましたが、彼が説明しているうちに、
落ち着きを取り戻し、私にも、意見を求めてきました。
私は、愛している事、こどもが欲しい事、一生懸命である事を告げると、
ご両親は、にこやかに、孫の誕生を喜んでくれました。
話は進み、隆志は、私の病気の事を、話し始めました。
この時、ご両親の顔色が、曇ったのを私は、感じました。
隆志は、私をかばって、色々がんばってる私の事を話してくれましたが、
お母様は、そんなことではなく、癌の転移、再発が心配のようでした。
隆志は、5年も経ってるし、そんなことは無いと言ってくれましたが、
実は、そのことを毎日心配しているのは、私でした。
手術をしてからの4年間、男性とはなるべく関わりを持たずに、
恋愛を避けていた理由は、胸を見られる恥ずかしさ、
見たことでの相手の感情の変化が確かに嫌だった事も有りましたが、
結婚のことを考えた時に、転移、再発の事が、心にのしかかっていたのです。
私の顔から、笑顔が消えたのを見て、お父様が、話し始めました。
『まー、ご本人が、一番苦しんでることだろうし、結婚してから、癌になって、
大変だから離婚しろと言うような親はいないし、
当人が納得してればいいんじゃないか?』
私は、重たい荷物を降ろしたような、ほっとした気分になりました。
でも、お母様は、浮かない顔で、「そーねー。」と一言。
今、聞いたばかりで、すぐに呑みこめる話でもないので、
結論を急がない事にしました。
お寿司を、頼んでいてくれていたようで、色々お話をしながら、頂きました。
隆志が気を使って、帰るタイミングを計ってくれて、おいとまする事にしました。
どのように思われたか、少し心配でしたが、あせっても仕方のない事なので、
何度かお会いするうちに、打ち解ける事を期待するしかありませんでした。
そして、次の日は、隆志が私の実家に、やって来ました。
兄貴が、父親代わりとか、言っちゃって、同席しましたが、
兄貴は、以前に隆志の事が気に入って、私の秘密をベラベラとしゃべって、
隆志と私を結びつけた張本人でした。
母は、私が結婚しないかもしれないと、思っていたらしく、
孫の誕生のことも知って、終始にこやかに話していました。
そんな中、隆志が急にあらたまって、母と兄貴の前で正座をはじめました。
そして、
『遥さんを、私にください!
遥さんの事を1番に考えて、悲しませるような事はしません。』
それを聞くと兄貴は、「よく言ってくれた、もってけドロボー」
まったく何言ってんだか・・・私は、呆れかえってしまいました。
しかし、感激している人・・・若干1名!
な・なんと・・・隆志が、兄貴の手を握り、涙を流しながら、
「ありがとうございます。」を連呼していました。
あ〜これが、ドラマで、よくあるシーンか〜〜
とうとう、自分にこんなシーンが訪れたとは・・・・・・
イヤ違う! なんか、違うぞ〜!
おい隆志、プロポーズ、まだだぞ〜〜! 指輪、くれ〜〜!
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)