第37話:希望
私の部屋で待つ2人は、私がホテルで傷ついて、ボロボロになって、
帰って来れないんじゃないかと心配していました。
その心配は、ほぼ当たっていました。
丸山さんとの最後のデート、5回目です。
「男なんか、もういらない!」
海水浴場の駐車場の空きが無くなるのを心配して、
丸山さんは、朝早く行こうと言っていました。
私は、5時半にいつもの場所で、いつものように待っていました。
しかし、私の心は、いつもの期待と喜びとは違い、不安でいっぱいでした。
その1つは、水着になること。
小さなひもビキニを期待している彼でしたが、そんな物、私に着けれるはずもありません。
渋谷で半日かけて悩んだあげく、ビキニはパスして、カットの大胆なものにしました。
それなりに、セクシーなデザインだと思いますが・・・。
2つ目は、Hを予感させる前回の彼の態度と今回の海水浴です。
それなりに、覚悟はしてきました。
でも、希望と絶望のハザマに揺れる不安な気持ちで逃げ出したい。
いつものように、黒のワゴン車がやって来ました。
この幸せな光景は、今日が最後かもしれないな。と、ふと思いました。
いつも、彼からの、『おはよう!』ではじまる1日。今日は、私から、はじめてみよう。
「おはよう!」
『よっ! おはよう! 乗れよ!』
「うん!」
『あれ? 泣いてんのか?』
「ん〜ん〜、朝陽がまぶしくて・・・。
こんな光景、なんて幸せなんだろう、っと思って・・・」
『何言ってんだよ。さぁ、行くぞ。』
「今日ね、お弁当作ってきたよ。特製ピザサンドとおにぎり。
唐揚げとミニハンバーグ、ローストビーフにポテトサラダ。デザートなど。
冷凍物じゃなくて、ちゃんと作ったんだよ。」
慣れない料理。彼との、最後のデートの予感。
でもそうさせたくない、私の小さな、精一杯の抵抗でした。
『朝飯食ってないから、向こう着いたら食べよう!』
「うん。 天気良さそうで良かったね。」
照る照る坊主逆さにしたのに・・・。
海に着くと、7時くらいでしたが、駐車場には結構沢山車が有りました。
海の家にチェックイン?して、一旦ビーチで場所取り、
設営して、休憩がてら、お弁当タイム。
海を見ながらの朝食、彼から、「うめ〜。」の一言。
うそのなさそうな笑顔。
なんて幸せなんだ! お弁当作って来て良かった。
たとえ今日が最後になったとしても・・・。
そして、お着替えタイム。
上に、パーカーをはおり、4年ぶりの水着姿で登場。
『おー。おとなの雰囲気でいいじゃん!』
彼の意外な一言で、ほっとした気分に・・・。
『遥は、焼きたい? 焼きたくない?』
「えっ? あ〜・・私は、焼きたくないかも・・・。」
『分かった。そこにうつ伏せになれよ、クリーム塗ってやるよ。』
「えっ? 自分でやるからいいよ。それに、塗ってきたし・・・。」
『そー言わずに、ほれ、手が届き辛いところもあるじゃんか。
それに、これは、男の役目だから。』
私は、仕方なくパーカーを脱ぎ、うつ伏せに寝ました。
彼の少し固い手の平が、私の背中を滑り出しました。
『おー、背中全開じゃん。ハイレグでお尻も半分出ちゃってるし、いいね〜。』
おやじか? お前は・・・。
背中が終わり、彼の手が、太ももに触った瞬間、思わず声が出てしまいました。
「ギャー。いいよ、いいよ。そこは、自分でやるから。(汗)」
『俺が、塗ってやるって、ほら、じっとしてて・・・。』
そして、半ば強引に、続けようとして、
彼の手は、お尻から太ももの内側へ滑り込んでいきました。
「キャーダメダメ! も〜 どこ触ってんのよー!」
思わず、起き上がってしまいました。
『へへへ〜〜、ごめん。 俺の背中にも塗って!』
そう言うと、彼は、私に背中を向けて、座りました。
私は、手の平を背中に当て、ゆっくりと塗りました。
その手の平から受ける感触から、特別な感情が沸き起こり、
思わず、背中から彼を抱きしめてしまいました。
『俺のこと、好きか?』
「あなたは?」
『もちろん、大好きさ!』
「ほんと?」
『あ〜、ほんとだよ。』
「ほんとにほんと? 絶対?」
『ほんとにほんとだよ。」
「あたしは、ほんとに、好きだよ。」
この時、彼が、私のことを好きじゃないような気がしました。
でも、彼が、本当に私を好きになってくれていることを願う自分が、
彼を放したくないと言っているようで、しばらく抱きついたままでいました。
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)