第49話:外泊
私が、外のベンチで、泣き止んでうなだれていると、
手に、サンドウィッチと、缶ジュースを持った、池田君が、私の前に立ち止まりました。
『ごめんな! 事情も良く知らないのに、勝手に手を出して・・・。
それに、中根の奴も、青山のこと思って、話したと思うんだ。悪気は無いよ。
これでも食べて、機嫌直してくれないかな?』
「いらないわ。向こうに行ってくれる?」
『そうだよね。あれだけの事があって、簡単に機嫌が直る分けないよな。』
「そう思うんだったら、さっさと行ってよ。」
そうこうしていると、隆志まで、やって来ました。
『そんなに怒らなくたっていいじゃん。
みんな仲間だし、病気なんだから、隠さずに堂々としてればいいじゃん。』
「隆志は、分かってくれていると思ったのに・・・。
何であんなこと言うのよ! もう知らない!」
私は、立ち上がり、逃げるように更衣室へ歩きました。
追いかけてきた池田君が、途中で、私の前に立ち塞がりました。
『食べないと、からだに毒だよ。』
そう言うと、私の手に、サンドウィッチと缶ジュースの入った袋を持たせて、行ってしまいました。
更衣室に行き、お化粧を直していると、気分も落ち着いてきて、
外のベンチで、池田君からもらったサンドウィッチと缶ジュースを口にしました。
食堂で起きたことから、今までのことを思い起こしていると、
何となく、池田君の優しさを感じました。
お昼休みも終わり、気分を変えて、持ち場に戻りました。
少しすると朝から一緒に仕事をしている西田さんが、近寄って来て、話掛けました。
『あんた達、食堂で何してるのよ。
それに、聞いたわよ。
中根君、あなたのことが好きだって言ってたじゃない。
あなたの乳がんのことも知ってるし、あなた、中根君におっぱいを見せる関係だったのね。』
「ち、ちがいますよ! そんなんじゃないですよ!」
『まーいいや。朝言ってた、飲みに誘う話、あなたから、彼に言ってみて。
そういう関係じゃないなら、平気でしょ?頼むわよ!』
彼女はそう言うと、私から少し離れて仕事を始めました。
普通に聞いていたら、あたまにきちゃうことでしたが、今の私には、そんなことよりも、
隆志が、私が思っていた人と違っていたんじゃないかと、不安な気持ちでいっぱいでした。
おしゃべりの西田さんも、あれっきり何も言って来ないで、
目を合わすこともありませんでした。
気の重い時間もゆっくりと過ぎてゆき、1日の仕事も終わりました。
隆志に会わない様に、早く着替えを済まして、バイクにまたがりました。
もう隆志と寝る気になれないので、親友の涼子のマンションへ泊まることにしました。
隆志には、まだ、合鍵を渡していなかったので、入ることは出来なかったのですが、
入れなければ自分のアパートへ戻ると思いました。
彼の顔を見るのも、声を聞くのも、嫌な今の私でした。
涼子に電話して、着替えを持つとすぐにアパートを出て、涼子のマンションに向かいました。
何度もメールや電話が来ましたが、隆志からだと思い無視していました。
でも、涼子の部屋で落ち着くと、
やっぱり気になり、涼子がお風呂に入っている時間に、携帯をチェックしました。
PM6:05
〔遥、ごめん。 みんなの前であんなこと言ってしまって。〕
PM6:54
〔何で、電話に出ないんだよ。メールでもいいから、返事くれよ。〕
PM7:23
〔鍵無くて、入れないよ。待ってるから、早く来て。〕
PM7:51
〔もしかして、帰らない気? でも、俺待ってるから。〕
PM9:03
〔この辺って、静かなところだね。会いたいよ。反省してます。〕
PM10:05
〔昨日は、このドアの中で、2人楽しく過ごしたのに、
今日は、このドアの外で、一人きり。本気で、怒ってるんだね。悪かったよ。〕
何で、自分のアパートに戻らないの!
こんなことして、私の同情を誘う作戦?
もー、帰れつーの、ばか!
でも、隆志があんな場所で、あんなことを言い出す人だと思っていなかったよ。
もっと、深いところで、私のことを解ってくれていると思ってたのに・・・。
それって、独りよがりなことだったのかな〜。
同棲2日目で、別居か〜。
私の気持ちが本気で冷めかけてるかも・・・。
返事返さないと、この恋、終わるかもしれない。
どうしよう・・・。
・・・・・。
でも、やっぱり、いきなり私を理解してもらうなんていうのが、無理なことなのかも。
話し合って、少しずつ分かり合えばいいのかな・・・。
返事返さなきゃ。
メールを打ち始めたときに、涼子がお風呂から、出てきました。
『誰に、メールしてるのかな? 喧嘩してる彼氏でしょーう?
私が悪かったわ。私を捨てないで〜。てか?』
「そんなはずないでしょ! 向こうが悪いんだから。
メールなんかするわけ無いじゃなーい。」
結局、返事は出来ませんでした。
明日、職場でどんな顔して会ったらいいんだろう。
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)