第48話:社員食堂
暴力は、いけないこと。
そんなことは、誰でも知っている。
でも、国家間紛争の最後の解決手段は戦争。
人間は、結局、暴力を認めているの?
この日、私のことで、暴力が起きてしまいました。
西田さんのおしゃべりに耐えて、やっと、お昼休みの時間になりました。
私はいつものように、隆志と食堂に向かいました。
そして、いつものように私たちのグループが陣取ってる場所に近づいていくと、
丸山さんがいました。
先週までの私ならば、喜んで隣に座って、楽しいお昼休みを過ごしていたのですが、
今日は、顔も見たくありません。
しかし、その気持ちは、一緒にいた隆志の方が強かったようでした。
隆志は、丸山さんを見るや否や隣に立ち、『外に出ろよ!』と、言い寄りました。
丸山さんは、無視を決め込んでいる様子で、反応しません。
私は、隆志に、「もういいよ! 向こうへ行こう。」と、彼の腕を引っ張りましたが、
隆志は、無視している丸山さんの態度にも腹がたったようで、
丸山さんの腕を掴み、引っ張りました。
丸山さんも仕方ない感じで立ち上がり、言いました。
[何だよ! 青山とのことでお前にとやかく言われる筋合いは、ねえよ!]
それを聞いて、隆志が興奮して、言いました。
『俺は、青山が好きなんだよ!』
丸山さんは、馬鹿にしたような顔で言いました。
[そーかよ!それなら、いいこと教えてやるよ!
青山の右のおっぱい、パット入りの偽物だぜ!
ペチャンコで、ミミズみてぇな傷が有って、乳首までねえでやんの!]
私は、聞いていられなくて、両手で耳を塞ぎました。
すると、次の瞬間、丸山さんが殴られて、倒れ込みました。
そこには、隆志ではなく、こぶしを握った池田君が、立っていました。
〔お前みたいな奴は、とっとと、うせろ!〕
丸山さんは、顔を押さえて立ち上がり、[お前ら、バカじゃねーの?]と、
言って食堂から出て行きました。
周りの人達は、食事の手を止めて見ていましたが、
丸山さんが出て行くのを見ると、何事も無かったかのように元に戻りました。
私は、突っ立っている池田君に言いました。
「何で、そこで池田君が出て来て、いきなり丸山さんを殴るのよ!」
〔だって、ひどいこと言ってたし、青山を見たら泣きそうな顔してたし・・・。〕
「だからって、いきなり殴らなくったて・・・。」
おいしいところを横取りされた感じで、隆志がむっとした顔で言いました。
『そうだよ! いきなり殴るのは、良くないよ!
僕が奴と話してたんだから、出てきて欲しくなかった。』
冷めた感じで、池田君が返しました。
〔何言ってんだよ。けんかしたこともないくせに。〕
繭をしかめて、隆志が言いました。
『何だとー・・・。殴ればいいって問題じゃないだろ。
あれじゃ、あいつは反省しないし、青山にだって、謝らないよ。』
池田君が、呆れた顔で、言いました。
〔丸山が反省すると、思ってんの?
20歳過ぎたら、人間の性格なんて固まっちゃってんだよ。
反省するような奴は、はなっから、そんなことしねえよ!〕
私は、聞いていられなくなり、割って入りました。
「もうやめてよ! 私、もう行く!」
隆志が、私を止めようとしました。
『待てよ。めし食ってないじゃん。』
私は、泣き出しそうな気持ちを、我慢して言いました。
「いらない。大きな声で言うから、回りの人まで私の胸のこと聞いちゃったし、
さっきから、みんなが私の胸をチラチラ見てるの分かるもん。もう、居られないよ!」
〈ごめん! そんなつもりで、見たわけじゃないんだ。〉
小林君が、頭を下げながら言いました。
〈ごめんなー。俺も、つい目がいっちゃただけで・・・。〉
山川さんが、頭をかきながら、言いました。
「いいよ。別に責めてるわけじゃないし、2人だけじゃないから。」
何を思ったのか、隆志が言い出しました。
『この際だから、言うけど・・・。
青山って、乳がんの手術して、右胸が無いんだよ。
彼女凄く悩んでて・・・。』
私は、言葉を遮る様に言いました。
「やめて! 何でそんなこと、みんなに言うのよ! 隆志のばか!」
私は、食堂を飛び出して、外にあるベンチに腰掛けると、泣き出してしまいました。
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)