第29話:ライブ
私は、ステージで歌いたかったわけではないのですが、好きな丸山さんに勧められて、
それを断ることで、悪い印象をもたれるのが嫌だったので、言われるままに、
この日を迎えていました。
私と涼子は、観客席で最後のリハーサル風景を眺めていました。
『ボーカルの人が、遥の好きな丸山さんでしょ?
やっぱり目立つよね。カッコいいし惚れるのも無理ないね。
でも、遥に似合った人なのかな?』
親友の涼子が、独り言のように、しゃべりだしました。
彼女は、「言っちゃいけないことかな?」と思う事をしゃべる時は、
このように昔から相手の顔を見ずに、独り言のようにしゃべります。
言ってみれば、長い付き合いの涼子も、私に警告をしてくれていたのです。
でも私は、そんなことお構いなしでした。
「カッコいいでしょう。
もう付き合う約束したんだから、横取りしようとしても駄目だからね。」
『遥の横取りしようなんて、思いませんから〜。遥と喧嘩なんてしたくないですから〜。』
「あっ! それって、その気になれば、取れると思ってるんだー。」
『そりゃ〜誰が見たって、遥と私とじゃ・・・。』
こんな話していると、横から騒がしく、池田君達がやって来ました。
『よーっ! 調子はどう?』
「おはよう! ねぇ! 聞いて聞いて! 私歌っちゃった!」
『すげーじゃん! もう、歌わねぇーの?』
「また歌うよ! 2曲も。」
『マジー。ビデオカメラ持ってくりゃ良かった。携帯じゃ、ちゃんと写れねぇし。』
『ところで、そちらのおきれいな方は、どなたですか?』
と、小林君が早速、触覚を伸ばしました。
「あっ! えーっと、親友の川村涼子ちゃんでーす。」
『川村涼子です。皆さんのことは、遥から、しっかり聞いてますよ。』
すると、質問の嵐が・・・。
『彼氏いるんすか?』『趣味は何ですか?』『仕事は?』
『どこに住んでるの?』『年はいくつ?』『好きなタイプは?』
「おいおい、いったい君たちは、何をしに来たんだー。
これは、ラブワゴンの旅じゃな〜ぃ!」と、つい口走ってしまいました。
親友の私が言うのもおかしいですが、涼子は、メチャかわいいです。
女優の広末由紀に似ています、ハイ。
時間が近づいてきて、スタッフが、私を呼びに来ました。
ステージの横で、丸山さんが待っていました。
『準備はいい? 細かいことは、もう忘れて、思い切って歌って!』
「はい!」
みんなが円陣を組み、手を重ねると、丸山さんが、叫んだ!
『命を燃やせ!』
「GO!」 「GO!」 「GO!」
そして、ステージに上がり、位置に着きました。
ステージの照明がつき、演奏が始まりました。
もう、緊張なんてしていられない。思い切り歌うと決めた。
「♪くちびるをー重ねた日はー♪♪」
さっきより、人が増えている。
歩いている人も立ち止まり、こちらを見ている。
座席に座りだす人も増え、半分以上埋まった。
「♪♪どーしてこわれたーの?フレンディー♪」
見ている人が、リズムをとりだしているのが分かった。
これが、ライブ。気持ちいい。
その空気のまま、2曲目「ストロベリードリーム」に突入!
独特のイントロが場内に響き渡り、さらに座席は埋まった。
みんなが、私の歌を聞いてくれている。
わざわざ足を止めて、座席に座ってまでも。
バンドをしている人達の気持ちが分かった。
この瞬間、紛れも無く私は、バンドのボーカルだった。
そして、この気持ちのいい時間も終わりを迎え、丸山さんが現れた。
「テストソング2曲、盛り上げてくれたボーカルは、青山遥さんでした。拍手・・・。」
目の前にいる人達から、沢山の拍手が沸き上った。
「私に、こんなに沢山の拍手、ライブって素晴らしい!」
私は、ステージを降りて、涼子達の所に行きました。
みんなは、笑顔で迎えてくれました。
ステージでは、丸山さん達がオリジナル曲を次々披露して盛り上がっていました。
ファンの子やスタッフは、立ち上がり、脳波、飛びまくり。
「ライブっていいなー」と、私は、余韻に浸っていました。
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)