第24話:留守録
中根君は、ちらっと時計を見て、立ち上がった。
『もう、帰んなくちゃ。遅くまで悪かったね。』
「泊まっていけば? なーんて、言わないよ!
期待してたりしたら、ごめんね! 私、そーいうの嫌いなもんでさ!」
『そーかー、青山さんはやっぱり思った通りの人だった。
久しぶりに楽しかったよ。それじゃー。』
彼は、笑いながらそう言うと、玄関の方に歩き出し、靴を履いた。
「ここどこか、分かるの? 送っていくよ!」
『何とかなるよ。分からなかったら、タクシーでも捕まえるし、
送ってもらったら、帰りが青山さん1人じゃん。危ないからいいよ。』
「中根君のうちはどこなの?」
『金沢区だけど・・・。』
「えーっ? それじゃ何で、こっちの教習所なのよ。」
『あ〜、仕事の帰りに、うちの方まで来ると遅くなちゃって、
教習の時間に間に合わなくなるかもしれないじゃん。』
「そっかー。こっちなら、7時の教習に間に合うもんね。
でもそれって、毎日、私のバイクに乗るっていうこと?・・・まーいいっか。」
『えっ!いいの? ヤッター。』
「その代わり、仕事でフォローしてね!」
『オー、何でも助けるよ。じゃー。』
「やっぱ、送るよ。この辺は道が分かりづらいし、タクシーも来ないよ。」
『いいよ・・・。』
私たちは、一瞬、見つめ合いました。
ニッコリして、中根君が口を開けました。
『ん〜、それじゃー、近くの駅まで頼んじゃおうかな。』
私達は、バイクに乗りました。
シーンとした夜に、エンジン音が鳴り響いた。
「クォーン。クォーン!」
近所迷惑以外の何物でもない。
私は、近くの駅と言われたけど通り越して、上大岡駅に向い、約15分で着きました。
『近くで良かったのに。』
「こっちの方が特急も停まるしね。・・・まだ、電車有りそうだね。良かった。」
『うん、サンキュー。じゃー気をつけて帰れよ。』
「じゃーね。そっちもね。バイバイ!」
私は、バイクに乗り、うちに帰りました。
ドアを開けて中へ入ると、部屋の空気が、なんだか暑い。
2人で居たことで、空気が違うことに気が付きました。
「これが、ぬくもりというものなのかな〜。」
ふと、携帯を見ると、着信がいくつも入っていました。
丸山さんだった。
しまったー、バイクに乗ってて、気が付かなかったー。
留守録を聞いてみると・・・。
『歌、練習してる? あした帰りにカラオケで練習するから、
食堂のいつもの場所で、待ち合わせな。よろしくー☆』
そーだ! 練習してないじゃん。ヤバー!
・・・でも、何で練習しなきゃなんだろう?
まさか、私がライブで歌う?
あるわけないよ。 メンバーじゃないし・・・。
まーいいや。明日は予定ないし、丸山さんと一緒にカラオケできるなら・・・。
明日が楽しみになって来ちゃった。
ライブは、しあさっての土曜日。
晴れるといいな〜。
「そーだ! てるてる坊主、作ろっと!」
(つづく)(登場する人物・団体・場所の名前、名称は架空のものです。)