第57話:妊娠
『2ヶ月目に入ったところですね。』
「そうですか・・・。」
やっぱり、どうしよう〜。
先生は、ほかにも何か言ってたけど、全然耳に入って来ませんでした。
とにもかくにも、現実は、はっきりしたわけで・・・。
私のおなかには、隆志との・・・新しい命が、生きている。
これから、どうしよう〜。
子供が欲しいって、言っていたけど、本当かどうか・・・。
ゴムを着けたくなかっただけかもしれないし・・・。
本当に妊娠したことを知って、隆志は何て言うのだろう・・・。
隆志にどうやって話そう。 何て話そう。
子供が欲しいって云う彼の言葉を信じて、率直に言う?
妊娠を知って、離れていった男の話なんて、五万とあるし。
だったら、おろす?
ばか。そんなこと、出来るはず無い。
何て言おう?
ずっと、そのことばかり考えました。
ここに居ても、仕方ない。とりあえず、家に戻るか。
妊婦には、当然良くないバイクに股がり、家に戻りました。
テレビを見ても、目が見ているだけで、頭の中は、ずっと同じことを考えていました。
お昼ご飯を食べる事も忘れて、隆志がおろせと言ったら、どうしようとか・・・。
私が、産むと言って、けんかになったらとか・・・。
不安な方向にばかり考えてしまう・・・。
段々と、隆志の帰ってくる時間が近づくにつれて、落ち着かなくなってきました。
考えがまとまらないまま、私は、パニック状態になり、バイクに股がり、家を出ました。
あてもなく走り始め、なんとなく山下公園に来てしまいました。
暗くなった公園は、カップルの楽園となっていました。
船を眺めて、ボーッと、していましたが、
こんな所、返って落ち着かなくなり、家に帰りました。
「ただいまー。」
『お帰り! 風邪は大丈夫なの?』
テーブルの上には、オムライスとロールキャベツが有りました。
私がしなきゃいけないのに、いつもちゃんと料理をしてくれる。
疲れて帰って来ているのに、いつも笑顔でいてくれる。
「隆志・・・いつもありがとう。」
『あ〜。どうした? さぁ、食べよう。』
私は、胸が苦しくなり、泣き出してしまいました。
『どうした? 何か有ったの?』
「ん〜ん。何でもない。」
隆志の作ってくれたオムライスを食べながら、話しました。
「今日、病院行ってきたの。」
『うん。風邪だって?』
「違うの。産婦人科・・・。」
『えっ? 』
隆志の箸を持つ手が止まり、隆志の目が私をみつめました。
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)