第43話:中根君の気持ち
私は、中根君に、部屋に上がるように言い、玄関に鍵を掛けました。
中根君が、靴を脱ぎだすと、カーテンを閉めました。
中根君は、どうして良いのか分からないまま、部屋に上がりました。
そして、私は、中根君の目をしっかりと見て言いました。
「私のことが好きだなんて、簡単に言わないでよ!
あなたに、何が分かるのよ!
あなただって、これを見たら、嫌いになるに決まってるわ!」
私は興奮したまま、着ていたポロシャツを脱ぎ捨て、一気に、ブラをはずしました。
彼の瞳に、私の胸が映ったのが、分かりました。
そして、私は、泣きながら、言い放ちました。
「どーよ! これを見ても、まだそんなこと言える?」
彼は、無言のままじっと、見ていました。
「黙ってないで、何か言いなさいよ!」
『・・・・・。』
「ほら、やっぱり嫌いになったんでしょ、無理しなくていいから、もう出てって!」
彼が、私のこの言葉を、かき消すかのように、言いました。
『嫌いになんか、なるものか!
これは、立派な勲章だよ。頑張って生きてきた証じゃないか。
生きるために、大変な手術を乗り越えて、今まで頑張って来たんだろ。
ずっと1人で、毎日悩んで、苦しんで、それでも恋愛を諦めずに、丸山を信じたのに・・・。
その苦しみ、僕が引き受けるよ。
もう、胸のことで悩むことなんかないよ。』
彼の目から、涙がこぼれました。
私は、その彼を見て、言葉を失いました。
『もっと早く、遥を見つけることができなくて、ごめんな。
僕が手術の前に、出会ってれば、こんな苦しい思いさせなくて済んだのに。』
いつしか私の涙は、うれしい涙に変わっていました。
そして、彼は、私の前まで歩いて来て、私をぎゅっと、抱きしめました。
「こんな胸でも、ほんとにいいの?」
『当たり前じゃないか。』
そう言うと彼は、私を押し倒して、胸の傷に顔を近づけて、やさしく舐めてくれました。
私は、いきなりの彼の行動で、恥ずかしくもあり、抵抗しました。
「だめだよ、そんなこと。恥ずかしいよ。」
でも、その抵抗も、形だけのもので長くは続きませんでした。
右胸に、乳首は無かったので、あの感じ方とは違ったのですが、
私が、こんなにも嫌いだったこの胸を、彼は嫌がらずに、
やさしく舐めてくれている事に、特別な感情が湧いてきました。
私は、この彼の行為により、からだが硬直してしまい、動けませんでした。
「ねぇー、もう、やめて、恥ずかしいわ。」
『嫌なの? 怒った?』
「そうじゃないけど、あなたの気持ちは分かったから・・・。」
『嫌じゃないなら、いいだろ?』
彼はそう言って、舐め続けて、右手で私の左の胸を触り始めました。
「ダメだってば・・・。」
『ずっと、ずーっと、前から好きだったんだ。
僕は君を悲しませたりしないよ。ずっと、守るよ。』
「ありがとう。だけど、もう止めて。」
彼は、止めようとはしませんでした。
彼の手は、スカートのファスナーをはずし、そのまま全てを脱がされました。
私は、恥ずかしくて、両手で顔を覆いました。
何度も「やめて・・・。」っと言ったのですが、
彼は止めるはずもなく、自分の服も脱ぎ捨てました。
考えてみれば、私の一番近いところに居て、いつも助けてくれたのは彼でした。
丸山さんに浮かれて、彼のことをちゃんと見ていませんでした。
丸山さんに、嫌われるとは覚悟しつつも、ほんの少しの願いをこめて、ホテルに行った私。
彼のひどい言葉に、この世界から消えてしまいたいほどのショックを受け、
このどうしようもない気持ちを受け止めてくれる場所を、求めていたのかもしれません。
この時、中根君との出会いが無かったら、私はどうなっていたかわかりません。
彼の言葉で、私の心は救われました。
もう、彼を信じることにして、彼に身を任せました。
彼はそれが分かったのか、うれしそうに疲れて寝るまで、愛してくれました。
そして朝がやって来ました。
目を開くと、目の前に彼のにこやかな顔が迫っていました。
『おはよう。』と、言いながら、キスをして、
彼はそのまま、また、愛してくれました。
私は、まだ目が覚めていない状態で、
半分夢の中のような気持ち良さの中で、やすらぎを感じていました。
【これが幸せって言うのかな。
彼は、おっぱいの無いこのからだを、こんなにも愛してくれる。】
しばらくして、彼も、おとなしくなりました。
「朝から元気だね。」
『当たり前じゃないか。ずっと好きだった遥と、こうしているんだよ。
今、元気出さなくて、どうするんだよ。』
「ふ〜ん、そうなんだ〜。 ねー、今日どうするの?」
『俺は、このまま、遥とゴロゴロしていたいな。』
「えー? もう私は、いいよ。
でも、私のこと本当に、好きなんだよね?」
『うん。好きだよ。大好きだよ。愛してる。』
「信じていいんだよね? ほんとに、いいだよね。」
『あぁ。僕は嘘はつかないよ。大丈夫。』
私は、前の彼氏に別れを告げられて以来、
長く続いた暗いトンネルに光が見えたような安堵感に包まれていました。
ただひとつ、心配だったことがありました。
彼は、ゴムを着けていなかったのです。
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)