第41話:管理人室
急に開いたドアのせいで、しゃがみ込んでいた私に、話し掛けるおばさんがいました。
『あんた! 何やってるの? いいから、こっちへお入り!』
何だか分からない私は、立ち上がると、また外に向かおうとしました。
すると、おばさんは、私の腕を掴み、部屋の中に引っ張り込み、ドアを閉めました。
「何するんですか!」
『あんた、そんな格好で、外に出る気?
何が有ったか知らないけど、少し落ち着いて、服を着てから出て行きな!』
『ほれ、これでも飲んで。』
目の前のテーブルに、麦茶が置かれた。
少し落ち着いてみると、ここは、管理人室のようでした。
奥に、監視モニターが有り、金庫が見えました。
『どうやら、落ち着いたようだね。そのソファーに座りな。
あんた、乳がんの手術したんだね。喧嘩の原因はそれかい?
まーそういうことは、話したくないだろうからいいけどさ。
その格好で外に出ちゃだめだよ。
モニター見てたら、びっくりしちゃったわよ。
パンツ1枚で、泣きながらエレベーター乗ってると思えば、
そのまま外に向かって走り出してさ〜。』
「すみません。」
私は、服を着ながら、彼が、胸の傷を見てひどい事を言ったので、
こんな格好で部屋を飛び出したことを話しました。
『タクシー呼んでやるから、待ってな!』
少しすると、高校生の女の子が入って来ました。
『ただいまー。外でタクシー待ってるよ!』
私は一瞬、この子が何だか分からなかったのですが、私と目が会うと、
『こんにちは。』
と挨拶されて、「こんにちは。」と返しました。
あ〜このラブホテルは、きっと、この子の自宅なんだ!
年頃なのに、複雑な気持ちだろうな〜と、自分のことを忘れて考えてしまった。
おばさんが、その子に『菓子パンあるけど食べる?』と言うと、
『うん。お風呂出てから食べる。』と女の子は返事をしながら、
部屋の奥に消えて行きました。
『あんた、タクシー来たってよ! もう大丈夫かい?』
「はい。大丈夫です。ありがとうございました。」
私は、ホテルを出て、タクシーに乗り込み、自宅へ向かいました。
ほんの少し進むと人通りの多い道に出て、
さっき、あの格好のまま出てきたら、いったい私はどうなったのだろうと、
ホテルのおばさんに感謝しました。
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)