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胸の傷と心の傷  作者: 乙女一世
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第36話:中根君と兄の対面

私の居ない、私の部屋での、お話です。


あとから、中根君に聞いたことを基にして、書いてあります。




バイクの免許を取得した中根君は、私をびっくりさせようと、


休みの日に朝早く自慢のバイクで、私のアパートにやって来ました。


もちろん私は、丸山さんと海水浴のために、かなり早く出掛けていたので、留守でした。


中根君は、呼び鈴を鳴らしても、私が出てこないので、


私が丸山さんと一緒にいるのではないかと思いました。


それも、この時間、朝8時にいないので、昨日から帰ってないと勘違いをしていたのです。


中根君が、今日、私に会いに来た理由が、もう一つ有りました。


それは、丸山さんのバンドに以前いたことから、今でもメンバーと交流があり、


「丸山さんが、私とのHでお金を賭けている」のを知り、


なんとかその前に、そのことを私に知らせて、別れさせようとしたのです。


ですから、私がお泊りデートだと勘違いをした中根君は、内心穏やかではありませんでした。


携帯で私に電話して来ましたが、デート中の私は留守電にしてあり、


伝言するにも、なんて言っていいのか分からず、切っていました。



アパートのドアの前でたたずむそんな中根君に、ひとりの男が声を掛けました。


私の部屋に置いて行ったある本を取りに来た、私の兄でした。


もともと、この部屋には、兄が住んでいました。


そこへ、大学が近いからと、私が転がり込んで来ました。


それからしばらくの間、同居していましたが、どうも私が邪魔だったようで、


兄の方が、彼女のマンションへ転がり込んで行きました。


私が今使っているパソコンやテレビ、家具、カーテン、本やCD、


それに、水槽で泳いでいる熱帯魚は、兄が置いて行った物です。


中根君が部屋に上がった時に、女の部屋じゃないみたいと言ったのは、こんな理由でした。


そして、兄は、私の様子見も兼ねて、時々来ていた訳です。


「何か御用ですか?」


『はぁ・・・あなたは?』


「この部屋の者ですけど・・・。」


『えっ? ここは、青山さんのお宅じゃ?』


「はい、そうですけど。何か?」


『えっ? 女の人のお宅じゃ?』


「あー、多分それは、妹です。あなたは?」


『お兄さん? えっ、僕は、遥さんと一緒に働いている・・・。』


「中根君だね! 遥から話は聞いてるよ。」


『はい、中根です。』


「遥に仕事のことを聞くと、いつも君の話になってしまうんだよ。


それで・・・、今日はこれからデート?」


『違います。遥さん、帰ってないようなんです。


実は遥さん、バンドの奴らに遊ばれているんです。早くどうにかしないと・・・。』


「ちょっと。何を言い出すかと思えば・・・こんなところで・・・。


取り合えず、中に入って。」


兄は、そう言うと、玄関の鍵を開けて、中根君と部屋へ入りました。


そして、中根君は、賭けのことやバンドのこと、丸山さんのことなどを話しました。


兄は、多少イラつきながら、私に電話しました。


でも、私が電話に出るはずも無く、兄は「至急電話しろ!」と、留守録しました。



兄は、話をしていた中根君の真剣な姿を見て、彼を信頼してお節介にも、


私のことについて、色々と話し始めてしまったのです。


「これから話すことは、きっと遥は、他人には知って欲しくないことだと思う。


その辺を分かって聞いてほしいんだけど・・・。


君は、本当に遥が好きか?」


『はい。死ぬほど好きです。愛しています。』


「僕も君の話を聞いていて、何かピンと来るものを感じたし、


遥を幸せに出来るのは君のような気がする。


遥も君の事を話している時はほんとにいい表情してるんだよ。


だから、君を信用して話すぞ。」


『はい、大丈夫です。』


「それじゃ・・・。


妹は、小さな時から、私と父親に連れられて、カーレースを見に行ったり、


私が、カートを始めると、自分もやると言い出し、ペダルに足が届くようになると、


すぐに乗り初めて、毎週のように走りに行っていた。


そんな中学の時に、激しく他の車とぶつかり、かなりの怪我をして、


さすがの父親も止めさせようとしたんだ。


でも、結局止めずに、毎週父親から離れずに、サーキットに行っていた。


完全な父親っ子だったな。


だから、20歳の時に、父親が、肺がんで死んだときには、


かなりのショックを受けて、塞ぎ込んでしまった。


1ヶ月経っても、元気もなく食欲もなく病人のようで、みんな心配していたんだ。


そんなある日、テレビを見ていたら、乳がんの話をしていて、


自分で心配になったのか、テレビで言っているように、


やってみたら、気になるものが有ったらしいんだ。


心配で母が病院に連れて行ったんだけど、検査を受けたら、


やっぱりそれは、乳がんだった。


落ち込んでいる彼女に、追い討ちを掛けるとても辛い告知だったんだけど、


当時、大学のテニスサークルで付き合っていた彼氏がいて、


その男が一生懸命になって遥を励まし、胸が無くなっても、


結婚して幸せにすると、言ってくれていたんだ。


そんな彼の言葉だけを信じて、妹は手術を受ける決心をしたんだ。


手術は無事成功したんだけど、右胸の乳首も、割と大きかった胸も無くなってしまった。


自分で初めて手術痕を見た時は、本当にショックを受けたと思う。


でも、彼氏や友達が見舞いに来ると、いつも明るく振舞っていたんだ。


そして、退院して、ここで私と暮らすようになったんだが、


毎日風呂から出ると、急に元気が無くなるんだ。


きっと、鏡に写った胸を見て考え込んだんだろう。


そして、ある日、デートから帰った夜、玄関に入るやいなや泣き崩れてしまった。


どうやら、勇気をふりしぼり、彼に胸を見せたら、彼の表情が曇り、


そのあと、会話も無くなり、気まずくなったらしい。


それから、2人はうまく行かなくなったようで、学校もよく休むようになり、


毎晩そのドアの向こうのベットで泣いていた。


その後、彼氏と別れたと聞いて、何て奴だと思ったが、


私が出て行っても、どうにもならないので、


『あんな奴、忘れてしまえ。』と慰めていたんだ。


何日も毎夜、泣き声がずっと続き、さすがに私も、正直苦痛で、


いつまで続くのか悩んでいたんだ。


でも、何とか立ち直ってきたようで、昼間だけでも明るさが戻り、


元気に学校へ行きだして、もう大丈夫だと思って、僕も彼女と住むことにして、ここを出た。


そして、今日のように、月に2、3回様子を見に来てるんだ。」


中根君は、話を真剣に聞いていました。


そのあと、二人は私を見つけようと、心当たりを探し回ったらしいのですが、


見つかるはずも無く、夜また、この部屋で話をして私の帰りを待っていました。



(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)

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